4.玄関から激しい音と騒がしい声が聞こえる。 ダンダン!ガンガン! 「コロネローー!居るんだろっ!開けてー!」 ツナか。またリボーンに虐められて泣きつきにきたのか。 そろそろ夕方のランニングに出ようと、着替えていたところだったがそのままで玄関に向う。 手をドアに打ち付けているからまだ騒がしい。 「うるせーぞコラ!」 開けてやると転がるように入ってきた。自分より20cmは低い位置にある頭は爆発しているように跳ね放題だ。 その頭が身体ごとしがみ付いてきた。 「コロネロ〜。」 涙を浮かべて見上げてくる顔は初めて逢った頃と変わらない。細い肩も、小さい頭も、丸みの残る顔やその中に納まるパーツさえ小ぶりだ。大きいのは瞳だけ。 「あ…ゴメン。」 オレの顔を見ると離れてくれた。耳が熱を持っているから顔も赤いのだろう。 変に意識するから赤くなるんだぜ、ヘタレ。 ツナの家に居候している腐れ縁の言葉を思い出して眉間に皺を寄せた。 「気にするな。スキンシップは気安い証だからな。」 その証拠にツナはリボーンに自分からは触れない。曰く、虐められたから触るのが怖い。だと。ざまーみろ! 「赤い顔で言われても困るよ。しかも何でそんなに険しい顔してんの?」 「…何でもないぜ。」 入れと促すと素直についてくる。基本的にツナはオレの言葉には素直だ。 ここに越して来たのはオレが中2の秋だった。ツナの隣に住んでいたリボーンとは同じ中学校になったので知るとはなしに知れるといった具合にお互いの存在は知っていた。 ツナに逢ったのはそのリボーンからの虐めに合っている時、逃げ出した先の草むらの中で寝ているツナを見つけたことからだった。 身体を鍛えるのが好きなオレはその頃から既に朝晩のランニングは欠かさなかった。丁度空き地があるところで一休みと思い草むらに寝転がると手に何かが当たった。 暖かかったので猫か?と覗くと子供が丸くなって寝ていた。それがツナだった。 どうやら逃げ出した安心感で眠くなっていたらしい。 びっくりしたオレはどこか怪我でもしているのかと、その子供を仰向けにしてから観察したり触ってみたりして具合を探った。擦り傷はあれど、大きな傷はないようで安心した。するとその小さな子供がぱちりと目を開けた。 日本人にしては淡い色彩の瞳。零れるほど大きい。 一瞬女の子かと思ったが、着ている服は男の子用だったので男かと少し残念に思ったことを覚えている。 「…あれ?おにいさん誰?外国人だよね。」 「そういうお前は、どうしてこんなところで寝てたんだコラ!」 強い口調にびびったのか後ずさりする。それでもきちんと答えようと視線は外さない。日本人は答えたくないことや誤魔化したい時はすぐに視線を逸らす。それが嫌いなオレはこんな小さい子供でも、ちゃんとしたヤツもいるんだと嬉しくなった。 「あ、あのね。リボーンって…えっと幼馴染みに犬をけしかけれて、オレ犬嫌いだから逃げたんだ。んで、ここに着いたら疲れたから座ってて…。」 「寝ちまったのか。お前みたいに小さい子供がこんなところで寝てるんじゃない。幼稚園児だろ?」 「オレ!小学2年生!」 …これで小学生か。ちっせぇ。 表情に出てしまっていたのだろう、でっかい目が少し釣りあがって睨み付けてきた。 迫力なんてないのだが。 「悪かった。」 「う〜〜っ。酷いよ!外国の人ってみんな大きいからって、リボーンもそうだし。」 そこで思い出した。 「リボーンって、この近所の並盛中2年のリボーンか?」 「そうだよ。…知ってるの?あ、お兄さんの名前は?」 「コロネロだ。1ヶ月前に越してきた。オレも並盛中だからな、噂ぐらいは知ってるぜコラ。」 ただし、こんな子供にわざわざ構うようなヤツには思えなかったけどな。冷たい、誰にでもそつなく接しているが腹の中は見せないスカした野郎だと思っていた。それがどうだ、こんな子供を虐めて楽しんでいるだなんて、胸糞悪いぜ! 「お前、名前は?」 「ツナヨシ、沢田綱吉。小学2年生だよ!」 「沢田?向かいの沢田か?」 そういえば向かいに小学生がいると両親が言っていた。可愛い男の子だったとはしゃいでいたが、成程これは可愛い。小動物系の可愛さだ。 「リボーンに何かされたらオレに言え!向かいだからすぐに飛んでいってやるぜコラ!」 「ホント?!」 といった具合で今に至る。 「今日はどうした。」 「聞いてくれよ!今朝コロネロに自転車で送ってってもらっただろ?」 「そういえば間に合ったのかコラ。」 「充分間に合ったよ…自転車があんなに早い乗り物だって初めて知ったけど。」 肩を震わせている。そんなにリボーンが怖かったのか?可哀想にな。 「それでどうした。」 「うん…まぁいいや。それを見てたらしいんだよね、リボーンが。」 見られていたのは知っていた。ツナの部屋からエアガンじゃない方を構えていたからな。あいつは根性が曲がっている。そんなに好きなら虐めなければいいのに虐めるからオレのところに逃げてくるのだ。 オレにしてみればツナが来てくれるなら理由がどんなでも嬉しい。 今度、一回あいつをぶちのめしてやるぜ! 「コロネロ?おーい、話していい?」 「おう。」 「帰ったらあいつ、何て言ったと思う?」 「オレに近付くなだろ。男の嫉妬は見苦しいぜ。」 「違う…そうなのかな?う〜ん。…それがさ、お前はオレのモノだとか言い出すんだよ?頭おかしいんじゃねーの?って思ったんだけど、そしたら顔近付けてきといてガキ扱いされた!お前の顔なんか見飽きてるんだから顔近付けたくらいで赤くなんかなるかっつーの!自分のお色気が利かなかったからってひとをガキ扱いしてんじゃねぇぇ!」 「…ツナ。」 「何?って、えええぇ!!コロネロ、顔近いよ!」 顎を摘むと上を向かせ、それでも足りないのでもっと顔を近付ける。 近付いた顔にツナの身体が強張った。 「これ以上リボーンと近付いたのか?!」 今度は逆に顔を掴まれると唇まで1センチあるなしまで引っ張られた。 「これくらいまで。って、うわぁぁぁ!ゴメン!」 掴まれた顔を離してくれた。顔は真っ赤になっている。そんなのどうでもいいくらい、近くで見たツナの顔に心臓が踊る。野戦訓練で猛獣と遭遇した時よりよっぽど早く波打つ鼓動が痛いくらいだ。 あの時は仕留めてやる気だったが、今は襲うことすらできない。 黒いスーツを着た幼馴染みが鼻で笑う顔が見えた気がした。 …ダメだ。意気地なしだヘタレだと謂われようとも手は出せない。 小さい頃のままのコイツに手を出したら罪悪感でどうにかなりそうだ。 「早く育ってよコラ。」 「って、どういうこと?!ねぇ、コロネロまでそれ言うの?」 去年より3センチは伸びたんだー!と騒ぐツナを尻目に、重いため息しかでないコロネロ。 色々な意味で早く育って貰いたいものだ。まったく。 . |