リボツナ2 | ナノ



虹に、終わりは無い




冬の5時台はまだ朝日すら顔を覗かせていない。凍えるような冷たさでも、仕事柄慣れっこなオレは霜柱を踏み締めながら暗い原っぱを横切り、ペースを落とすことなく走り続けた。

久しぶりの休暇に取り立ててすることもなく、いつ呼び戻されてもいいようにと毎朝のランニングをおえて帰ってくれば、キッチンからは味噌汁のいい匂いが玄関先にまでただよってきていた。
教師という仕事はとても忙しいと聞くが、ツナは毎朝キッチンに立つことを放棄しない。

「早いな、ツナ。」

「あ、おはよう!」

誰の趣味なのかは一目瞭然なエプロン姿で振り返るツナは珍しく一人だった。
キョロキョロと辺りを見回しても小ざかしい4男の姿が見えない。

「スカルはどうしたんだ、コラ。」

「委員会なんだって。」

「委員会だと?あのスカルが?」

「そうだよ。スカルってイイ子だから頼まれたら断れなかったんじゃないの。」

そう誉めるツナには悪いが、スカルはそんなボランティア精神に溢れてはいない。大方このぽやんとしたお節介教師に頼まれでもしたのだろう。
どうでもいいかと肩を竦め、椅子に座るとお茶を差し出された。

冷めかけているが、冷たくはない絶妙な温度のそれを一気に煽るとにこっとオレに笑い掛ける。
目の前に暴漢が現れた時よりも激しくなる動悸に、慌てて視線を横へ向ける。弟どもにからかわれるまでもなく顔が赤くなっていることなど百も承知だ。

そんな挙動不審なオレに気付くことなく前に座ると、頬杖をついてため息を吐き出した。

「リボーンがさ、今日も帰って来なかったみたいなんだよね。平気かなあ…」

悩ましげに吐き出された息にまで嫉妬する。

「女んとこじゃねーのか、コラ。」

「コロネロまでそんなこと…。でも、もしそうだったら潔く身を引くよ。安心して。」

そういった意地悪を言うのはマーモンだろう。その言葉に堪えているのか目の下にはクマがうっすらと浮かんでいた。
お茶を手にわずかに下げられた目元から光るものが見えた気がして、言い過ぎたことを自覚する。

「…悪かった。冗談だぜ。」

「うん、分かってる。平気だよ?」

精一杯の虚勢を張るツナに兄に対する嫉妬と、ツナへの吐き出せない気持ちが渦巻く。

最初はただその容姿が可愛いと思っていただけだった。
一緒に暮らしていく内に人を気遣う優しさや、見た目に反して意思のしっかりしたところに惹かれていった。
気が付けば二進も三進もいかないほどの気持ちにまで膨らんでいた。

頬杖をついて少しぼんやりと焦点が定まらない様子のツナに手を伸ばしていると、玄関先から物音が聞こえた。
パッと顔をあげそちらに向かおうと腰をあげるツナの手首を掴むとびっくりしたように振り返った。

「なに?コロネロ。」

こんな時間に玄関からの物音があるということはリボーンが帰ってきたのだろう。分かっていても、いや分かっているから手が離せなかった。

「ツナにとって、オレはリボーンの弟なんだろ。」

「どういう…」

意味が分からないのだろうツナに最後まで言わせたくなくて、掴んだ手首を強く引っ張り転がり込んできた細い身体を抱きとめると開いたままの口を自分の口で塞いだ。
時を同じくして後ろの扉がガチャリと開く。

「帰ったぞ。コーヒーをいっぱ…てめぇ、なにしてやがる!」

投げ付けられた鞄を背中で受け止めると、ツナを抱えていた力が抜けてそのままツナは床の上に尻餅をついた。
驚きに見開かれたままの瞳は、ぼんやりとオレの膝から手、肩、顔と辿っていきゆっくりとその後ろに居るだろうリボーンへと吸い寄せられた。

「お、かえり…」

「おかえりって、今コロネロと何してやがった。」

唸るように低い声でそう訊ねるリボーンは怒りをうちに秘めたままそう呟く。
それに呆然としながらも曖昧な笑みを浮かべてツナが言った。

「冗談だろ?お前ら兄弟はみんなこの手の冗談が好きだから…」

「冗談でこんなことするか、コラ。」

言えば肩をビクつかせて恐る恐るといった表情でこちらに視線を向ける。
その顔にニッと笑い掛けると後ろから今度は蹴りが入った。
容赦のない蹴りは臓器を揺さぶるように強く、鍛えているオレでも咳き込むほどだ。
ゆらりと陽炎が見えるほどの憤怒を纏ったリボーンが蹴り上げた姿勢のまま訊ねた。

「てめぇ、どういうつもりだ?」

ツナが帰って来たときに4兄弟でかわされた約束を暗に示していた。
ひとつ、ツナが嫌がることをしない。
ひとつ、リボーン以外は兄弟の域を出ない。

痛さを堪えながら目の前のツナを見ると、どうしていいのかすら分からない表情でこちらを見上げていた。

「どうもこうもねーぜ。ツナが好きだってことだ、コラ。」

「…え?」

ツナの顔をしっかりと見ながら言うと、今初めて知ったというように驚きの表情を浮かべる。あれだけ好きだ別れろと言っていたにもかかわらず、やはり冗談だと思われていたらしい。
後ろを振り返るとリボーンが今まで見たこともない表情でこちらを睨みつけていた。実の兄弟でもゾッとするほどの眼力にそれでも負けじと睨み返した。

「オレはこの家を出る。」

「ちょっと待って!出てくならオレが!」

オレとリボーンの間に入ったツナに首を振ると、はっきり言ってやる。

「リボーンの居ない時に襲われたいのか。そのくらいツナのことが好きなんだぜ。」

「あ、でもお前ら兄弟なんだし…」

「オレはツナがそいつを好きだと知っていても諦めねーって言ってるんだ。この家に居たらツナはオレをそいつの弟としか見てくれねーだろ。」

「そんなこと言われても、」

言葉を失ったツナの手を取ると、怖さにか握った手が震えていた。
やっと伝わった気持ちに押されて最後まで言い切った。

「オレは諦めないぜ。ツナの休みにはそういう意味で誘う。嫌なら断れ。」

真っ赤に染まっていく顔に満足していると、後ろから3度目の衝撃が走った。

「ふざけんな!兄嫁を誑かす弟がどこの世界にいやがる。」

「ここにいるぜ!」

握った手の指先にキスを落とすと、キャパオーバーのためにかツナの意識がなくなってしまった。
その後、意識を取り戻したツナがどうなったのかはまた別の話。


一旦終わり



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