リボツナ2 | ナノ



無邪気に笑う




兄の元に無事帰ってきて一ヶ月、休職という形を取っていた綱吉がやっと復職してきてまだ2日。
以前と変わらずぽやんとした雰囲気のまま、けれどどこか隙のある様は好むと好まざると人を寄せ付けて離さない。
ほら今日も勘違いをしたバカな女が綱吉に声を掛けてくる。

「沢田先生、昨日は遅くまでお疲れ様です。飲み過ぎていたみたいですけど、平気ですか?あの…お弁当作ってきたんで、」

「へ?ああ、平気ですよ。すぐに赤くなるだけで、見た目ほど飲んでいなかったんで。弁当なら自分で作ってきてますけど?」

会話をしているようで、その実噛み合っていない会話を横で聞いていた僕はおもいっきりわざとらしくため息を吐いた。
その隣でスカルも空咳を繰り返す。

「なんだよ、そんなに腹空いてたの?これ持って先に行っててもいいよ。」

やはり理解していないツナは僕に重箱を押し付けた。
面倒になったので顔を赤くして小さくなっている女性事務員を放っておいて、綱吉の手を握るとそのまま連れて行く。

「ちょっと!まだ話は終わってないんだけど。」

「あっちは終わったみたいだよ。」

肩を竦めて後ろを振り返ると女性事務員が足早に逃げていく後ろ姿が見えた。
どうしたんだろうと小首を傾げる綱吉を無視して以前から昼時になると使っていた準備室へと3人で向かう。

「あのな、人の会話の邪魔しちゃダメだよ。可哀想にお前らに睨まれて逃げちゃったじゃないか。」

「失敬な。僕は睨んでないよ。スカルの顔が悪いからじゃないの。」

「それこそ失礼ですよ。オレは何もしてません。強いて言うならツナさんが鈍すぎるのが一番悪かったと思います。」

そうスカルに言われ益々頭の上にクエスチョンマークを散らす綱吉は誰に対しても態度を変えない。平等すぎて涙が出るほどだ。兄のリボーンですら、匙を投げる鈍さに言葉もない。

「…むかつく。」

「胃もたれ?保健室行って胃薬貰ってきなよ。」

「誰が胃酸過多だって言ったの。僕はまだピロリ菌も居ないピチピチなんだよ。」

これだから性質が悪い。
僕のアピールも、スカルの献身という名のパシリも、次兄の赤面症も全部丸々無視される。
長兄はどうやって落としているのか今度こっそり寝室に忍び込んでみようか。

横を歩く綱吉が僕の視線に気付いたのかこちらを振り返って微笑んだ。
ほっそりとしていて小柄な綱吉だが女性に優しく押し付けがましくない心配りができる上に、どこから漏れたのか実家が大企業の家系だと知れたらしく昨日の職場復帰からずっと声を掛けられ続けていた。

しかも昨日は復帰祝いだと連れていかれた飲み会の迎えに長兄が行ったものだから、長兄目当てで声を掛けてくる女教師も多かった。
さすがに自分の恋人は大事なのか絶対に口を割らない綱吉の変わりに僕が兄の情報をばらまいて歩いている。
それで亀裂でも入ってくれれば儲けものだ。

「沢田先生、昨日のお迎えにきた方なんですけど…」

面白いようによく釣れる女教師たちに、もの凄く困った表情でしどろもどろになりながら断りを入れる綱吉の横から何気なく声を掛ける。

「それなら僕の兄だと思います。気障ったらしい黒髪の背の高い男でしょう?」

「え、ええ!マーモン君のお兄さんなの?!」

綱吉を押し退けて喰いつく女教師に兄の携帯の番号とメアドを教えてやると、綱吉は複雑そうな顔でこちらを見ていても遮ることはしなかった。
足取りも軽く立ち去る女教師とは対照的にとぼとぼと歩き出す綱吉に思わず意地悪をしたくなった。

「すごいよね、兄さん。昨日迎えに行って顔を少し出しただけでもう5人も声掛けられてるじゃない。やっぱりモテるんだね。」

「…知ってる。」

「兄さんは昔からずっとあんな感じだよ。モテるし、女の切れ間がない。すぐに浮気されるんじゃないの?」

「マーモン兄さん!」

肩を落として半歩前を歩く綱吉にそう声を掛けるとスカルが声を荒げる。
それには答えず前を歩く綱吉が準備室の前で鍵を開けている後ろにいった。
少し震える手で鍵を開けてから泣きそうな顔で笑いながら僕を振り返る。

「ごめんな、自慢の兄弟の恋人がオレみたいな冴えない男で。」

そう言うとすぐに下を向いて準備室の扉を開ける綱吉の肩を掴むと、強引に押し込んで並んでいる机のひとつに追い詰める。

「何聞いてたの?あんな女ったらしのどこに自慢するところがあるんだい。逆だろ、綱吉みたいな世間知らずがリボーン兄さんみたいな悪い男に引っ掛かったことがそもそもの間違いでしょ。」

「…オレもそう思います。」

後ろで僕に押し付けられた重箱を抱えて入ってきたスカルが、扉をきっちり閉じると同意する。

「でも…!でも、オレ男だし気持ち悪くない?」

今まで聞きたかったのだろう綱吉は、少し躊躇いながらもそう尋ねる。

「気持ち悪いなんて思う訳ないじゃない。どうやってリボーン兄さんを抹殺できるのかなら何度も考えたことあるけど。」

心の底からそう言うと、綱吉は瞬きを幾度か繰り返してそれからにへらと笑み崩れた。
その笑顔の無邪気さに、救われたような気持ちになった。


タイトルを10mm.さまよりお借りしています。
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