リボツナ2 | ナノ



14.




柔らかな白い波に包まれて、自分が纏う匂いに知らず笑みを浮かべていた。
意識は浮上していても、瞼はまだ重い。それでも覚醒へと促され、ゆるりと瞼を開けた。

優しい朝。自分が纏う匂いは彼のそれ。
上機嫌のまま隣を探ればある筈の温もりがない。

浮かべていた笑みも引っ込め、身体を起こすと部屋を見回す。
そこかしこに落ちていた服は、きちんとハンガーに掛けてあり探す相手の服は消えていた。本人ともども。


「どうしてだ…。」

リボーンは普段ではありえないような寝癖の付いた髪もそのままに気配を探る。
やはり居ない。

掛けてある服を引っ掴み、そこで手を止めた。
昨日の彼の言葉が胸に落ちてきた。

一緒にいたいんだ。だからけじめをつけてくるね。

最初は許嫁という女に嫉妬して…いや、女に嫉妬したのではなく、傍に居られる存在であることに嫉妬して、ここに連れ込んだ。

話など既にどうでもよくて、手に入れる気でここに来た。
乱暴に押し倒して身体をひらかせ、それでも抵抗しないツナに訊ねれば好きだと返してきて。
そこからは恋人同士として過ごした筈だ。

好きだと、傍に居たいんだと言ったのに。
けじめを付けたいと言っていた。
置いてきたことも、伝えていないこともあると…そう呟いて。

「待つのは性に合わねぇが…。」












その日から綱吉は姿を消した。

学校へも来ていないと2人の弟たちが言っていた。
病気療養のため…と届出があったとのことだが、父親が手を回した可能性が高い。

マーモンもスカルもコロネロも突然居なくなった綱吉を心配し、オレを問いただしたりもしたがオレは何も言えなかった。本人が居ない以上、オレから話す訳にもいかず、話したくもなかった。
そうやって1ヶ月が過ぎようとしていた…


1度会ったきりの、馴染みのコーヒーショップに今日も足を運ぶ。
綱吉はここで会ったことすら覚えていなかったというのに、またここで会えそうな気がするのだ。

仕事を終えて、帰るだけだが何故だか急にここのエスプレッソを飲みたくなった。
車を駐車場に停めると、足早に向かう。
革靴の底がジャリジャリと規則的な音を立てる。

何を期待しているのか。自分に呆れるが、やはり彼を探している。

カラン

いつものベルを響かせてドアを開ける。
店内を見れば1人だけで、この時間は人気がない。

足を踏み入れてぎょっとした。
その座る場所、青年とおぼしき小柄な身体、ふわふわの茶色い髪の毛、手にしているのはケータイだ。

最近ではよく似た体型や髪の色を見る度に視線が行ってしまう。
今回もそうかと横をすり抜けようとして

「よかったら相席しますか?」

振り向いてにこりと笑う顔に固まる。

「あれ?何だよ、すごい顔して。」

ツナ…綱吉だ。
いつものような口調で、久しぶりに会ったことなど関係ないと言わんばかりのその態度。

ムカ。

「…ふざけんな!今まで何してやがった!」

激昂するオレに構わず、呑気に紅茶をテーブルに戻す。

「えへへ。ただいま!」

へにょりと笑った顔を見た瞬間、身体が勝手に動いていた。

「痛いっ!痛いって!おま、馬鹿力!!」

ぎゅうと抱きしめる身体は相変わらず細っこいのにしなやかで、抱き心地がいい。
髪に顔を埋める。

「…叔父さん、ごめん。」

「しょうがないな。今度はお得意さんを連れてきてくれよ。」

「うん、あと3人ほど増やしてあげるよ。」

オレを首にくっ付けたツナは、店を出る前にオレの腕から逃れた。

どちらからともなく握られる手。
握れば握り返されて、もっと強く握ったら痛いとこぼす。

繋いだ手から暖かさが溢れた。
そのまま手を繋いで店を出る。
オレたちの再会劇を目撃したのは、コーヒーショップのマスターだけだった。

歩いて数分の駐車場まで、長かったような短かったような気分で車に戻る。
2人とも口を開けないでいた。
言いたいことはある、聞きたいことも。
それをどう言葉に出していいのか掴めずにシートに腰掛ける。

それでもこれは言いたかった。

「おかえり。ツナ。」

声を掛けると肩を揺らして、その大きな瞳から涙が流れる。

「…本当は、さっき電話しようと思ってたんだ。」

「ああ。」

「でも、オレお前に何も言わずに別れたからどうやって電話しようって…!」

喋るそばから涙を零す瞼にそっと口付ける。

「そしたらお前、あそこに来るんだもんな。びっくりした。」

「…あそこで会ったことは覚えていたのか?」

「覚えてたよ。叔父さんから聞いてたんだ。格好いい人が常連客でいるんだって。いつもカウンターに座る、黒いスーツがよく似合うって…見た途端お前だって分かった。座る場所がなくて探してたからどうぞって声掛けたのも覚えてるよ。…そうしたらお前、澄ました顔してやたらと話掛けてくるし…格好いいからあんまり顔上げられないし、困ってたんだ。」

「じゃあ何で面談の時に言わなかった。」

「覚えてるって思う訳ないじゃん。オレ地味だし。普通忘れるだろ?」

涙で濡れた瞳がくりっとこちらを見上げる。

「馬鹿が。忘れるか、あん時に一目惚れしたんだぞ。」

見る間に赤く染まる顔に、今度は思う存分口付けを落としていく。
最後に唇に落とすと長い、長いキスになった。

「父さんとも話し合ってきた。ハル…彼女にも気持ちを伝えてきた。お前が居るから他の人とは一緒になれないって。…だから、オレと一緒になってくれる?」

「嫌だっつても攫ってくって言った。戻って来い。」

「うん…。」

シフト越しのもどかしい抱擁だが、抱きしめて抱きしめ返されるそれはどんな行為よりも気持ちがいい。
照れて真っ赤な顔を頭ごと引き寄せる。

額をつき合わせて抱き合っていると、無粋なケータイ音が鳴り出した。
無視していたら、今度は綱吉のケータイにかかってきて、相手の想像がついた。

腕を解くとケータイを取り上げ、勝手に出る。

「マーモンだな?」

『そうだよ。…何でリボーン兄さんが綱吉のケータイに出るの?』

「てめぇの想像通りだ。」

『そう。それならいいよ。早く帰っておいでって伝えてね。』

言うだけ言うとブチと切りやがった!

「ツナ、てめぇ…マーモンとはオレに会わない間も会ってたのか?」

「…えーと。…メールの遣り取りは。」

ついでにスカルともメールの遣り取りをしていたらしい。ここは怒ってもいいよな?
オレの顔を見て、顔を引き攣らせているところを見ると分かっていたようだ。

「つー訳で、今日は泊まってくぞ。一晩たっぷり可愛がってやる。」

「いいいいや!あの!マーモンもスカルも心配掛けたし…。」

「オレはもっと心配してたな。連絡も寄越さねぇヤツがいて。」

「ごめ、ごめんなさい。」

「謝るんなら態度で示せ。」

「…はい。」


それから、家に着いたのは翌日の昼過ぎだったとか。
高校生2人組と次男まで雁首揃えて寝ずに待っていたとか、みんなに「おかえり」を言われて泣いたツナに他の3人も求婚したとかはまたその後の話し。

今はただ、やっと自分のものになった綱吉を堪能したいだけ。
甘い、甘い夜がはじまった。





終わり










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