リボツナ2 | ナノ



9.




近所の公園ではなく、もっと大きな公園で葉桜を愛でながらお茶とお菓子を貰って2人で色々と話をした。
犬の散歩に通るくらいしか人通りのないベンチの一角で、間にお茶とお菓子を挟んで。

ユニさんとリボーンとの出会いだとか、その他の4人との出会いだとか。ハチャメチャそうだとは思っていたけど、本当にムチャクチャな6人は中学生時代にはかなり羽目を外したヤンチャをしていたようだ。

ある時はリボーンとコロネロさんがどっちが喧嘩が強いのかを競うために、近所のおイタをしていた高校生たちを2人きりで一掃したとか。マーモンさんとスカルさんで色々な企業のコンピューターに忍び込み、ハッキングをしてまたバレないように再構築しただとか。ユニさんとラルさんの話も聞きたかったのに、そろそろ時間だとガンマさんに言われてしぶしぶ車へと戻った。

「綱吉くんって、聞き上手ですわね。」

「そんなことないです!ユニさんが話し上手なんですよ。」

「…初めて言われましたわ。」

大きな目をぱちくりと瞬かせ、少し俯くと小声で答えたユニさんはやっぱり可愛い。
そんなオレたちを見ていたガンマさんの目が優しかった。






車で家まで送って貰うと夕日がもう少しで沈む頃だった。
ガンマさんとユニさんにお礼を言って車から出ると、門の前にリボーンが仁王立ちしていた。
何だろう?ユニさんに用事だろうか。
車を降り、ただいまと声を掛ける。すると形のいい眉をピクリと動かしてこちらを睨み付ける。思わず一歩後ずさる。

「な、何?」

ご機嫌が悪そうなリボーンに、一応訊ねてみた。すると…

「何って…てめぇ、よりにもよってお嬢のおもちゃになるなんて…お嬢もお嬢だ。こんなガキ手玉に取って楽しいのか?」

「あら、失礼ね。あなたよりよっぽど素敵ですわ。またお付き合い下さいね、綱吉くん。お邪魔さまでした。お休みなさい。」

言いたいことだけ言うと、ユニさんはリボーンの憤りも気にしないで車に乗り込むとすぐに見えなくなっていった。
残されたオレはといえば、怒りの矛先がどこに向いているのか分からないリボーンと2人きりにされてどうしていいのか見当がつかない。

「とりあえず、中に入ろう。夕飯作りたいし。」

「…そうだな、昨夜のことも聞きたいしな。」

「……」

オレ、ピンチ?!
そうだよ、すっかり忘れてたけど今家に誰も居ないよ!しかも昨晩のアレもバレちゃったし。何しに来たんだとか、何であんな格好してたんだとか、絶対聞かれるって!
いや、大した理由なんてないんだけど。興味を惹かれて…なんて理由で赦してもらえるんだろうか。

今日はやけに重く感じる門扉を開けて、嫌がる足をどうにか玄関にまで運ぶと後ろからガチャリと鍵の掛かった音がいやに大きく響いた。
肩越しにチラっと振り返ると不機嫌そうなリボーンと目が合って、冷や汗が出る。
うううっ…猫に嬲り殺しにされるネズミの気分?そんな感じだ。
人の秘密をやたらに暴くのはよろしくないと昨日のオレに言ってやりたい。






すっっごく気まずかった。
いつもは夕飯の支度が終わるまで自室でパソコンをしているのに、今日はキッチンに居座っているリボーンを背中に感じながらも、献立通りに夕食を作っていく。
今日は竹の子の肉巻きとわけぎの酢味噌和え、えんどう豆の残りと豆腐の味噌汁でいいや。ビクつきながらもパパッと作っていく。それが珍しいのか後ろからオレの手元を熱心に見詰めていた。

「いつでも嫁にいけるな。」

「いかねーよ!」

嫌味でなく、自然に口に出たような口調で言われて余計に腹が立つ。オレは男だ。誰が嫁にいくもんか。
怒りに任せ出来上がった夕食を手荒くテーブルに乗せていく。
味噌汁とご飯を盛って、リボーンに箸を持たせて食べ始めた。
酢味噌が少し甘すぎたか。黙って食べているリボーンだが、わけぎを口に入れた途端に少しだけ眉をしかめていた。気を付けよう。
煮干から取ったダシがよく利いている味噌汁をすすっていると、リボーンがふいに口を開いた。

「昨夜のことだが…」

「んぶっ…!」

今、この食卓で聞かれるとは思っていなかったオレは口に含んでいた味噌汁が気管に入ってしまった。ゲホゲボと咳をして慌てて水で流し込む。

「ユニはあんな顔して策士だぞ。昨日もユニに女装させられて、連れてこられたんだってな…」

真剣な顔をしてオレに言い募るけど、それってどっちのことを心配してるんだろう。
ユニ、と呼び捨てにするほど仲のいい女友達と、ついこの前戸籍上は兄弟になったばかりの弟と。
オレを宥めて引き離したいのはどっちのため?
そんなの比べるまでもない。自ら「リボーンの大事な人」だと公言していたユニさんに決まっている。

このモヤモヤした気持ちは誰に向かっているのだろう。
リボーンに?それともユニさんに?
せり上がるモヤモヤを肉巻きと一緒に噛み砕く。飲み込めないのはきちんと噛まなかったためなのか。
聞かなかった振りで食事を摂っていると、伸びてきた手が顎を掴んだ。

「ツナ。」

「…っ!」

咄嗟に手で撥ね退けてリボーンを睨む。リボーンはまさか反撃されるとは思っていなかったのか、目を見開いてオレを見詰める。
その顔を見て余計に苛ついた。
お門違いだと分かっていても、今はダメだった。

「悪かったな…!どうせユニさんの気まぐれで付き合って貰ってるだけだよ!その内飽きられるから気にすんなっ!」

席を立って自室に駆け込んだ。食べている途中だったことも、片付けも、全部どこかに飛んでいった。後ろ手に鍵を掛けて扉に凭れ掛かったままずるずるとしゃがみ込む。

人の秘密を勝手に暴いて、それでどうするつもりだったんだろう。
昨日のオレは本当にバカだ。

気付いちゃいけない気持ちにまで気付いて、涙が滲んできた。
気になるのは相手に好意がある証拠だ。嫌いなヤツは見たくもないから気にならない。
最初から気になっていたのに、口の悪さのせいで距離を置いた。なのに構われて、ムカついて、また構われて…と繰り返す内にこういう性格なんだと分かってきた。
嫌いじゃない、から変わったのはどこからだ。

「すげーバカ…」

膝を抱えて、灯りを点けていない部屋から覗く月は滲んでいた。



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