リボツナ2 | ナノ



12.




何事もなく一日が過ぎ、今日はスカルもマーモンも先に帰して会議を終えると7時過ぎだった。
いつものようにバスでは帰れないので、さてどうするかと駅まで歩く。
すると見透かしたようにケータイへ電話がかかってきた。

見たことのないナンバー。
出ようか出まいか迷い、しばらく鳴る音に根負けして受ける。

「もしもし?」

『あ、ツナさんですか〜!お久しぶりです!ハルです!!』

「ハル?あ…久しぶり。」

懐かしい声。口調も変わっていない。
突然の電話なのに、会っていない間も感じられない。

『今いいですか?』

「ごめん、今移動中なんだまた後で…。」

「こ〜んばんは!」

電波の向こうにいる筈の人物が目の前にいた。
どうやら待っていたらしい。

「…ハル。女の人がこんなとこにいるのは危ないよ。」

「大丈夫です!実は護衛さんも後ろにいます。…どうしてもツナさんとお話しがしたくて…迷惑でしたか?」

迷惑なんて面と向かっては言えない綱吉は、ひとつ大きく息を吐くと近くの喫茶店へ誘った。
どの道言わなければならないことがあったのだ。
今であってもいい。
はっきりしない態度が悪いのならば、泣かれてもはっきりしよう。

入ったことのない喫茶店だった。いつもは叔父の経営するコーヒーショップに行くので他は使ったこともない。
叔父のいるコーヒーショップより少し駅寄りの立地条件はいい場所で、女の子の好みそうな落ち着いた店内と可愛いケーキがある。

ハルを見れば、そのケーキのガラスケースに釘付けでいまだにケーキ好きなのだと知れた。

「好きなの頼みなよ。」

「はひぃ。でもですね、こんな時間に食べるとブタさんになっちゃうんです。」

「今日食べたら明日は我慢すればいいんじゃないの?」

ツナさんは乙女心に疎いです〜!と叫ばれてしまった。
それでもしっかり注文してから落ち着ける窓側の席に着いた。

護衛らしき人たちは外で待っている。

「4年ぶりだったかな?」

「違います!4年と6ヶ月と2週間ぶりです。」

よく覚えているものだ。呆れていると目の前の顔がふくれる。

「ツナさんは酷いです!」

そうだろうと思う。何も言わずに家を出て、ハルにも教師になると伝えただけで居なくなった。

「ハルは今でもツナさんが好きです。」

真剣な顔で言われた。

「オレは…」

言葉が出なかった。昔は好きだったのかもしれない。ずっと傍にいてくれた女の子。今は綺麗な女性になっていて、なんでこんな平凡なオレをいつまでも想っているのか不思議なくらいだ。

それでも今は彼女のことを何とも思っていない自分が居た。

「オレは昔とは違うよ。」

「…好きな人がいるんですか?」

「うん。」

視線を感じて窓に目をやると、こちらに向かってくるリボーンと目が合った。
って言うか、リボーン!?
オレ盗聴器でも付けられてるのか?と問いたくなるタイミングだ。

見れば外には車が横付けされていて、ひょっとして車で帰る時に見つけたのかもしれない。
それにしても今は夜だ。暗くて分かり難い筈なのに。

動揺してどうでもいいことを考えていたようだ。
誤解されかねない状況なのだから、すぐにリボーンへ向かえばよかったのにそのまま待っていてしまった。

軽快なチャイムで入店を知らせるそれが響くと、店員はおろか女性客の視線が一斉に集まる。
そんなものにはお構いなしにこちらへと近付いてきた。

「ツナ…。」

「はじめましてです。ツナさんのお友達ですよね?私はツナさんの許婚の三浦ハルといいます!」

「ハル!」

親同士が決めたことだが、確かに今はまだそうだ。
けれども先ほどきちんと好きな人がいると伝えたのに。

見るとハルは睨むようにリボーンを見上げている。
女の勘というヤツだろうか。

リボーンはオレの片腕を引っ張ると、後ろも振り返らず引き摺って連れて行く。
ハルを置き去りにするのはと思って見ると、ハルが今まで見たこともない顔で泣いていた。
胸が痛くて、掴まれた腕を抜こうとするのに動けない。

「リボーン!」

掛けた声さえ聞いて貰えず、車に押し込められた。
シートベルトもしていない状態で、すぐに発進する。
顔を見ても表情はない。

「止めてくれ、ハルのところに行ってきちんと言わなきゃならないんだ!」

「それで…」

ゾッとするほど冷たい声で呟く。

「お前が戻ってこなかったらどうすんだ…。」

呟く声に心が篭っていない。気持ちをどこかに置いてきてしまったような、そんな呆然とした表情を見せる。
信じて貰えないのはきちんと話し合わなかったからだ。

オレは逃げてばかりで、誰とも真剣に話したりはしていなかった。
リボーンにですら、聞かれたことを答えただけで話すべきこともおざなりにしてきた結果がこれだ。

「話しを聞いてくれる…?」

腹を決めよう。
自分の行きたい未来のために。

リボーンの運転する車は自宅ではなく、大きなホテルへと走っていった。

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