リボツナ2 | ナノ



8.




腰が抜けたせいで下からリボーンを睨んでいると、笑っていたリボーンが手を差し伸べてきた。先ほどのことがあるので易々と信用できない。
きっとこいつは楽しければ何でもやるヤツだ。

目の前の手と、取り澄ましたお綺麗な面とを交互に眺める。こんな情けない格好を友達に見せられない。手は撥ね付けて自分で立ち上がると、丁度のタイミングで獄寺くんが駆けて来た。
オレとリボーンとの間に流れる微妙な雰囲気に気付かず、オレにがばりと抱きついてくる。

「な、なに??!」

山本ならともかく、獄寺くんはあまり激しいスキンシップはしてこないからだ。慌てて身体を引き剥がそうと肩を押し返すと、獄寺くんがこっそりと耳打ちしてきた。

「大体は分かってます、オレにまかせて下さい。」

「や、あの…」

しっかりバレたと言おうとしたのに、人の話を聞いちゃいない獄寺くんは下手なお芝居をし始めた。

「大丈夫でしたか?オレの飲んでたチューハイを間違えて飲まれて…途中で寝ちまったところを起きて帰っちまって。」

「だからね…」

中々上手ないい訳だが、まさか嘘が下手なオレが君の到着前にゲロったなんて思ってもいないんだろう。ごめん!獄寺くん。でも台詞が棒読みだよ。
段々情けなくなってきて、でもあまりの情けなさにいう事もできず獄寺くんに目で訴えていると、獄寺くんの身体が離れていった。

「公衆の面前にしちゃあくっ付き過ぎてんぞ。」

横からリボーンが獄寺くんの襟首を掴んでオレから遠ざけていた。ありがたいけど獄寺くんの首が絞まっている。

「ちょっ…離せよ、死んじゃうだろ!大体くっ付き過ぎって言うんなら、さっきのアレはどうなんだよ!」

思わずポロリと出てしまった言葉に、思い出したくもない筈のシーンが浮かんで今更恥ずかしくなってきた。赤くなった顔を見られたくなくて手で押さえて後ろを向くが、まさか耳まで赤くなっているとは思ってもいなかった。

「耳も赤いぞ。」

「…さ、沢田さん?」

声を掛けられびくりと身体が揺れた。ちっとも治まらない動悸と熱を持った顔にどうしていいのか分からない。

「うううっ…」

耳も押さえてしゃがみ込んでいると、今度は山本がやってきた。急いで立ち上がってその背中に隠れる。リボーンと大体同じくらいの身長の山本の背中なら顔を見られる心配もない。
背中から山本に声を掛けてこのままで学校に行ってくれと頼む。人のいい山本は訳も聞かずにオレの手を掴んで駆け出した。

「そんじゃ、先輩と獄寺お先にな!」

「なっ…待って下さい!」

慌ててついてきたのは獄寺くんだけだった。
よく考えなくても、同じ家だからだと気が付いたのは放課後になってから。





高校入学のお祝いにと初めて買って貰ったケータイ。
獄寺くんは中学から持っていて、山本はオレと同じで入学祝いとして手に入れている。
どれがいいのか分からなかったオレと山本は獄寺くんについてきてもらって今のケータイにしたのだが。

母さんの弁当を広げつつ、何気に開いたケータイに届いていた一通のメール。
少し慣れてきた操作でメールを開くと差出人はユニさんだった。

何だろう?今朝の首尾でも訊ねてきたのだろうか。
ばっちりバレました、なんてどうやって言おう…。

から揚げを口に入れて用件を恐る恐る覗くと、バレることは想定内だったようでそれは上手にフォローしてくれる旨と、それから…

「はぁ…?」

勢いよく弁当をかっこんでいた山本と、コーヒーに口を付けていた獄寺くんがオレの手元を覗きにきた。
朝の一件は話せなかったが、それ以外は喋っていたのでユニさんとオレの約束も教えてあった。

だけど。

「…これってどういう意味だと思う?」

「どういうって、そーいう意味じゃね?」

「なっ!そんなうらやまし…じゃない、そんな口約束してねーっつって撥ね退けた方がいいっスよ!」

うん、確かにそんなつもりで約束はしていない。
付き合うって、どこかに付き合うのだとばかり思っていた。それがどうだ、帰りに迎えに行くから待っているようにだとか、今日はお花見がてら公園でデートしましょうだとか…どうみてもそういう意味でお付き合いしている男女のようなメールを送ってきていた。

「あー…嫌なら断るのは早い方がいいぜ?」

「断固拒否すべきっス!!」

だからどうしてそこで、2人揃って拒否れっていうの。
よく考えればユニさんは可愛いし、オレより小さい。性格は女版リボーンって感じがひしひしするけど、オレみたいな流されやすいヤツには丁度いいかも。
相手は一コ上とはいえ、女の子。あいつみたいに襲われる心配もないし、別に今日は用事もない。
断るのはお互いを知ってからでも遅くはないよな?

その時、よく考えていればよかったのにファーストキスを男としてしまったというショッキングな事件と、それを揉み消したい心理とか働いてしまったようだ。
そう…オレみたいな優柔不断なヤツが性格的に合わないからといって断れないことなど分かっていた筈なのに。
左右でツナには沢田さんには似合わないっス!なんて失礼なことを言われて、思わずいい返事を送ってしまった。


後悔は先に立たないものである。






昨晩とはまた違う黒塗りの車が校門の前に乗り付けられていた。
指定された時間まで山本の部活を見ていたら、野球部の部長がそれを目敏く見つけてマネージャーにならないかとしつこく言い寄ってきて、それを交わすのに時間が掛かってしまった。
3分くらい遅刻してしまっていた。慌てて校門まで出ると黒塗りの車からガンマさんが顔を出す。

「よ、少年。お嬢を待たせるなんて、意外とイイ性格してんじゃねぇか。」

「すっすみません!」

「ガンマっ!もう…いいですわ。早くお乗りなさい。」

ぷん!と子供っぽい表情でガンマさんを睨むユニさんは、今までの高ビーなお嬢様という表情よりずっと可愛いと思った。
ユニさんの隣に乗り込むと、もう表情はいつものユニさんに戻っていて、笑っているのに表情の見えない顔でこちらを見ていた。この顔はあんまり好きじゃないな。

さて、まずこれだけは聞いておかないと。

「付き合うって今日だけですか?それとも何時までとか期限があるんですか?」

「あら…ふふふ。ラルと同じことを言うのね。そうね、私が飽きるまで付き合って貰いますわ。」

「はぁ…飽きるまで、ねぇ………」

運動神経なし、勉強も中の下、顔は母さん似(女顔だとは認めていない)、身長も高くない…と彼氏としてはあんまりなオレだからすぐに飽きるだろう。そんな風に思い気安くいいですよと頷いたのが運のつき。
ユニさんがオレと付き合いたいなんて言い出したのには、くだらないけど切実な理由があったのだ。


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