小説 | ナノ


4.



昨日は結局ツナと2人で件の上司と会い、誘われて食事にいったせいで帰宅が遅くなってそのままだった。
誤解は解けたのに、何故か鬼上司がツナを気に入ってしまい結局夜中まで連れまわされたために疲れたのだろう。着替えもせずに寝てしまっていた。

いいところでお預けを喰らったので帰ってきてからと思っていたのだが、寝息を立てて眠るツナを見るにつけどうしても起こすことができずその日は結局悶々としながら夜明けを待つ羽目になった。
寝にくいだろうとズボンを脱がせたことが悪かった。
明け方の肌寒さに身を寄せられて、思わず齧りつきそうになったが寸前でどうにか思い止まれたことを誉めて欲しい。

そんな我慢大会のような一晩が明け、隣に寝ていたツナの眠りが浅くなったせいかもぞもぞと動き始める。
オレの肩に懐いていたツナの身体を抱き寄せると、長い睫毛がピクッと揺れて薄い茶色の瞳を瞬かせた。

「あれ…コロネロがいる……」

「寝惚けてんのか。昨日から明日まで休みだっつっただろうが、コラ。」

言うと幸せそうにツナが笑った。まだいくぶんか寝惚けているはんなりとした柔らかい笑みに素直に下肢が反応した。ツナの体温と匂いとに体内の血液が中心に集まってくる。
腕の中の少年のような細い身体に手を這わせると、突然ツナに顔を引き寄せられた。

「おはよう…!」

挨拶と共にチュと口付けられた。軽く啄ばまれただけのそれを追って自らもう一度重ねると、首に腕が捲き付いてくる。
朝のあいさつにしては濃厚なそれを交わしていると、無粋な電話音が鳴り響いた。
ツナのシャツを捲くり上げていざ昨日の続きを!と思っていればこれである。

「…家電だね。出るよ。」

「いやいい、オレが出るぜ。」

起き掛けた身体をベッドに沈めると、さっさと済ませてしまおうと足早に電話機に近付いて憤懣やる方ない勢いのまま出た。

『チャオ、ツナ。昨日はコロネロに訊ねたか?』

「…やっぱりてめーだったか。いい加減にしろ、この陰険グルモミ野郎が!」

『チッ、なんだてめぇか。ツナ出せ、ツナ。』

「出すわけねーだろコラ!昨日はせっかくヤったってのに、てめーのせいで一回しか…」

『な…ヤったのか?!』

朝から聞きたくもないリボーンの声につい口が滑った。下手に言うともっと邪魔されそうだと気付いて適当に返事をして途中で切った。
するとまたすぐに電話が鳴る。出なくても分かる、リボーンだろう。

うざったさに電話線を引き抜くと、テーブルの上にあったツナのケータイの電源もオフにしてしまう。
オレのケータイは…と考えて、そういや寝室の床に放り投げたままだったと思い出した。
慌てて寝室に向かうと、やはりというかケータイの着信音がけたたましく鳴っていた。

「今、そっちに持ってこうかと思ってたんだけど…」

「悪いな。腐れ縁からだから気にすんなコラ。」

そう言ってツナからケータイを受け取った。
リボーンのヤツは本当にしつこいぜ。
そう思ってケータイの画面を覗くと、昨晩散々付き合ってやった上司からの着信だった。

「もしも…」

『コロネロか。ツナでもよかったんだがな…しかし何故お前のうちは電話が繋がらない。これではツナと話せないじゃないか。』

「てめーもかコラ!ツナはオレんのだ。諦めろ!」

『フン、貴様は男だがオレは女だ。諦める理由はない。』

嫌な予感は的中していたようだ。上司までツナを狙っている。性別が女であるというだけで、襲われるかもしれないという点ではリボーンとなんら変わりがない。
いや女である分、ツナの自衛が薄くなる可能性が高いから尚悪いというべきか。

『…まぁいい。来週の仕事の件で、どうしても先方が今日打ち合わせをしたいと言ってきていてな。現場の指揮はお前に任せるつもりだから、10時に本社に来い。』

言うだけいうとぶつりと切れた電話に舌打ちした。

「…仕事?」

「ああ…悪い!夜には戻る。明日は絶対にオフにするから、グルモミ野郎や女ランボーに付いていくんじゃないぜ。」

「うん。」

少し寂しそうに笑うと、それでも笑って送り出してくれたツナに未練がたっぷりだった。
あまりの間の悪さに誰かに呪われているんじゃないのかとさえ思ったほどに。







オレに一任するという名目で邪魔されること数時間。どっぷり暮れた空には薄い雲に覆われた三日月がぼんやりしていた。
ツナのケータイの電源をオフにしたままだった上に、家電も電話線を抜いてきたことに気が付いたのは10数回電話を掛けてからだった。

繋がらない電話に嫌な汗が流れるも、駆け足でアパートに戻って見れば誰の靴も見当たらない。ツナの靴は朝見かけたままの状態で脱ぎ散らかされていた。
ほっとため息を吐くも、ツナの出迎えがないことにまたも嫌な汗が滲む。
すると、ひょっこり奥の寝室から顔だけを覗かせたツナが声を掛けてきた。

「お、おかえり…!」

「おう……どうした?何でそこから出ないんだ?」

「いいいいいや!?何にも!先にキッチン行っててよ、すぐ行くから!」

あからさまに怪しいツナの言動に、そうか…と頷いて踵を返すもすぐに振り返ってホッと気の抜けたツナの手を取って廊下に引き摺り出した。

「ぎゃーー!!」

掴んでいる手を抜き取ると両手でエプロンの裾を掴んでへたり込んだ。
そうエプロン姿だった。しかもどこからどう見てもそれ以外に身に着けてはいない。

「ちがっ…!これはその、裸エプロンっていいとかいうけどホントかなって着けてみてたところに丁度コロネロが帰ってきちゃって…すぐ着替えるから!やっぱこれって女の人じゃないとキモいよね。」

廊下に座り込んだせいで赤く染まった項や、エプロンの胸元から覗く肌に視線が吸い寄せられた。
腕を引っ張る上げると前に立たせて顔を覗き込む。

「何だ言ってくれないのか。ほら、あるだろ?ご飯にする、お風呂にする、それとも…ってヤツだ。」

「なななな…言わないよ!ご飯作って待ってたんだから、すぐに着替えて支度する…うひゃあ!」

寝室に戻ろうと足を引いたツナを抱き寄せて、無防備に晒されている尻に手を這わせて耳朶に噛み付いた。
痛さに強張った身体を手で撫で付けて確かめていると、腕の中のツナから抗議の声があがる。

「バカ!待ってたのに!」

「だから喰うんじゃねーか。」

もう面倒だと後ろのリボンを解いて胸に顔を落としていくと、頭をポカポカと軽く叩かれた。

「…ここでするの?」

恥ずかしさに染まる頬と脱がしかけのエプロンのみという格好に心の中で頂きますと呟いて淡い色の突起に舌を這わせていった。


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