小説 | ナノ


5.



自分たちと同じ生まれのワインを2本買ってきた。
リボーンの誕生日まであと2時間だというのに、何も用意できなかったことに罪悪感を覚える。
元を辿ればリボーンの浮気が原因なのだから仕方ないといえば仕方ないが、それでもできる限りは祝ってあげたいと思った。
つまみと水ぐらいしか入っていない冷蔵庫の前で悩んでいると、シャワーを浴びたリボーンが出てきた。よく考えれば浮気相手に水を掛けられたままだったから、温まってきなよとオレが押し込めたのだ。
ホカホカと湯気に包まれたリボーンを見てほっとする。
一昨日ここで浮気現場をオレに見られてから、すぐに4人の浮気相手と別れるために奔走し続けていたらしい。今日は最後の一人だったという訳だ。
リボーンもアレだが浮気相手もなかなかだと思う。カフェという場所で衆目を集めることを分かった上で水を浴びせていくのだから相当キツイ。
自業自得といえど風邪をひいていないか気になってリボーンに手を伸ばした。
きちんと髪まで洗ってきたのか頭から被っているタオルを取り上げるとゴシゴシと拭っていく。
珍しくされるがままで大人しいリボーンに内心で首を傾げていれば、オレの身長に合わせるために少し屈んでいたリボーンが顔を上げる。

「……なんだよ?妙な顔して」

大抵が人を小馬鹿にしたような笑い顔か、もしくは挑発的な表情を浮かべていることの多いリボーンが、今は神妙な顔でオレを見詰めている。
言いたいことがあるらしいと感じて口を閉じて待っていると、リボーンは突然床に手をついて土下座をした。
信じられない光景に後ずさる。

「本当に悪かった。もう絶対に浮気はしねぇ」

「いや、うん。分かった……分かったからそれやめてよ」

リボーンの辞書に土下座という単語があったことに驚いた。
それと同時にこんな姿を見続けていたくないとも思う。
頭を上げてくれないリボーンにおろおろして自分も床に座り込む。
確かに浮気をされたことに腹を立ててはいるが、こんなことをされるとは思ってもみなかった。
どうしたらいいのかと途方に暮れていると、土下座の姿勢のままリボーンは話を続けていく。

「許してくれるか?」

「うん!うん!!」

許すも許さないも今のオレにはどうでもいい。
とにかくリボーンの顔を上げさせたくて碌に聞きもしないまま頷いていた。

「……今からのセックスでどんなに痛くても逃げ出さないか?」

「うんっ!痛くても平気……!って、あれ?」

浮気への謝罪から確認事項にすり変わっていたことに気付いたオレは、そこでようやく言質を取られたことに気付いた。
逃げ出すつもりはないが、今日するとも思っていなかったから動揺する。
リボーンの前にしゃがみ込んでいたオレは、そのまま座りこむと両手を床についてリボーンの動向を見詰めた。
オレの言葉にようやく顔を上げたリボーンは、腕を伸ばすとオレを抱きしめる。
首筋にリボーンの息がかかってくすぐったい。

「ちょっ、待っ!オレ昨日風呂入ってないんだ!今から入ってくるから待ってよ!」

「気にするな。オレは気にしない」

あんな情けないリボーンなんて見たくなかったが、突然すぎてついていけない。
少しだけ時間が欲しいと訴えるも、身体中を確かめるように撫でる手に焦って声が裏返る。

「リボーン?!」

床の上に転がされたオレはあれよと言う間に下着姿にまで剥かれていた。
こんな場所でしないとは思っていても、止まらないリボーンに身体の芯が熱く昂ぶってくる。
今まで感じたことのない感覚に身震いが止まらない。
何をされるのかという恐怖より、自分がどうなってしまうのか分からない怖さに声が漏れた。
妙な声を出した自分を抑えようと身体を仰け反らせると、その隙にリボーンの手がトランクスを足首まで落としてしまう。
慌ててシャツで前を隠せばそのシャツの端から手を入れてくる。
リボーンに触れられるだけで半勃ちになってしまっている自身なんか知られたくない。
必死で股間を隠していれば、今度ははおっているだけにされていたシャツを肩から脱がされた。
さすがにシャツ一枚だけで全身を覆うにはムリがある。
上半身を剥かれたオレは、それでも勃ってしまったそこを見られまいと手で押さ続けた。
恥ずかしくてリボーンの顔すら見られなくなったオレにリボーンの手が止まる。
シャツの奥へと入り込もうとしていた手は、足首に引っ掛かっていたオレのトランクスを投げ捨てると膝に伸びてきた。

「で、お前昨日どこに泊まったって?」

訊かれて顔を上げたオレは、リボーンのご機嫌があまりよくないことに気付く。
リボーンがオレに謝っていた筈なのにと思いながら、心配症のリボーンを安心させるために答えた。

「コロネロんちだよ。ラルもいたし、2人にアルコール飲まされたけど平気だったよ」

ここの隣だし、昨日はお説教らしいお説教もなかったことを伝えるも、リボーンの眉間の皺は益々増えていく。

「……あの2人と一晩過ごしたって?ほぉ、それのどこが平気だってんだ」

逆に平気じゃない意味が分からない。浮気を責められているようにさえ感じる。
どう伝えればいいのかと考えていると、リボーンは指でオレの首筋を突いた。

「これはなんだろうな?」

そう言われてもオレには見えないから困る。
鏡で見ても丁度見えない位置にあるらしい何かを押し続けるリボーンを安心させるために笑いかけた。

「痛くないし、痒くもないけど、多分虫刺されじゃないかな。寝不足以外は体調も悪くないよ」

だから大丈夫だと言うと、オレの手元から最後のシャツまで剥ぎ取っていく。
靴下だけというみっともない姿にされて目を剥いていると、リボーンは少しも楽しくなさそうな笑顔を見せた。

「それはな、キスマークっていうんだぞ。ちなみに恋人同士が愛撫でつける印でもあるな」

「え………?」

隠す物もなくなったオレは両手で下肢だけ押さえてリボーンの言葉を聞いた。
リボーンはといえばオレの首筋から指を外して顔を寄せてくる。
いつの間にリボーンに付けられたのかと悩んでいると、リボーンは先ほどまで指で押さえていた肌の上に歯を立てた。

「いっ!」

齧られたせいで悲鳴を上げるオレを見て鼻を鳴らすと、オレの両腕に手を掛けた。

「さっき見付けたばかりだぞ。オレが付けてねぇってことは……どういうことだ?」

「どういうことだろう?」

リボーンじゃなければ誰がそんなことをするというのか。
虫刺さとは違うならば痣じゃないのかと思い付いたオレに、リボーンは真黒い笑顔を見せた。

「他にも付けられてねぇか確かめるぞ」

「えぇぇ……え!!」

力任せに腕を取られてしまうと隠す術がない。
それでも膝を合わせて抵抗していれば、ピタリとリボーンの動きが止まる。

「なんで隠すんだ?そこを見られると疚しいモノでもあるってのか?」

疚しいものはないが、恥ずかしいものならある。
しかしそう言われてしまえば隠すオレに非があるような気がしてきた。
脚の力を抜くとリボーンのさせたいようにさせる。
視線が肌の上を舐めるように動いていくことに堪え切れず恥ずかしさを誤魔化すために目を閉じていると、リボーンの手が中心に触れた。
自分以外の手が直にそこを扱きはじめる。
その事実に興奮して息が荒くなった。
オレの上に伸し掛かってきたリボーンも興奮したように息が熱い。
これから何が始まるのかとドキドキしていれば、リボーンは着ていたバスローブを脱ぎ捨てた。
自分ばかり見られている不公平さに気が付いて閉じていた瞼を開けると、思った以上に間近に迫っていたリボーンの裸体に驚いた。
傷一つない肌に手を伸ばすと、それに気付いたリボーンが顔を寄せてくる。
自然に唇を重ねると深く絡まり気持ちいい。
互いの身体をまさぐり合って擦り付けて意識が飛びそうになった。
何をされるのかという恐怖も消えて安心していれば、おもむろにリボーンがオレの上から退く。唐突に消えた温かさに身体が震えた。
もう少し触れ合っていたかったと不満に思っていれば、オリーブ油を手にしたリボーンが近付いてきた。
床の上に置かれたそれに視線が吸い寄せられていると、オレに手を伸ばしたリボーンはオレの腕を引いて椅子にしがみ付かせる。
尻を突きだしたような妙な姿勢を取らされたオレは、リボーンが何をするつもりなのかと視線が離せなくなった。
長い節くれたリボーンの指にオリーブ油を垂らしていく様を見て不穏な空気を察した。この体勢も怪しい。
逃げ出そうと音を立てないように膝立ちのままで踏み出せば、すぐに気付いたリボーンが手を伸ばして押さえ付ける。
床の上に身体を投げ出した格好で抑え込まれたオレは暴れ出した。

「ヤだ!それで何するつもりなんだよ!」

「想像通りだぞ。寝室に用意してあるがそこまで待てそうにないからな。代用だ、できるだけ痛まないようにしてやる」

リボーンの言葉に血の気が引いていく。
浮気なんてされたくないが、あんなところまで触ろうとするリボーンの気がしれない。
ムリムリムリと首を横に振っているオレにリボーンは呆れ顔で迫ってきた。

「お前な、これで痛いなんて言ってられないんだぞ?これが入るってのに指で恥ずかしがってる場合じゃねぇ」

「え?」

指でということはそれ以外もということだ。
これと導かれたリボーンのそこを見て思考も身体も固まった。

「……冗談だよね?」

「嘘でも冗談でもないぞ。だから一年も手を出せなかったんじゃねぇか」

「……」

ようやく事情が飲み込めたオレは、先ほどの言質まで取ったリボーンの周到さに納得した。
だからといって受け入れられるとは限らないが。
リボーンと油を交互に眺めてしゃがみ込む。置かれているオリーブ油に手を伸ばそうとすると、その手を取られて遮られた。

「自分でなんて出来ないだろ。お前座薬すら怖いって言ってたよな」

「でもさ!」

あんなところをリボーンに触られるのは死ぬほど恥ずかしいのだ。
どうしようかと迷っていると、リボーンはオレの肩を押し倒して床に転がした。

「ひぃ…!」

みっともない悲鳴を上げるオレを無視してリボーンの指が後ろの中に入り込んでくる。
一度は覚悟を決めたんだからと堪えてみても、気持ち悪さは消えていかない。
怖くなって身体に力が入ってしまうオレに、リボーンは口付けを落としてきた。
唇以外にも首筋から鎖骨、その下の真っ平らな胸元をくすぐっていく。
啄ばまれ、戯れに舌で撫でられて床に身を投げ出すと、力が抜けたところを狙って指が奥へと挿し込まれた。
油のぬめりで抜き差しを繰り返していく内に吐き気を伴う不快感は薄らいできた。
探るように蠢く指にぐりっと引っ掻かれて背中が仰け反る。
自分のことなのに何が起こったのか分からずにいれば、リボーンが指を引き抜いて後ろから熱塊を宛がう。
逃げる間も、息を整えることもさせて貰えずに後ろから貫かれた。
引き裂かれる痛みと中に押し入る熱さに、救いを求めて手を伸ばす。指に引っ掛かった自分のシャツに爪を立てて息を止めていれば、リボーンの手が萎えてしまったオレ自身を包んだ。
自分より大きな手が強弱を付けて扱いていく。
油がついたままの手はぬるぬるとしているのにイイところを知っていた。
吐精したいという欲求に支配された身体から力が抜けていき、そこに雄を突き立てられる。
奥の奥まで侵食されて息もままならない。
リボーンの指に促されるまま床にぶちまけた白濁に声を上げると、後ろからも艶のある声が聞こえてきた。
その声にイったばかりの身体がびくりと震える。
耳朶を犯す声に堪え切れずに息を吐き出せば、それを見ていたリボーン自身が硬さを増す。
幾度も幾度も挿抽を繰り返す昂ぶりにつられて腰が動いていた。
その腰を掴まれて一気に奥へと突き立てられた。
吐き出す息遣いと中を満たされる熱さに二度目の吐精を漏らしてしまう。
尻から腿へと伝う生温かい体液とは別に、自分のそれが腹を汚しているのを見て羞恥が戻ってきた。
逃げたいのに逃げ出せない。
後ろにはリボーンが中にいたままだし、疲れて動けそうにない。
それでも顔を上げて時計を確かめた。
少し過ぎてしまった長い針に目を瞑ると、リボーンの首に手を伸ばす。

これからも、2人で居られるようにと呟いてキスをした。


おわり




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