小説 | ナノ


赤ずきんちゃんとずるい狼 2



おばあさんのおウチは森を抜けた山のふもとにあります。
山といっても少し小高いぐらいの小山です。
それでも山をひとつ越えてくることに疲れたツナは、足取りも重くカゴを抱え直すと視界の端に見えた赤い屋根の家を目指しました。
煙突が高く伸びたその家が、おばあさんの住むおウチです。
それにしてもよくよく考えてみれば、おばあさんはどうして一人でこんな辺鄙なところに住んでいるのかと首を傾げながらツナは赤ずきんを後ろに落とすとドアの前に立ちました。
コンコンコン
聞き取りやすいようにと心がけて戸を叩きます。
それから少し高いと言われている声を張り上げて呼び掛けました。
「おばあさーん!ツナです!お母さんから言付かってきました!」
最近は少し耳が遠くなってきたおばあさんに聞こえるように声を上げると、扉の奥から声が聞こえてきました。
「ツナかい?いいから入ってきておくれ」
どうしてかおばあさんは姿を現しません。
心なしか声もおかしいようです。
不思議に思いながらも、ツナはドアに手を掛け家の中へと足を踏み入れました。
いつもならもろ手を上げんばかりにツナの来訪を喜んでくれるおばあさんが、今日は顔すら見せてくないのです。
ひょっとしたら風邪でもひいてしまったのかと心配したツナは、声の聞こえてきた奥にある寝室へと近付いていきます。
「おばあさん?」
薄く開かれたドアを覗き込み部屋の奥に視線を投げると、やはりおばあさんが寝ているのかベッドの上が盛り上がっています。
ドアノブに手を掛けて押し開け、床板を鳴らさないように慎重にベッドの横へと足を運びます。
手に持っていたカゴを手前にあったローテーブルに置くと、声をひそめながらまたおばあさんに呼び掛けました。
「おばあさん、どうかしたの?」
そう言うと、布団の膨らみがモゾモゾと動きます。
いくらなんでも顔すら出して貰えないことに、寂しさと心配が募ってツナはベッドに乗り上げました。
「風邪でもひいたの?」
天蓋つきのベッドは小柄なおばあさんなら4人は寝転がれるほど大きくて、同じく小柄なツナには随分と大きく感じます。
ベッドの端に膝をついたツナが布団の膨らみを前に中を覗き込もうとすると、少し開いていた布団の隙間から手が伸びてきたのです。
あっと言う間に布団の中に押し込められたツナは、真っ暗になった視界に驚いて目をパチパチと瞬かせました。
背中をベッドシーツに押し付けられた格好で、自分の腕を掴んでいるおばあさんへと声を上げます。
「気持ちが悪い?熱があるとか?!」
そうに違いないとツナは起き上がろうとしますが、腕を掴むおばあさんはどいてくれません。
そうこうしている間にも、ツナの上にいるおばあさんの息遣いが近付いてきます。
おばあさんとこんなに近くで触れ合ったことのないツナは、妙にゴツゴツしている腕や膝や身体を不審にも思わず布団の中で目を凝らしました。
「……何だか今日のおばあさんは目が大きいみたい?」
「それはね、ツナをよく見るためだよ」
即座に返された答えより、その声に驚いて顔を近付けていきます。
「声がおかしいよ!やっぱり風邪なんだ!」
それにしても声の質さえ違うのです。
どこかで聞いたことがあるような、どこでだっただろうかと深く考えるより、やはりおばあさんの体調が気がかりです。
少しでもおばあさんの様子を知ろうと布団の中で顔を寄せれば、ぼんやりながらも輪郭が見えました。
「あれ?顔が細くなったような……ひょっとして食べてないの?」
「そうだよ。ツナがなかなか来てくれないから、食事も喉を通らなくてねぇ」
コホンコホンという空咳をしながらのおばあさんの言葉に、ツナは虚をつかれ身動きが取れなくなってしまいました。
「ごめんね、ごめんね!オレ、これからは毎日来るから!」
「本当かい?じゃあ少しだけ一緒に寝ていてくれるかい?」
勿論だと頷くと、おばあさんはそれが見えていたのかツナをぎゅうと抱きしめます。
「苦しいっ!ていうか、おばあさん大きくなった?」
自分とそれほど変わらないと思っていたおばあさんの手足が伸びているようにも感じて、ツナは思わず恨めしそうに声を上げました。
「ツナがあんまり遅いから、手足が伸びてしまったんだよ」
首を長くして待つとは言いますが、手や足が伸びるなんて驚きです。
余程待たせてしまったらしいと罪悪感に苛まれたツナは、おばあさんの手が身体を撫でるように下におりていっても抵抗しませんでした。
「お前は……随分細いんだな」
口調が変わったことにツナはおやと顔を上げておばあさんへと視線を向けます。
暗い布団の中で動いているおばあさんをじっと見詰めていると、おばあさんの手は確かめるようにツナのワンピースの前を撫でていきました。
「くすぐったいよ!」
布越しとはいえそんなところを触られ続ければくすぐったくて堪りません。
ツナは身を捩って逃げ出そうとしますが、それより先に今度はおばあさんの手はワンピースの裾を掴みました。
逃げ出せないように肩を押さえ付けられ驚いていれば、手は腿を伝ってスカートの奥へと入り込んでくるではありませんか。
「おばあさん?」
何をするつもりなのかと声を掛けるも、おばあさんの手はツナの制止を無視してどんどん中に入っていきます。
意味が分からないツナは大事な部分に触れようとする手を寸前で止めると、膝を閉じておばあさんの手を両手で掴み上げました。
「どうして邪魔をするんだ?」
「だって……そこはだっ大事なところだから」
知っているのに今更確かめようとするおばあさんに、ツナは首を横に振って抗議の声を上げました。
「ダメったら、ダメ!」
股間からおばあさんの腕を引き剥がそうとしますが、非力なツナでは上から押さえ付けられているせいもありうまく外せません。
「大事なところだから確かめなきゃならねぇだろう」
そう言うと、おばあさんはツナの膝を両手で割り開き、被っていた布団をバッと勢いよく剥ぎました。
恥ずかしいやら驚いたやらで、大きな目をもっと見開いていたツナが見たのは見覚えのある黒い髪と黒い瞳の男です。
「リボーン?」
そう先ほど出会った猟師だというリボーンではありませんか。
おばあさんだとばかり思っていた悪戯はリボーンがしていたことだったのです。
ようやく理解できたツナがぼんやりとリボーンを見上げていると、おばあさんの洋服を着ていたリボーンはいそいそとそれを脱ぎ始めます。
「えーと、どうして服を脱ぐの?っていうか、なんでリボーンがここに居るんだよ?」
リボーンだということは分かりましたが、何故ここにリボーンが居るのか分かりません。おばあさんの友だちというには随分と若く見えますし、親類は自分たち家族だけだと聞いていました。
少し考え込んだツナは、回転が鈍いとよく言われる頭をどうにか捻って思い出したことがあります。
おばあさんはツナが小さい頃に、養子を育てていたことがあったということを。
ツナが物心付く前に一人立ちしてしまったという養子のザンザスは、滅多におばあさんのウチに顔を出さないと寂しそうに話してくれたのです。
お父さんが言うには、ザンザスはおばあさんの跡を継いで猟師になったのだとか。
ですが猟師になった途端、おばあさんのウチに帰ってくることはなくなったそうなのです。
それを聞いたツナは出来るだけおばあさんに会いに行こうと思ったことも思い出しました。
最近はツナの事情で外に出ることも出来なくなってしまい、こうしておばあさんに会いに来たのは久しぶりだったのです。
だからおばあさんは自分に顔を見せてくれなくなったのだろうかと、ツナの顔は悲しげに歪んでいきました。
「おい、泣くんじゃねぇ」
「だって……だって、オレおばあさんに嫌われたんだろ。オレと会いたくないからリボーンが留守番してるんだ」
自分の言葉に、それが真実であるかのような気がしてきたツナは浮かんできた涙を見られまいと手の甲で顔を隠しました。
ぐずぐずと鳴る鼻をすすり、ぎゅっと唇を固く結ぶと、目を覆っていた手をリボーンに取られてしまいました。
情けなく滲んでいた目元を見られたツナは、バツが悪くて視線を合わせられません。
何を言われるのかとドキドキしていると、リボーンはツナの腕を掴んだまま呆れたようにため息を吐くと口を開きました。
「テモッティオは用事で出掛けただけだ……っうか、オレはテモッティオに頼まれてドラ息子を探してたんだがそれを見付けてな」
「え!見付かったの!?」
町に出稼ぎに行っているお父さんすら情報さえ掴めなかったのに、リボーンはいとも容易く見付けだしたと言うのです。
同じ猟師だからだろうかと涙も引っ込むほど驚いていると、リボーンはツナの手を離してまたも膝を掴みました。
展開の早さについていけなくなったツナは、それに気付くことなくじっとリボーンの顔を見詰めています。
「まあ少し前からどこに居るのか知ってたけどな。言うと大変なことになるからほっといていたんだぞ。だが今日はどうしてもテモッティオをここから外出させたかった」
「……どうして?」
おばあさんが頼んだことを今まで見て見ぬフリをしていたことも不思議ですが、それを今日教えた理由が分かりません。
ツナは穴の開くほどリボーンの顔を見上げていると、視線の先でリボーンはニヤリと悪そうな笑顔を浮かべました。
「そこでさっきの話だ、ツナ」
「さっきの?」
なんの話だろうかと呑気に構えていたツナは、突然リボーンの手によってガバッとスカートが捲り上げられて声も出せませんでした。
「ふむ、ズロースが邪魔だな。どれ……」
先ほど知りあったばかりの男に、よもやスカートを捲られるとは思ってもみなかったツナは止める間もなくズロースを引き下げられたことに悲鳴を上げます。
「ひぃぃい!」
慌てて前を手で押さえるも時すでに遅く、ズロースは足首まで脱がされてしまったのです。
下着としてのズロースを取り払われてしまえば、何も覆うもののない股間はリボーンの眼前に晒されてしまいます。
見られてしまったことにショックを受けているツナに、リボーンはそこを見詰めたまま頷くと最後の砦ともいえるツナの手を股間から掴み上げたのです。
隠すものもないそこにはツナの男の証がありました。
見られてしまったことに青くなっているツナに上から声が掛ります。
「お前、どうして女の格好なんかしてるんだ?」
ずばりと訊ねるリボーンにツナの眉尻は下がりました。
「別に好きでしてた訳じゃないよ!よく分かんないけどウチは代々長男が女装をして生きてくんだ。あと半年で15になるから、そうしたらこの本家を継ぐんだって……でもよく考えたら何で女装してるんだろう?」
答えている筈が、いつの間にか自分への疑問にすり替わっていったことにツナは気付いていませんでした。
そもそもここらの村や町一帯の猟師の長をしているおばあさんは、どうして女装をしながらみんなを纏めているのでしょう。
しかもそんな大層な組織をどうして自分が受け継ぐのか不思議でなりません。
鉄砲を持てばそれなりに使えるとはいえ、おばあさんやお父さんほど上手ではないのです。
今更の疑問に茫然としているツナを覗き込んでいたリボーンは、別のところに驚いたようでした。
「お前、その顔で14なのか?」
「その顔ってなんだよ!どうせ童顔だよ!」
あまりに失礼な言い草にツナは顔を赤らめてリボーンを睨みつけました。
しかしリボーンは気にすることなくズロースをツナの足から脱がせると、ワンピースを胸の上までたくし上げたのです。
「なんにせよ14なら大丈夫だな」
何が大丈夫なのかツナにはさっぱり分かりません。
分かるのは大事なところをさっき知り合ったばかりの相手に見せているということだけです。
リボーンはどうやらこういったことに慣れているようで、ツナは逃げ出そうにも逃げ出せないのでした。
先ほどとは違う意味で真っ赤になりながら、自分の股間に手を伸ばすと腕を掴まれて何故かソコに導かれたのです。
やっと隠せると安心したツナは、けれどもそれは甘い考えだとすぐに知りました。




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