小説 | ナノ


1.



ツナとの出会いは深夜のガテン系アルバイト帰りに立ち寄った、牛丼屋で客とアルバイトとしてだった。

大学も4年に上がろうかという3月の半ばの頃。
いつものアルバイトからアパートに帰る道すがらに出来た牛丼屋で、空腹を訴えて鳴く腹の虫にせっつかれて立ち寄ったのが始まりだった。

まだ開店したばかりの店内は、安っぽい内装ながらも小ざっぱりしていて、けれど深夜だということで客は見当たらずオレが入店すると奥からアルバイトらしい男が一人、出てくるだけだった。

「い、いらっしゃいませ!」

マニュアル通りに声を掛けられてもメニューに齧りついていて顔も上げなかった。とにかく煩い腹を宥めるべく一番腹にたまりそうなものを選んで店員に声を掛けようと顔を上げて驚いた。

「…中学生がバイトしてんのか?」

「ちょっ…!失礼だな!!オレはこれでも大学生なんだよ!…高校生にはよく間違えられるけど、中学生って…うううう…」

それがツナとの一番最初の会話だった。




それからというもの、バイト帰りにツナがアルバイトで居る時だけ牛丼屋に立ち寄ることが日々の楽しみになっていた。
深夜という時間帯のせいで、客のあまり居ない店内でのツナとの会話が何よりも心弾むということに気付いたのもそう時間は掛からなかった。

「…映画?」

「そ、そうだ。その…今度の日曜に一緒に行かねーか?」

「……いいよ。」

「っしゃ!」

テーブルの下でガッツポーズを取っているのも知らず、入店してきた客に声を掛けていたツナがその客を見た途端、後ずさり始めた。
何だ?

「しけたとこでバイトしてんだな…何だ?何でここにてめぇが居やがる。」

「「リボーン!?」」

ツナの視線の先には、同じ大学の腐れ縁リボーンがいつもの嫌味ったらしい笑顔で立っていた。手を上げた先にはツナしかいなくて、互いにリボーンと知り合いだったことに驚いていると、リボーンがフフンと笑いながらツナの手を取って引き寄せる。

「ツナとは親戚だぞ。こいつが落第しそうになる度に家庭教師をしてやってんだ…なぁ、ツナ?」

「…血は繋がってないから!だからこんなサドッ気もないし、根性悪でも…イテテテテ!」

「カテキョーにいい口利くじゃねぇか。ああ?」

ツナの頬をムギュっと抓るリボーンの顔は、普段の10倍は楽しそうな笑顔でツナが特別なのだと言わずとも知れた。
その後、こいつ以外にも、ツナの大学での自称親友だの将来の右腕だの、何故かパシリとまで知り合いだったことが判明した。

それでもこうして同棲…同居にまで漕ぎつけたのには、人知れぬ努力があった。…マジで。
ツナに振られたのに、まったく諦めていないリボーンを筆頭に、他の3人も右に同じでオレとツナが別れることを虎視眈々と狙っている。
誰が別れるか。






だから、だから今はダメだと言っているんだ。
もうしたくないとか言われたらオレはどうすればいいか分からなくなっちまう。

とにかくこの状態がおさまるまでは…と家中を逃げて周っていると、突然ツナが追いかけてこなくなった。
足音もしない。どこかに隠れているのかと気配を探ると、一番奥の寝室にいるようだ。
掴まる訳にはいかないのだからと、しばらくそのままでいても寝室から出てくる気配がない。
心配になって見に行くと、ベッドの上で小さく丸まって眠っていた。

「…ほら見ろ、やっぱり眠いんじゃねーか…」

昨日から丸一日寝ずにオレの帰りを待っていたらしいツナは、広いクイーンサイズのベッドの片隅でオレのパジャマを握りながら本当に寝ていた。
シャツ一枚のみの姿で。

肉付きの薄い身体ながら、すべらかな線を描く脚をそのままに寝息を立てるツナをベッドの真ん中に置いてやる。するとするりと首筋に腕が纏わり付いてきた。

「コロ…」

小さく漏れた声に驚いて顔を覗くもやはり寝ている。寝言までオレかと思うとおさまりかけた下半身がまたゾロリと昂ぶりだしたのが分かった。ヤベェ。
ツナの腕を剥がしながら、心の中で今度の任務先の地形を無理矢理思い出していると、離れた筈の腕がまたも首に巻きつき、唇に柔らかい感触が…

「?!?」

ぼやける顔がゆっくりと離れていって、その柔らかさが何だったのかを知る羽目となる。
寝ている癖に幸せそうに笑うツナに我慢の糸がぶつりと切れた。



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