リボツナ | ナノ



1.




サラサラと紙の上をペンが這い、途中で止まってはまた滑らかに滑り出す。
毎日毎日、この繰り返しだ。
最近はやっとオレをボンゴレ10代目と認めたらしい周囲のお陰で、オレや守護者が出て行くこともめっきり少なくなった。

先日の抗争は、日本から遊びにきた京子ちゃんをオレの婚約者だと勘違いした敵対ファミリーとそれを唆した元敵対ファミリーの残党によって引き起こされた茶番だった。
本来ならば守護者だけでも充分だったところにオレがついていったのには理由があった。京子ちゃんが居ないことを悟らせないためと、もう一つ。

「…オレだってやれば出来るんだって、見せたかったんだ…」

ペンを止めてポツリと零れた言葉を耳聡く隼人が拾った。

「何かおっしゃいましたか?」

「うんん!何でもないっ!」

慌ててペンを走らせると、こちらを見ていた隼人が手にした書類を決裁済みの箱に入れて近付いてくる。
綺麗な銀髪を無造作に後ろで束ね、縁なしの眼鏡の奥の緑眼は変わらぬ色を湛えていた。
この眼があまりに真剣にオレばかりを見詰めるので、一時期は惚れられているんじゃないのかと懸念したこともあったなぁ。
…それはありえないと結論付けたんだけど。

「そろそろお茶にしましょうか?今日はいい茶葉が手に入ったんですよ。」

「んー…まだいいや。これが終わったら今日の分はお終いだしね。ここまでやっちゃうよ。」

手を止めることなく決済を済ませた書類を積み上げていく。
だって今日は任務を終えて帰ってくる日なのだ。
…こっ恋人が。
言っちゃったよ、恥ずかしい〜!

バンバンと机を叩いていると、隼人がオレを覗き込んでいた。
ヤバいヤバい。
コホンとひとつ咳をして、何事もなかったようにまた書類に目を通していく。けれども意識は上滑りして、考えるのはやはり恋人のことだけだった。

「…あのさ、隼人はこ、恋人にして欲しいことって何?」

「ブッーーー!ゲフ、ゲフ…なっ何をおっしゃるんですか?!」

あまりの慌てっぷりにちょっとびっくりしたけど、一度口にしてしまったのだからと再度訊ねる。だって、久しぶりに会うのだ。喜んで貰いたい。

「だから、仕事で会う機会が少ない恋人に会ったら何して欲しいって聞いたの。」

握ったペンを隼人に突き立てると、何故だかポッと頬を染めてモジモジし始めた。
うん?それは君みたいなカッコいい人がやるとちょっとキモいかも。

「オレは仕事が恋人なんで…その、でもよろしければ膝枕して貰えたら嬉しいなー…なんて。」

「膝枕?」

そんなものでいいのだろうか。それとも隼人が特殊なんだろうか?
丁度いいタイミングで武とランボが入室してきた。
ランボは本来ボヴィーノファミリーなんだけどボンゴレ預かりになっていて、週の大半はこちらで過ごしている。

「ボンゴレ!聞いて下さいよ…山本氏ったら酷いんです。」

「いや〜違うって!ちょっと手が滑っただけだぜ。」

守護者に報告がきていた案件を手に近付いてきた彼らにも聞いてみよう。

「なーなー!武とランボは、久しぶりに会った恋人に何して貰うと嬉しい?」

やっぱり恋人という単語で頬を染めた2人を危ぶみながらも訊ねると、声を揃えて言い切られた。

「「やっぱり膝枕(だろ。でしょ)」」

「ええぇ?そんなもんでいいの?」

「何言ってるんですか、ボンゴレ!膝枕は男のロマンですよ!」

「アホ牛と一緒なのは解せねーが、やっぱり恋人の膝枕は特権っつーか…温もりと匂いを堪能しつつも細腰を撫でられる位置がまたいいんスよね…」

「あはははっ!獄寺は変態じみてんのな!オレはやっぱり2人だけの時間っていうのがいいと思うぜ。」

「そ、そう…」

何だか分からないが非常に大切らしい。
それならオレも一度くらいやってみようかな…。オレ男だけど、それでもいいんだろうか?
ペンを滑らせるスピードを緩めずに一枚終わらせると、またも誰かが入室してきた。
黒い帽子に黒いスーツ、肩に乗せたカメレオンの緑色が映えるようにシャツやネクタイを少し派手目にしている姿を視界に入れた途端立ち上がって駆けて行く。

やっと手に入れた恋人だから。

「お、おかえり…!」

「ああ、ただいま…」

抱き付きたいけどみんながいるから我慢だよね。…邪魔だなんて思ったら悪いけど2人きりにして欲しいな。
チラリと後ろを振り返っても、3人とも出て行く気配すらない。仕方ないか…と項垂れて足を踏み出すと、するりと腰に腕が周ってきた。

「オイ、今日こそ契約料を取り立てるぞ。」

「う、うん…」

リボーンを一生このボンゴレに留めておく契約を交わしたのは二週間前のこと。
オレは家庭教師だったリボーンにずっと長いこと片思いしていて、でもそれに気付いてはいなかった。京子ちゃんのことが好きだとばかり思っていたんだ。

それが間違いであることに気が付いたのは、京子ちゃんがイタリアへ遊びにきてから。まさかリボーンの口から京子ちゃんと結婚しろと急かされるとは思っていなかったオレは、いきなり言われて動揺した。
そんな歳になったんだとようやく本気で色々考える内に…本当に傍に居て欲しいのが誰なのかに気が付いた。

最初は自分の正気を疑ったさ。
相手はあのリボーン。人生の半分を家庭教師と生徒として過ごした間柄だよ?しかも愛人はたんまりいて、とてもじゃないけど平凡なオレじゃ太刀打ちできないような美人揃いときたもんだ。ムリだと諦めようとして、だけど京子ちゃんに逃げるのは違うからときちんと断ったところをリボーンが現れた。

京子ちゃんのことを言われる度に、リボーンへの想いを否定されているようで辛くて苦しくて…それなのにいかにも愛人のところから来ましたと分かる匂いまで連れてきたリボーンを憎いと思った。
愛憎は表裏一体って本当だよね。
とにかく結婚のことを言われたくない一身で、リボーンに認められたいとただそれだけのためにあの掃討作戦を立てたという訳だった。

まさかそれがこうなろうとは…

人生ってどう転がるか分からないものだよ、本当に。
そんなことを思いつつもリボーンと共に3人の集まるソファへと向かうと3人が3人とも視線がオレの腰で止まっている。
何かあっただろうかとオレも視線をやって気が付いた。

「ほっほら!座ってろって!いつものでいいんだろ?」

リボーンの手を振り解いて先生専用のソファに押し付けると、簡易キッチンへと逃げ込んだ。
そこ舌打ちしない!
オレはお前らイタリア人どもと違って恥じらいってもんがあるんだよ。



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