リボツナ | ナノ



媚薬のような声で名を呼ぶ




ツナのことを妙な具合に意識し始めたのはほんの半年も前のことじゃない。


アルコバレーノの呪いが解けて、身体が成長をはじめてから早10年の月日が経とうとしていた。
その間にもツナをボンゴレ10代目に襲名させるために心血を注いできたことは確かだ。

いつまで経ってもダメツナ根性の抜けないあいつは、目を離すとすぐに逃げたがるから尚のこと離れる訳にはいかなかった。
それが悪かったというのか。

それが思いもよらない心情へと変化していったと気付いた時、自分の脳天を打ち抜きたい衝動に駆られた。
来る者拒まず、去る者追わず。愛人はとうに100を越えているというのに、何故本気で気になるのがあのダメツナなのか。信じたくもねぇ。

だというのに、この万年常春男はのほほんと呑気にすべての者を平等な位置に置いている。
特別はいない。
守護者たちも、初恋の女も、カポもアルコバレーノたちですらあいつの中では同じ立ち位置だ。
かく言うオレすら違いはない。




ボンゴレ幹部たちとの会合が終わり、何事もなく済んだらしい様子で出てきたツナに幾人もの幹部が声を掛けていく。それに穏やかに応え、やっと開放されたのはそれから30分は過ぎた頃だった。

10代目を就任したばかりの頃は、やれ若すぎるだのジャッポーネにマフィアは務まらないだのと囃し立てていたタヌキオヤジたちも、最近ではツナのやり方に異を唱えるものなどいやしない。
それだけの修羅場をくぐってきたからだろう。
そんな手の平を返したような態度が腹立たしい。

タヌキオヤジから開放されたツナに近寄ると周りには聞こえない程度の声で呟き、魚に餌を投げてやる。

「…おい、歩いて帰るぞ。オレが護衛をしてやる、他のヤツらは帰しとけ。」

「それって、オフに付き合ってくれるってこと?」

ぱぁ!と表情が明るくなったツナにうっかりときめいたなんて言えやしねぇ。
ああとおざなりに返事をして歩き出すと、他の護衛に言いつけて慌ててオレの後ろに張り付いてきた。

いまだツナの身長を抜けずにいるオレは、隣に並ばれることが我慢ならなかった。
あのわずかに目線を下げる仕草が腹立たしい。
ツナのことなんざどうにも思っていないと嘯いても、包まれるような優しい視線に晒される度にちくりと胸が痛む。

わざとゆっくり歩き、ツナの後ろ斜めの位置につくと初めて会った時から変わらぬ纏まりのない髪がふわふわと光をはらんでは揺れていた。
石畳を歩くツナの足取りは軽やかで、ジャケットを脱ぎ捨てネクタイに指をかける仕草が色っぽい。
目の前のうなじに齧り付きたい衝動を抑えて、知らず伸びていた手で思い切りよく後頭部を叩いた。

八つ当たりだと自覚はある。
だがそうでもしないと何をしでかすか自信が持てなかった。
2人きりでいたいのに、2人きりだとどうしていいのか分からない。
案の定、キャンキャンと煩く怒るツナを放って前を歩いていくと、ついいらぬ言葉が口をついた。

「っせぇ!おかしいのなんざ分かってるんだ。このオレがなんでこんなチンケな野郎を…病気だ、病気に決まってる…!」

しまったと思った時には既に遅く、ツナは慌てて携帯を取り出すとシャマルへと連絡を取ろうとプッシュボタンを押し始めた。
額面通りに受け取ったツナが医者へ診せようとすることなんざ分かっていたのに。

冗談じゃない、あんな薮医者に診せられてたまるか。
ボサボサで鈍臭そうな面構えとは逆に、心の機微にまで聡いあの野郎はきっといらぬ世話をやくに決まっている。

ツナの手から携帯を取り上げると、それを奪い返そうとオレの手を握ってきた。
修業の成果でマメだらけの手の平は小さいけれどゴツゴツしていて、けれどひどく暖かい。
突然の接触にどうしていいのかすら分からない自分に動揺した。

らしくもなく手が震え、それを訝しんで覗き込んできたツナに暴かれそうになる。
ガキみてえにジタバタしてられるかと面を上げると、帽子のツバに驚いたツナがぎゅっと瞼を瞑っていた。
無防備なその顔に口付けたのはほんの出来心だった。

出会った頃から変わらないティーンのような顔は、大きな瞳を閉じていると益々幼く見える。ふっくらとした唇に釘付けになり、それに触れたいという衝動にまかせて軽く触れてみた。
触れた唇はドキドキと煩い鼓動に邪魔されて甘かったのかそれさえも覚えていない。

本当に触れるだけのそれに恥ずかしさが込み上げて、ツバで顔を覆うも互いにバツが悪くてどうしていいのか分からなかった。わたわたと忙しないツナを張り飛ばすと、勢いあまって転がっていく。

逃げていた感情も重ねた唇によって自覚せざるをえなくなった。
そうと腹を括れば見えなかったことまで見えてくる。
逃がしゃしねぇと笑った先で、困ったようにオレの名を呟くツナに眩暈がするほど強く欲情した。






「てめぇの猶予はオレが身長を追い抜くまで。その間にオレを諦めさせなきゃ身も心もいただいていくぞ。」

「いやいやいやいや!?それおかしいよね?間違ってるよね?」

「どこがだ?嫌なら嫌とはっきり言えばいいだけだろうが。」

言ってやればぐっと言葉に詰まって下を向いた。
拒否できないのは叩き込まれた習性故か、それとも。

顎を指でなぞると潤む瞳に嗜虐心が疼いてくる。
そっと離した手でツナの手を握ってやると逃げもせずに握り返してきた。
ただの言葉遊びだとタカをくくっている部分もあるが、ひょっとしてと勘付いている部分とがせめぎあっている筈なのに。

「さすがダメツナだな…」

「ダメツナ言うな!分かってんだよ。でも嫌だって言ったらお前どこか行っちゃうだろ?それも嫌なんだ。」

「…我が儘なヤツだ。」

「そっちこそ!」

本質的な部分を意味も分からず理解しているツナの手を引くと手の甲と薬指に口付けを落とす。
わざとリップノイズを立てて。

「ずっと傍に居てくれんだろ?なあ、綱吉。」

言えばトマトのように熟れた顔が口をパクパクさせてこちらを睨みつける。

「…そういう時だけ名前を呼ぶのってずるくない?」

「そーか?そう感じんのはてめぇ次第だろ。」



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