リボツナ | ナノ



4.




はだけたシャツ一枚で部屋に戻ると、皺くちゃのシーツを握り締めたままの綱吉の横に腰掛ける。
あからさまに怯えた瞳でこちらを窺う綱吉の肩を引き寄せて口付けた。

今朝方までの余韻が残る身体は、たやすく火が点いて重ねた舌もすぐに絡み付いてくる。
それでも理性はあるのか手で肩を押しやろうとする綱吉の手首を掴むとそのまま精液と汗にまみれたシーツの上に折り重なった。

「まっ…て…っ!」

首を振って口付けから逃れようとする綱吉の舌足らずな声に、益々煽られてその舌を絡め取る。熱くなる吐息を重ねて奪うとくてっと力が抜けていった。
もう抵抗する力も残っていないのだろう。

ぐったり投げ出された身体に手を這わせるとううんとくぐもった非難の声が上がる。
それを無視して膝裏を抱え上げ、するりと奥へと指を突き立てた。
途端、びくりと身体が痙攣を起こす。
それでももっと大きな起立を飲み込んでいたそこは、2本の指も難なく受け入れた。

口付けを解き、首筋に赤く散る跡を唇で辿りながら指で自身が放った白濁を掻き出せば、その度に切ない声を上げる。素面になっても拒絶しない綱吉の身体とは別に、綱吉の口から哀願が零れた。

「もう…やめ、て!」

「ココは自分じゃ出せねえだろ?」

突き入れる度にドロリと腿を伝う白濁は綱吉を自身の所有に出来た証のようで、暗い愉悦が湧き上がる。汗ばむ肌に新たな跡を残していくと、しゃくりあげる嗚咽が聞こえてきた。

「ごめ…ん!ごめんな…」

誰に言うともなく漏れる言葉に顔を上げると、顔を覆っている手から涙が伝い落ちた。

「変なもん飲ましてごめん。依存性はないからすぐにおさまると思う。…だから、これ以上は愛人として。」

「てめえは…」

「悪かったと思ってる。昨日は爺さんたちに跡継ぎ作れってせっつかれて…これ以上は待てないって、今日1ダースも相手をしろってさ。ムリだと思わない?だから誰かにセックスの跡を残して貰いたかった…ただそれだけだったんだ。」

手で隠された表情は読めない。
呟く声だけが妙に響いた。

「…誰でもよかったってことか?」

思いの外冷たい声が出ると、綱吉の肩がびくりと揺れる。

「うん……」

顔から手を外し、はっきりとこちらを見据えて返した声に気が付けば拳を叩きつけていた。
それを瞬き一つしないで受け止めた綱吉の唇に歯を立てる。
噛み切った唇から鮮血が顎を伝って零れ落ちても、逸らさない瞳の強さに苛立った。

「だから、気にしないで。」

言い切った顔はボスの仮面をつけていた。








珍しく荒々しい足音を立てて出て行った背中を見送ると、起き上がることも億劫なほど酷使した身体をベッドから起こしてシャワー室へと向かった。
歩く度に零れ落ちるぬめった感触は、生理的嫌悪と精神的な充足感とを同時に抱かせた。

たとえ薬の効果であっても、一晩だけは愛されたのだという証拠がこれだ。
身体の節々が痛み、受け止めた奥は歩く度に異物感が増すようで引き攣れている。いまだ何かを挿し込まれているかのようだった。

ドアを開け、コックを捻ってぬるま湯を頭から被ると情事の跡さえ流れていくようだ。互いの匂いが薄れていく。
腰を掴んだ大きな手の感触も、肩を押し付けられた痛みさえも消えてなくなる。
零れたため息は足元を叩く水音に掻き消されて、肌に残された赤い鬱血と歯型が残滓を窺わせるだけだ。

いつからなんて覚えてもいない。
ほんの最近気が付いただけで、本当はずっと前からだったのかもしれない。
リボーンのことを誰よりも深く想っていた。

ボンゴレの血を残すこともボスである自分に課せられた役目だと知っていたのに。
知っているから逃げられない。
ボンゴレなんてぶっ壊してやると息巻いていた自分は何処にいったのだろうか。

「あははは…種馬の気分ってやつ?」

独白に誰の返事もありはしない。








各幹部の娘だったり、親戚から綺麗どころと言われる女性たちが12人も一堂に会していた。
逃げ出したいのに逃げ出せないのは意気地がないからか、それとも朝まで貪られたせいか。
どちらにしろ今更逃げだせる筈もなく、12人の女性たちを目の前にさあ選べと引き合わされた。

ホテルのラウンジを貸し切ってまでのお膳立てにホトホト嫌気が差したが、それを撥ねつけるだけの理由も無い。
ご自由にと放り込まれたラウンジには、思い思いの場所に座っていてもこちらを窺っていることなどバレバレだった。

こちらを見詰める24の瞳はさまざまで、期待に満ちた瞳から絶望を漂わせた瞳まである。
ならば断ればいいのにと思えど、きっと綱吉と同じ立場なのだろう。
誰かを想ってもどうにもならないこともあるのが現実だ。

そのやるせない瞳を見詰め返して手を取ると、ザッと顔色が変わる。
回りの女性たちの嫉妬に似た視線さえ気付かぬほど白く顔色をなくしたその女性は、唇を噛み締めると綱吉を睨みつけながら立ち上がる。



そうして2人でその場から立ち去った。


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