リボツナ | ナノ



10.




着てきた制服に着替えて、獄寺くんの手当てを済ませると今度は自分の意思でリボーンの後をついていった。
途中、何度も逃げ出したいと思ったが逃げても結局は同じだと諦めた。

何を言われるのかなんて大体分かる。
今まで何も言われなかったことが答えだ。
だから聞きたくないと思ったけど、言われなければ馬鹿なオレはいつまでも期待してしまうだろう。

最後ぐらいはしっかり聞き届けようと背筋を伸ばしてリボーンの後ろを歩く。
そういえば、どうしてあそこにいると分かったのだろうか。

「獄寺くんち、よく分かったね。」

「…メールが届いた。見たことのないアドレスからだから無視しようと思ったんだが、なんとなくツナが居そうな気がしてな。」

誰がなんて思わない。決まっている。
オレが獄寺くんちに居候していたのを知っているのは獄寺くんしか居ないのだから。

「どうしてそんなことしたんだろう…」

教えればリボーンが来るかもしれないと知っていたのに、オレがリボーンを好きなことも、だけどそこから逃げ出してきたことも分かっていたようだったのに。

「本当に好きなんだろうよ、ツナが。」

「…」

だったら呼ばなきゃよかった筈だ。
好きだとは返せなくても、大事な友達だからきっとあれ以上されても逃げなかった。
後ろを振り返らないリボーンは、歩調を少し緩めるとオレの横にやってきた。

「ツナが泣くのを見たくなかったのかもしれねぇな。」

大事な友達を失わずに済んだことが今の唯一の救いだと思った。







これが最後になるだろう洋館の玄関を跨ぎ、大きく深呼吸を繰り返した。
馴染んだ匂いも、窓から見える四季折々の花々を咲かせる庭も、初夏にはカエルの合唱が響く池もこれでお別れだ。
小さい頃に好きだったそれらに心の中でさよならを告げて、3人掛けのソファへと腰掛けた。

リボーンは一人掛けのソファに座り、言葉を捜しているように見える。
もっと取り乱してしまうかと思っていたのに、意外に冷静な自分にびっくりだ。
獄寺くんのところで過ごした2日で覚悟が決まったらしい。

ずっといつか言われると怯えていた。
だけど子供である内はまだ許されるのだと知っていて、それに縋った。

今はどちらだろう。
子供という程幼くもないし、大人というには自覚に欠ける。
曖昧な境界線に居る自分は、それでも大人に一歩一歩近付いていた。

手元を見詰めていた視線を上げ、こちらを見ていたリボーンににこりと笑い掛ける。
まだ笑えた自分を誉めてやりたい。

「リボーンのことが好きだ。」

そう告げると驚いた顔になる。
はっきり言われるとは思わなかったのだろう。

「だけど、それを押し付けることはできないよね。」

「ツナ…」

「大丈夫。オレには大事な友達も居るし、お前がオレのこと大事にしてくれているのも知ってる。何言われてもオレは平気だよ。」

滲みそうになる視界を空気を吸うことで押し止め、ぐいっと口端を上に引き上げる。
今日は泣くもんかと横にあるリボーンを見詰めていると、あの格好つけのリボーンが頭をガシガシと掻き毟りはじめた。

「リボーン?」

「チッ!みっともねぇとか言ってらんねぇな。いいか、ツナ、よく聞け。」

ボサボサの髪のリボーンなんて初めてだ。
それにも構わず顔を寄せられて、なんでか胸がドキドキした。

「オレはお前を好きだぞ。最初に会ったときから。」

「は…はい?」

最初って、オレ小学生だったよな?
どう受け止めていいのか分からない言葉に、目の前の顔をマジマジと見詰めると目が据わったリボーンが視線を逸らすことなくまた喋りだす。

「煩ぇガキだと思ってたのに、追い出せない自分はどうかしたのかと思ってた。その内無邪気に懐くツナがどうしても欲しくなって、それの代わりに女と付き合うようになった。」

知らなかったその当時のリボーンの気持ちに驚きを隠せない。
パチパチと瞬きを繰り返すだけで身動ぎもできずに見詰めていると、バツが悪くなったのかリボーンの視線がわずかに下を向く。

「これ以上懐かれたら手が出ると思ってヤってるところを見せたが、それでもお前は逃げなかった。」

「う、うん。だってショックだったけど、好きだったんだ。どうしても好きだったんだ…」

あの場面を思い出すと、今でも辛くなる。

「…オレの理性に感謝しろ。そこから先も散々人を煽りやがって…」

「だっ、だってオレリボーンが欲しかったんだ!」

「ガキんちょに手を出す訳にもいかねぇと我慢してんのに結局はお前に押し切られた。」

「…」

よくよく考えればそういう関係になったきっかけはオレからだったと思い出した。
やっぱり嫌だったのかと小さくなっていると、ゴロンとソファの上に転がされた。

「今は自分で判断できるな?どうしたい。オレと付き合うか、止めるか、自分で選べ。」

「ちょっと待って…どうしてオレに選ばせるの?」

好きだってずっと前から言っている。こういう関係になったのも元を辿ればオレからだった。
なのに今更なにを選べというのだろうか。

「深く考えてねぇのは知ってる。この世の中、はれた惚れただけで生きていける訳がねぇんだ。分かるか?」

顔の横についた手は触れないように置かれ、覗き込む瞳は真剣だ。
分かっているようで分かっていない自分とそれを取り巻く世界は、答えを出したらどう変わっていくのか。
ふと覗き込んだ先は暗く深い闇で、それでもそこにリボーンがいるのならば踏み出してみたいと思った。
それも世間を知らない子供ゆえだと笑われるだろうか。

そっと手を伸ばしてリボーンの頬に触れると、怯えた目をした顔をのぞかせた。
大人なリボーンは色々知っていて、だからこそ怖いのかもしれない。
オレは周りも見れない子供だから怖くないのかもしれない。

頬を撫でた手をそのまま後ろに回してしがみ付くと、おずおずと抱き返してくれる腕に身を任せ身体の力を抜いた。
大好きと呟くと力が篭ってくる腕の中はやっぱり天国のようだと思った。


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