リボツナ | ナノ



2.




ヤツとの出会いは小学3年生の初秋。



通学路の途中に瀟洒な洋館がひっそりと建ち、しかし越してくる気配のないことに近所の主婦や子供たちも興味を惹かれていた。

手入れの行き届いた庭は、誰かが管理していることを知らせている。
けれど住んでいる気配がないそこは子供たちのかっこうの遊び場で、かく言うオレも忍び込んでは友だちと遊んでいた。

その日は8月の末日だった。
終わらない夏休みの宿題に泣きが入りながらも、昆虫採集を目的に洋館へといつものように忍び込んだ。
子供なら通れる程度の木々の隙間からこっそり進入を果たし、昨日見た赤とんぼとセミを採取すべく網を片手に裏庭へと足を向ける。

住人の居ない空き家だとばかり思っていたオレは足音を忍ばせるということすらしなかった。
暑さに少し枯れた芝生を踏み締めながら池の近くまで近付くと、男が一人パラソルの下でビーチマットの上に寝転がっていた。

足が長いなと思い、その男がそこの屋敷の住人だとは露とも思わなかった。
ただ、どうしてここに大人がいるのだろうかとそればかりが気になって、男に近付くと普通に声を掛けた。

「お兄さん、どうやってここに入ったの?」

オレの気配に気付いていたのだろう男は、まさかそう声を掛けられるとは思わなかったのか掛けていたサングラスを外すと驚いた顔でこちらを見詰める。

黒い髪に黒い瞳が印象的な男だった。
黒髪のせいで日本人だろうと話しかけたが、彫りの深さが違うことに気付いて酷く焦ったことを覚えている。
外国人だと知って掛ける言葉を失っていると、男がぷっと吹き出した。

「どうやってって…ここはオレんちだぞ。それを言うならお前こそどうやって入ってきたんだ?」

「…え?」

小学3年生にもなれば不法侵入という言葉は知らなくとも、他人の家に勝手に出入りすることがいけないことだとは知っていて、そう質問を質問で返されて答えに窮した。
どうして外国人なのに日本語が上手なのかなんて頭の片隅にもない。

ただでさえ暑い気温に参っていたオレは、急に目の前が真っ暗になったことを訝しく思う間もなく意識を手放した。




ちゃぷんという水音と気持ちのいい冷たさに霞んでいた意識が徐々に浮上してきた。
けれど身体は思うようには動かないし、瞼もしっかり開くことはできなかった。
薄っすらとしか開かない視界の先で、先ほどの男が酷く真剣な顔でオレを抱え上げ、それから先ほど寝ていたビーチマットの上に寝かせてくれた。

「おい、気付いたか?」

「う…ん。」

掠れた声しか出せなかったが、どうにか意識があることは伝えられた。
すると男はやっと顔を綻ばせる。
美形ってやつなんだなとやっと理解したオレは、視線の先にある男の顔をじっと眺めるのが精一杯だった。

「人んちに不法侵入の挙句、ぶっ倒れるなんて迷惑なガキだな。」

「ごめ、んなさ…」

言葉ほど怒っていない顔にそう告げられて小さく呟くと、濡れた髪の毛をわしゃわしゃと掻き混ぜられる。

「しばらく寝てろ。今、飲み物を取ってきてやる。」

それがリボーンとの出会いだった。






歩いて5分と掛からないリボーンの住む洋館から慌てて戻ると、すでに獄寺くんが門の前でしゃがみ込んで待っていた。
先ほどの電話を思い出して足が止まると、こちらに気付いた獄寺くんがいつもの調子でニカッと笑い掛けてくれた。

「ちょっと早く着き過ぎちまいましたか。すんません!」

「いいい、嫌だな。そんなことないって!行こうか?」

「はいっス!」

リボーンのせいで変な声を聞かれてしまったかもしれないと思っていたが、どうやら杞憂だったらしい。
ほっと胸を撫で下ろしていると、斜め上からぽつりと訊ねられた。

「リボーンさんなんですが…」

「なっ?!なんでリボーン?」

あいつの声は聞かれていなかった筈だと思う。
一体どうしてバレたんだとこっそり横目で獄寺くんを窺うと、同じようにこちらを窺っていた獄寺くんの視線とかち合った。

「いえ!その、リボーンさんと今日は約束してなかったのかと思いまして!」

そんなこと言われるほどあいつとは出掛けたことはない。
大抵、夜ふらりと現れては母さんを嘘八百で誑し込んでオレをあの洋館に連れていくだけだ。

月に2〜3度、多いときには4〜5度連れ込まれてはあいつの気が済むまで付き合わされる。
嫌なら嫌と言えばいいと言われそうだが、精通から今までずっと慣らされ続けた身体は今更逆らえやしない。
痛さと気持ちよさを行き来する行為に最近は心が疲れてきた。

「あいつとはどこにも行かない。だってオレはあいつのおもちゃだから。」

小さく吐き出した言葉に何故か酷く胸が痛んだ。


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