リボツナ | ナノ



1.




夏休みに入ると待っていたかのようにアブラゼミが一斉に鳴き出し、それと同じくして日射量も大きく跳ね上がった。
焼けたアスファルトの上をだらしなく踏み潰した靴で歩いて行く。

野球観戦など趣味ではないが、出会った頃からずっとお慕いしている方からのお誘いを断るバカは居ないだろう。
少しでも会えるなら、かったりー応援も我慢できるというものだ。

待ち合わせ場所の校門も前に辿り着くと、待ち合わせの3分前だった。
確認のために取り出した携帯をまた胸ポケットにしまおうとした時、専用の着信音が手の平で鳴り出した。

「はい、獄寺です!」

声のトーンが弾むように上がる。

『わっ!びっくりしたあ…もしもし、沢田だけど、』

今日も可愛らし…いや、しぶい声が耳元から響き、嬉しさに頬が緩む。

「おはようございます!勿論すぐに分かりましたよ!」

『おはよう、元気だね。あの、ホント申し訳ないんだけど待ち合わせに遅刻しそうなんだ。まだ家でさ、だから先にバスに乗って球場に行っててくれる?』

支度をしながら電話を掛けているのだろう、慌てた様子で気を使って下さった。
だが、

「とんでもない!沢田さんがいらっしゃらないなら、オレも行きません!」

『ええぇぇえ?!ちょっ、オレ行くよ!山本と約束したし!球場まで路線バスで行こうと思ってるだけだから!!』

「それならオレがそちらに向かいます。」

『悪いよ。オレまだ着替えてる最中だし…』

「いいえ!沢田さんと一緒がいいんです!」

『そう…?じゃ、オレ急いで支度するから…っ!ん、んん!』

電波の入りが悪いのか、突然声が聞き取り難くなり、切れ切れにしか届かない。

「沢田さん?」

『…ぁ…や、……め…ひゃっ!』

携帯電話を手で押さえているのか、切れ切れな上にごそごそと音が被り聞き取り辛いが…。
ごくりと唾を飲み込んで、慌てて電柱の影に隠れて、携帯電話を握り締めた。

『も、やだぁ…!いかないと、』

布擦れの音と、手で携帯を押さえているために擦れる音に混じって聞こえる言葉に聞き耳を立てた。

『…だからイかせてやるぞ……』

『ちがっ、ひっ!や……っ、ふっ、ああぁ!』

普段では想像もできないような艶っぽい声に、往来だということも忘れて聞き入っていると突然通話が途切れた。
耳元に沢田さんの声が木霊している。

大好きな人のそんな声を聞いたら、他にもなにも考えられなくなるのは男なら誰しも分かると思う。
かく言う自分もだらしなくはみださせていたシャツに助けられてはいても、膨らんだ中心に罪悪感を感じながらも幾度も反芻していた。

そこへまた沢田さん専用の着信音が鳴り響く。

「は、はい!聞いてません!イった声なんて聞こえてません!」

『…その声、獄寺か?』

沢田さんの少し高め甘い声ではなく、低い色気の滲む声には聞き覚えがあった。

「リボーンさん、ですか?」

『ああ。』

オレたちより5つ年上の、沢田さんちのお隣さん。
学年が上過ぎて在学が重ならないが、それでも色々な意味での並盛の有名人だった。

そんな人が何で沢田さんの電話を使ってオレに電話をしてきたんだ。
そもそもあの状態で沢田さんの電話をすぐに使えるということは、その場に居たということで、あの声は明らかにイかされた声な訳で…

嫌な予感に顔を引き攣らせていると、オイと一層低い声が電話先から掛かった。

『イイ声だっただろう?今、後始末をしにシャワーを浴びているところだ。そうだな、あと20分は支度にかかるんじゃねぇか。てめぇも同じくらいかかるだろ?』

くくくっと嗤われて、沢田さんの声に反応した身体を見透かされたようだ。いや、分かってやったのか。
悔しさと恥ずかしさに電話を切りたくなったが、これだけは聞きたかった。

「その…沢田さんとはどんな関係なんですか?」

そう訊ねるとしばらく考えていたリボーンさんが、諦めたとでもいうようにあっさりと言った。

『あいつはどう思っているか知らねぇが、オレは出会った頃から好きだった。7年も待ってたんだ、オレの邪魔をしやがったらただじゃおかねぇぞ。』

「はいっ!」

最後のドスの利いた声に背筋を伸ばして返事をすると、咄嗟に通話を切った。
それにつけても今日は色々なことを聞いてしまった。

沢田さんのイく声のエロさはしばらくおかずになるだろう。
携帯の録音機能を使えなかったことが悔やまれる。

それにリボーンさんの話。

「あ?7年前っつたか?」

今、高1のオレたちは16歳になるところだ。7年前といったらまだ8つか9つの小学生だった筈で…

「ショタ?」

獄寺の中でリボーン、ショタコンフラグが勝手に立っているとはリボーンもついぞ知らない。


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