9.手元に落とされた猿轡の端を握り締めると、こちらを向けとばかりに下から突き上げられて口から声が零れた。 さんざん声を張り上げたせいで自分の声とは思えないほど掠れている。 口を閉じたくても閉じられないほど暇(いとま)ない突き上げに、喉の奥がヒリヒリして痛い。 尻を手で掴まれ、下へ押さえつけられて深く咥えこんだ。 幾度も注ぎ込まれた白濁がぬるんと奥から滲み出し、オレの腿と先生のズボンを汚していく。 縋るものを求めて先生の肩にしがみ付くと首筋に舌を這わせてきた。ネロッと舐め上げられて奥の熱塊をぎゅうと締め付ける。 何をされても抵抗もできずに受け入れてしまう身体が怖い。 シーツの上にはオレが吐き出した白濁が零れ落ち、しみを描いたその上にまた新たなしみを作っていく。 意識が飛ぶほどイイのに、本当に気絶するほど酷くはしない。その匙加減の絶妙さにオレ以外の人との情事がちらついて、腹立ち紛れに目の前にある髪を引っ張った。 「いっ、何しやがる。」 動きを止めて首筋から顔を離した先生は不機嫌な顔のままこちらを振り返る。 「どれだけの人としたの。」 「なに?」 問い返す先生の顔は益々渋くなっていき、寄せた眉根が深い皺を刻んでも、口から漏れる言葉は止めようがなかった。 「何人とセッ…エッチしたのかって聞いんの!」 「……んなもん数えてられるか。数えてたらそっちの方が気持ち悪ぃ。」 つまり数えきれない人としてきたという訳か。 初めてのオレを散々好き勝手しておいて、自分は誰とどれだけしていようとも悪びれることもない。所詮その程度ということをつきつけられて胸の奥がジクリと鈍く痛んだ。 これ以上答える気はないと、また奥を擦り上げはじめた先生の肩にしがみついて律動を重ねる。 繋がっている部分を指でなぞられ、ヒッ!と声を上げてしがみつく。すると起立と一緒に指も捻じ込められた。 「あっ!やぁ…あんン!」 膝をついて逃げ出そうとすると、舌で乳首を舐め取られる。散々吸い付かれ、噛まれたそこは赤くぷっくりと立ち上がっていた。 指で窄まりの奥を擦りながら、舌でしこりを転がす。 逃げ出そうとついた膝がカクンと落ちると、思いの外深く飲み込んだ。 「あーーっ!」 仰け反って余すことなく繋がったそこから、先に注がれた精液が勢いよく溢れた。 ヒクついた奥が熱塊をきつく締め付けると肩の上から荒い呼吸が聞こえてくる。 互いに汗まみれ、精液まみれのひどい姿だというのに不思議と嫌悪感は湧かなかった。 先生の額に浮かんだ汗を舐め取ると、驚いた顔でこちらを見る。 してはいけなかったのだろうか。 だとしたらどうして先生はオレの汗や白濁を舐めたのだろう。 起立から溢れた白濁を舐め取ったままの口で交わした口付けはひどく青臭い匂いがした。おいしくもないそれを一滴残らず吸い取ると、汗の浮かぶ肌をしつこいほど舌で弄られた。 もどかしさに喘いで自ら先生の上にのったのは先ほどの話だ。 どうしてオレだけダメなんだろうと先生の顔を覗くと、少し照れた顔をした先生が視線を逸らせていた。 嫌な訳ではないのだと知って、今度は首筋を伝う雫を舐めてみた。 途端、奥に居座る起立がビクリと大きく跳ねた。 「っ!」 息を詰めて声を殺す先生にもっとよくなってもらおうともう一度舌を這わせようとすると、ベッドの上にゴロンと転がされた。 繋がりを解かないままでの振動に悲鳴が零れた。 「あぁん!」 みっともない声に頬を染める間もなく奥を穿たれる。足を目一杯押し上げられ、広げたそこに挿入してきた。太くて熱い塊に激しく突き上げられてぬぷぬぷと卑猥な音が部屋に響く。 もう出ないと思っていたのに、性懲りもなく起ち上がる自身からは先走りが白濁に混じって零れる。 掻き回される気持ちよさにただ喘ぐだけだ。 縋るものを求めて枕に手を伸ばすも、その手を掴まれ握り込まれた。 上から覆い被さってくる顔に向き直って口付けをかわす。 差し込まれた舌に重ねるように舌を差し出して絡め合わせた。 律動をやめないままの身体とは別に貪る舌はねっとりと口腔を蠢く。 鼻から漏れる息さえ甘くなっていき、重ね合わせた手に力が入る。 最後に舌を強く吸われ、息苦しさに喉の奥が鳴ったところで唇が離れていった。 「…人から主導権取ろうなんざ10年早えぞ。」 「ちがっ…ひっ!」 声を上げて否定しようとしたところで、またも強く擦り上げられて悲鳴が混じる。 手を離し、身体を抱えられて抉るように深く激しくなる動きに意識が飛んでいく。 何度目なのかも忘れた吐精は絶頂感だけ連れてきた。 勢いも量も少ないそれの代わりに、奥に叩きつけられた白濁は腹の底にまで犯していく。 もう腕を上げることも億劫で、身体の上に覆い被さっている先生の肩を齧ると耳朶を舐められる。 ゾクリとする感覚に身体が反応して肌が粟立つ。 んンっ!と漏れた声にクツクツと笑われて背中に爪を立てた。 「浮気は懲りたか?」 耳の穴に舌を差し込まれ、もう動けない身体がビクビクと跳ねた。 いつまで経っても出ていかない先生の起立は、その度に硬さを増していく。 これ以上は付き合えないと引っ掻く爪に力を入れても、耳を嬲る舌は退く気配もなかった。 「も、ムリだって!ね、がい…はなれ!」 「おねだりか?それならもっと上手に言えたら聞いてやる。」 緩く動き出した腰が動けないと思っていた身体に火をつける。 起立を突き入れられ、コプッと白濁が尻を伝い落ちていった。 震える身体を撫でられてどうにもならない疼きが湧き上がる。 「二度と浮気はしません、だ。」 硬さをもった起立が中を強く緩慢に挿し入れていく動きに、身体がビクビクと跳ねる。 それでも言葉に納得できず、再び先生の肩に噛み付いた。 「この撥ねっ返りが…」 「ん、はっ、あ…っ!」 膝裏から腿を撫でる手はもどかしくなるほどゆっくりとのぼっていく。 イくだけの体力もなく、気絶するほどでもない刺激に、とうとう涙が滲みはじめた。 それに気付いた先生が動きを止めて眦を舐め取る。 最後の一滴まで舐めると、呆れた声が上から掛かった。 「泣くほど嫌なら先に言え。」 「違うよ、違う。先生が理不尽だから、悔しかっただけだってば!」 「…理不尽だ?」 訝しげに顔を覗き込む先生を下から睨みつける。この年で泣いてしまったことへの八つ当たりも兼ねているが、元々は先生が悪い筈だ。 ジッと目を見詰めていれば、やっと奥から起立を抜かれた。 抜き取られる感覚にぶるりと身を震わせていると、先生が腕に抱き締めてくれた。 大事にされているのは自分だけじゃないのかと錯覚しそうになって、ブンブンと頭を振って甘い考えを追い出した。 これはこの手の人種の常套手段だ。 それでも振り払えないのはやっぱり好きだからに他ならない。 額を鎖骨にくっ付けながらぽつりと本音を漏らす。 「…オレばっかり責めるけど、先生も一緒だろ?デートしててもお構いなしに掛かってくる電話とか、塾の講師、前は他の女の人とのデート現場も見たことあるしね。」 「お前、」 「別に、先生大人だし。金も権力もあって顔もよければ寄ってくるよね。分かってるよ。でもさ、だからってオレまで疑うのは失礼だろ。山本は友だちだよ。…先生とは付き合ってるけど、それって先生にとってはたくさん居る中の一人だろ?自分のこと棚上げしてるよ。」 そこまで吐き出して唇を噛んだ。 今まで言えなかったこと、言いたかったことだけど、これを言ったら最後だと思っていた。 もう動きたくもないほどだるい四肢に力を込めて腕から抜け出そうともがく。 抜け出したと思った瞬間に腕を引かれて後ろから抱き締められた。 . |