リボツナ | ナノ



4.




屋上に男3人で弁当を広げるのも、もう中学からの癖のようなものでここに他の誰かを入れるという気もない。

山本は野球部期待のルーキーだけどそれを鼻にかけることはないし、獄寺くんは見た目は格好いいが愛想というものは基本的にない性格なのでオレたち以外とは話し掛けられても無視だ。
そうしてオレは2人ほど秀でたなにかがある訳でもないので、結果として3人だけの昼食となっている。

そこにいつもとは違う携帯電話の着信音が鳴り響いて、慌てて自分のズボンのポケットを漁る。
一人だけ特別に変えた着信音はまだ慣れていないせいか、メールの着信なのに思わず電話に出そうになった。

「もしも…違った。メールだった。」

昨日の今日での先生からのメールに照れながらも目を通していると、横に座っていた獄寺くんがこちらを窺っていた。

「あ、話の途中でごめん!」

宣言通り、衒(てら)いのない口説き文句が羅列するメールに染まる頬は隠せないながらもどうにか取り繕って携帯電話を閉じる。
それを見ていた山本が不審げに声を掛けてきた。

「誰からのメールなんだ?」

訊ねられて疚しくもないのにドキッとした。
いずれは知られるのだし、この機会に言ってしまおうか。
山本も獄寺くんも偏見はないと思うのだが、やはりどう思われるのかは気になった。

「せ、先生。」

「また家庭教師を雇われたんですか?」

獄寺くんが驚いた様子で身を乗り出してきた。
それに頭を振って詳しく返す。

「違う、違うよ!あの…前に家庭教師をしてくれてたリボーン先生なんだ。」

「ああ、あのおっかねー先生な。あれ?もう辞めたんじゃね?」

「うん、昨日たまたま本屋で会ってさ。それで、その……つ、付き合うことになっちゃったっていうか、」

濁しきれずに思わず零れた言葉に、山本も獄寺くんも無反応だった。
否、反応が遅れたらしい。

一分ほど重い沈黙が降りて、やっぱり言わなきゃよかったと項垂れていると、横から獄寺くんが、前から山本がいきなり迫ってきた。

「ツナ!」
「沢田さん!」

「はいぃ!!」

間近に迫った2つの顔に悲鳴を上げる。
すると左右の手を取られて力一杯握られた。
痛い、痛い、痛いってば!

「ツナは男も平気だったってことだよな?」

「う、うん?」

そう聞かれると困る。別に先生が男だから好きになった訳じゃないし、女だったらもっとよかったのかと訊ねられても先生だからよかったとしか言えない。
でも普段は男と女の子なら断然女の子の方がいい。
どう答えても惚気にしかならないので返答に困っていると、今度は獄寺くんが訊ねてきた。

「オレのことはどう思われますか?」

「へ?友達。」

いくら付き合う相手が男だろうとも、友達と恋人の区別ぐらいは出来るのだと返すと、何故かがっかりと肩を落として打ちひしがれはじめた。
もっと早くしていればって、何を?

山本と獄寺くんの態度からは嫌悪とか軽蔑とはの悪感情は見られなくて少しほっとした。
ほっとした気持ちのまま照れ笑いを浮かべると、なんとも複雑そうな顔で笑い返してくれたのだった。








待ち合わせ場所に着くと、すでに先生は着いていた。
いつもよりかしこまった印象のスーツ姿の先生は遠目で見ても目立つ存在で、周囲を歩く女の人はチラチラと横目で窺ったり、足を止めたり、声を掛けようかとしてか近付いてきたりしていた。

「先生!」

そう声を上げる前に気付いていた先生はオレだけを見て手招きする。
周囲の女性たちのあからさまな嫉妬が矢のように突き刺さった。
それでも勢いよく先生の目の前まで駆けつけると、周囲の目を気にせずに抱き締められて汗が吹き出る。

「せせせ先生?!」

昨日みたいにキスまでされたら堪らない。
必死で手で身体を押し返していると、オイと不機嫌さを隠さない声が落ちてきた。

「後ろの2人はなんだ?」

「うしろって…」

顔を後ろに向けると、獄寺くんと山本が慌てて木の陰に隠れるところだった。

「なんで?!」

「そりゃこっちが聞きてぇぞ。まあいい。それより家に連絡はしたか?」

「う、うん。先生が挨拶しに来るって言ったら、何か父さんまで待ってるって…大ごとになって、ごめん。」

付き合うことになったとオレの親に報告したいと言われて、両親に話すとさっそく明日にでも連れてきなさいと言われた。それを先生に電話すれば、勿論挨拶に伺うつもりだったと返されて。

オレのことを思ってくれているからこその態度なのに、そこまで気を使わなくてもと尻込みする気持ちもある。
だってしょせんはただのお付き合い。結婚する訳でもないのに、先生が大人でオレが高校生だからこうなるのかと思うと申し訳なくなった。

しょんぼりと肩を落としていると、オレを抱き締める先生の腕に力が入ってきた。

「く、苦しい…!死ぬ、」

「もうちっと色気のある声を出せねぇのか?」

「ムリだろ!」

やっと腕から抜け出したオレはそう怒鳴る。すると先生はニッと笑うとオレの腕を取って歩き出した。
元気のないオレに空元気でもいいから声を出させようとしたらしい。
大声を出すと少し気持ちが浮上してきた。

「先生って、大人だよね。」

「……まあな。」

その間は何を意味しているのか、知るのはもう少し先の話。


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