リボツナ | ナノ



5.




バイト以外になにも予定のないオレは、今日はどうしようかと帰り支度をしているところだった。
山本は野球部だし、獄寺くんはサボりで今日は居ない。
暇だと余計なことを考えてしまうので、家にはまだ帰りたくないと思いながら教室を出るとバッタリと隣のクラスの京子ちゃんと黒川に会う。

「今日もバイト?」

そう訊ねる京子ちゃんに悪気はないと知っているのに、ギクリと身体が震えた。

「う、ううん。今日は休みなんだ。」

しどろもどろにそう答えると、隣の黒川がふーんと呟いた。

「ねえ、京子。沢田も誘おうか?」

「うん!」

なにをだろうと思っていると、京子ちゃんがにっこりと笑いながら近付いてきた。
やっぱり今日も可愛いなと反応してしまう部分と、それで?という冷めた部分が顔を覗かせる。
今までそんなことはなかった。

京子ちゃんともっと仲良くなりがいがために、黒川に唆されてリボーンの素行調査を引き受けたくらいだ。京子ちゃんのことは今でも好きなのに、その筈なのになんだかもやもやが晴れない。

「あのね、今日花とカラオケに行こうと思ってるの。ツナ君も一緒にどう?」

そう訊ねられて、これがリボーンなら一も二もなく車に押し込められるんだよなと思った。
なんでこの場面でリボーンが?京子ちゃんのお誘いなのに、リボーンの顔が浮かんだことに驚いた。
慌てて頭を振るとリボーンを追い出すために勿論!と頷いた。










黒川も上手かったが京子ちゃんもなかなかで、そんな中オレはといえばお世辞にも上手いとはいえない歌を披露する羽目になった。

「元気がよくていいね!」

「…元気っていうか、勢いだけっていうか…」

黒川の余計な一言は聞かなかったことにして、なるべく2人の歌を聴いていると、胸ポケットに入れていた携帯がメールの着信を知らせる。
目配せして少しことわると、外に出て確認する。

やはりというか、当たり前というかリボーンからだった。
山本は部活中だし、獄寺くんはサボりの時にはメールは滅多にしてこない。
そうするとあとはリボーンくらししかいないからだ。

なんの用だとメールを開けると、前にオレが美味しいと感激していたケーキ屋の近くだから買っていってやるとのことだった。
気にしてもらえることにドキドキする。
だけどこれはどう受け止めればいいんだろう。

違う、違う。
オレは普通の男子高校生なんだから、京子ちゃんと一緒にいる方がいいに決まってる。
なのにリボーンのメールを嬉しいと思う自分がいた。

どう返事をしようかと考えていると、部屋から黒川が出てきてひょいっとオレの手元を覗き込んできた。
妙なことは書かれていないのにバツが悪い。
そんなオレに気付かない黒川は、メールを読むときゃあ!と喜んだ。

「ね、あんたに付いていったらリボーンさんに会えるってことよね?付いていってもいい?」

リボーンに会えることを素直に喜べる黒川にもやもやして、そんな自分にもっと苛々した。

「勝手にすればいいだろ。」

「なによ。いいわよね、あんたは。自分だけ幸せでさ。」

「…なんのことだよ?」

いきなりむくれ出した黒川の意外な言葉にそう返す。だけどそれは意味を持たない言葉だと思っていた。
オレがそう切り返すと、あーあ!と声を上げて肩をバンバン叩かれる。

「あんた、京子のこと好きよね?」

「う、うん…」

「なによ、はっきりしないわね。草食系が流行りだからって私は嫌だわ。」

「ほっとけよ!本当に口悪いな!」

あんまりな言い草に見せていた携帯電話をたたむと、ごめんごめんと軽く謝られた。

「でも、私以外には好かれてるってことよ。」

「黒川以外?」

抽象的すぎて分からなかったので曖昧に笑っていると、背中をひとつ叩かれた。
先ほどからこいつバンバン叩いて、サンドバックだとでも思っているのか。
痛さに声を堪えていると、この鈍チン!となぜか罵られた。











カラオケを出ると、丁度のタイミングで店に横付けされた黒い車から見慣れた顔が手を上げていた。
本人も着ているスーツも黒を基調としているのに悪目立ちするでもなく自然に人目を引くリボーンを見て、隣の黒川がきゃあと騒いでいた。

「あの人が所長さんなの?」

「うん。いいのは顔だけで、性格は何様オレ様だから近寄らないほうがいいよ。」

「バッカねー!そこがいいんじゃない!」

京子ちゃんは特に変わった様子もなく、にこにことしている。
黒川のようにはしゃいでファンになられなくてよかったという気持ちより、京子ちゃんたちと一緒のところを見られて間が悪いと思った自分はどうしたのだろうか。

それでもリボーンの車に近付いていくと、ケーキの箱を掲げて早く乗れと手招きされた。
いつもの癖で乗り込もうとすると、黒川ががしっと手首を掴んできた。

「ちょっと!京子を送っていきなさいよ。」

「へ?」

「代わりに私が送ってもらうんだから!ってことで、ほら!」

お節介の黒川に突き飛ばされて京子ちゃんの横に押しやられた。
一連の動作と会話を聞いていたリボーンは、顔色も変えずにため息を吐くとオレに声を掛けてきた。

「あとで家まで届けてやる。送ってこい。お嬢さん、どうぞ。」

言われてかなりショックだった。
別にどう思われていようが構わない筈なのに、本気でどうでもいいのかと思ったら金槌で頭を殴られたみたいに眩暈がした。

キャッキャッとはしゃぐ黒川を乗せてゆっくりと走り出した車を見送ると、隣の京子ちゃんが大丈夫?と声を掛けてくれた。

「うん、ちょっと暑かったからくらっとしただけだよ。行こうか。」

京子ちゃんが悪い訳でも、黒川が悪い訳でもないのに、ぎゅっと心臓を握られたように血の通わなくなった身体をそれでも奮い立たせて歩き出した。


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