リボツナ | ナノ



3.




そんな理由でリボーンの探偵事務所に通い始めて2週間が過ぎた。
その間に学校は始り、例のオレとリボーンを引き合わせた原因を作った張本人にその経過を知らせると、でかした!沢田にしてはよくやったじゃないと褒められた。
微塵も嬉しくないけど!

「ねぇ…リボーンさんて幾つなの?」

「35歳。」

「一回りも上なんだ。素敵…」

どこが素敵なものか。あいつはそんな一回りも下のオレにあ、あんなことやこんなことまで…。
いやいやいや!最後まではされてないよ!そこは最低限守っておかないと、じゃなくて!

「沢田…?なに悶えてんの?あんたの気持ち悪い踊りより、リボーンさんの情報を流しなさいよ。」

「って言われても、何が知りたいんだよ。」

「そうねえ、やっぱり恋人はいるのかとか…年下も守備範囲かとかぁ!もーなに当たり前のこと言わせんのよ!」

ドン!と背中をド突かれてよろよろと壁に激突した。
小柄なオレとそんなに変わらない彼女の張り手は鋭かった。
そもそも、中学生の頃から想いを寄せていた彼女の友達じゃなかったら絶対口を利かないタイプだ。

彼女への橋渡しを条件にあいつの素行調査を引き受けたりしなければ…!
後悔はやっぱり先には立たないらしい。
壁と仲良くなりながらも嫌々教えてやる。

「年下は全然平気みたいだよ。恋人は掃いて捨てるほどいるからどれが本命かは分からないけど。」

「それなら少しは希望があるかも?」

「…あるんじゃないの。」

オレに手を出すくらいだから、誰でもよさそうだ。

「よし!これからも吉報を頼むわよ、沢田。」

「って、黒川約束は?」

意気揚々と隣の教室に消えようとする黒川に声を掛けると、扉に手をかけた格好でグッと親指を立てて快諾の印を掲げてくれた。
本来なら飛び上がるほど嬉しい筈なのに、今は嬉しさ半分、悲しさ半分だ。

「汚れちまった悲しみにーとかってヤツ?」

意味が違うと怒られそうだけど。










手荷物を纏め、今日も事務所へと足を運ぶ。
学校から徒歩10分のそこは、たった2週間しか通ってないのにもう第二の我が家のようなものだった。

最初、帳簿付けをさせようとしていたらしいのだが、オレはそういった作業は苦手だった。
いや、苦手というレベルじゃなかった。
だったらバイトから外せと思っていたのだが、資料集めの手伝いをさせられた。
そちらはそこそこできたので、そのままお茶酌みと資料集めをしている。

所員は所長のリボーンを含めて4人。オレを入れれば5人だ。
帳簿付けと尾行を担当しているスカルさんの声が事務所から聞こえた。

「だからどうしてたかだか尾行にこんなに費用がかかるんですか?」

「うるせぇ、オレに尾行させるから悪ぃんだ。」

居直るリボーンの声に、スカルさんが余計なところで喰ってかかってまたボコられるんじゃないのかと思っていると、その直後にゴツっという鈍い音が響いて声が聞こえなくなった。
慌てて扉を開けるとぐったりとしたスカルさんが机に突っ伏している。

「ぎゃー!何してんだよ?!死んじゃったらどうするの!」

「平気だぞ。こいつは打たれ強いのだけが取り柄だからな。」

スカルさんの顔を覗き込んで意識を確認すると、ぼんやりしているとはいえ意識はあった。
胸を撫で下ろして冷蔵庫からアイスノンを取り出すとスカルさんの頭に乗せてやる。

「すまないな。」

「いいえ、横暴上司に苦労されてるのは分かりますから。」

この人は実務も経理もできるのに口が余計でいつも酷い目に遭わされている。
それでも酷すぎるんじゃないのかと思ってそう口を滑らせると窓を背に長い足を机に投げ出しているリボーンがチッと舌打ちした。

「な、なんだよ?!」

勢いはいいが、逃げ腰だったりする。
スカルさんにアイスノンを押し付けるとそそくさと逃げ出そうとしてペーパーナイフが真横を横切った。
先が尖っていないとはいえ、投げるスピードがスピードで当たれば痣くらいはできるだろう。

そうっと横目でリボーンを確認するとイイ笑顔でこちらを見ていた。
イイ笑顔すぎて目に眩しい。

「もう一本は手が滑るかもしれねぇな。ん?素直にこっちに来るか?」

「……」

行くしかない。
一番最初の頃、口答えをして逃げ帰ろうとしたらダーツの的にされたことがある。
百発百中の腕前だと後で聞いたが、本当に偽りなしだった。
頬を掠めるダーツや、洋服を裂くダーツの軌道の正確なこと。
二度と逃げないと心に決めたぐらいだ。

恐る恐る近付くと、頭の上に財布が落ちてきた。
分厚いそれはリボーンの私物だ。

「10分以内に××のモンブランな。それ以外は適当に買ってこい。」

「ええっ!あそこ行くだけで7分はかかるんだけど…」

「そうか、そんなに的になりたいのか。」

「行ってきまーす!」

財布を抱えて一目散に逃げ出したのは言うまでもない。










ダッシュで駆け込んだ店内に、悪魔のような知り合いと天使な彼女がケーキをつつき合っていた。
なんで京子ちゃんは、あんな自己中な女と友達なんだ。
あれか。可哀想でほっとけないってヤツか。なんて失礼なことを思っていると、その天使がオレに気付いて手を振ってくれた。

「ツナ君!」

「京子ちゃん!と、黒川…」

「なによ、失礼ね。まあいいわ、こっちにいらっしゃいよ。」

何気なく声を掛けてくれたけど、どうやらリボーンの情報に対する報酬らしい。
京子ちゃんに見えないように目配せをしている。
嬉しいのだが、今はリボーンのおつかい中だ。
マジで10分以内じゃないと、なにされるか分かったもんじゃない。

「今バイト中だから、ゴメンな。」

「そうなんだ?ツナ君、バイトって何してるの?」

興味を持ったらしい京子ちゃんが座っていた座席から立ち上がるとこちらに近付いてきた。
黒川は笑っているだけで口出ししない。

「えーと、探偵事務所の雑務かな。」

「そうなんだ!今度どんな仕事なのか聞かせてくれる?」

「う、うん。いいけど、秘守義務もあるからそれ以外なら。」

「ホント?それなら明日、お昼に学食でいいかな。」

「うん!」

まさか京子ちゃんからそんなお誘いを受けるとは思わず、嬉しさのあまり店内に響く大声で返事をしていた。
それを聞いていた黒川は肩を竦めて苦笑いしていたけど、笑いたければ笑え。
やっとオレにも遅い春がやってきた!と喜んでいたのだ。その時は。

それがまさかああいう風に話が転がるなんて思ってもいなかった。


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