リボツナ | ナノ



7.




突然現れた金髪の少年に慌てたのは綱吉だけでした。
京子ちゃんはといえば、驚いてはいても目の前の金髪の少年が猫のコロネロだとは気が付いていないようです。

「あら?はじめまして、君もツナ君の従弟なの?」

「違うぜ!オレは猫の…ふぐっ!」

いきなりファンタジーな現実など受け入れられる訳がありません。慌てて綱吉が金髪の少年の口を塞ぐと顔を引き攣らせながらそうなんだと頷きました。

「リボーンと一緒に来た従弟なんだ。そういえばコロネロが見えないね!」

「だからここに…」

余計な口を出す金髪の少年の足を踏んで黙らせます。それに気付かない京子ちゃんはあたりをキョロキョロ見回していないことに気が付きました。

「いたずら好きの従弟のせいでごめんね。きっとその内戻ってくるよ。見かけたら送り届けるから!」

「うん、そうだね。それじゃ、またね!」

片手で金髪の少年の口を塞いだまま、もう片方の手で京子ちゃんに手を振って別れを告げると、後ろからリボーンが綱吉の首に腕を巻きつけて引っ張ります。
首を絞められた格好でコロネロから引き離され、綱吉は苦しさにうめき声を上げました。

「うぐっ…くるし!」

「苦しいようにやってんだ、当然だぞ。」

言いながらもリボーンはコロネロを睨んでいます。余程気に食わなかったようです。
綱吉を囲うように腕に閉じ込めているリボーンを見て、金髪の少年は碧い瞳を驚いたように大きく見開いていました。

「ちょっと離せよ!」

腕の中でジタバタと暴れる綱吉の頬にキスを落とすリボーンを見て、またコロネロが間に入って止めてくれます。
ほっとした綱吉とは逆に、ムッとした表情を隠さないリボーンとコロネロは睨み合いました。

「ってかさ、お前ら知り合い?」

「「腐れ縁だ(コラ)。」」

ぴったり重なった声に呆れてものも言えません。
いがみ合っているのは似たもの同士だからじゃないのかと思えど、それを口に出す愚行は冒さないように綱吉は口を閉じました。
すると睨み合っていた2人はフン!と顔を背けてしまいます。

「もう…それならコロネロも家に寄ってきなよ。」

「ツナ!」

珍しく声を荒げたリボーンを余所に、コロネロは綱吉に頷くと猫のように窓から身軽に家へと入っていきました。





しばらく重い沈黙が降りていましたが、お母さんに言っておやつを用意して貰うと2人とも少しずつ口を開くようになりました。
途中で兎と猫に戻る時間が迫ったので話を聞きたかった綱吉は渋々キスを2人にしました。自分の時にはニヤニヤしていた癖にコロネロにしてあげる時には盛大に拗ねたリボーンのご機嫌を取るために今はリボーンに抱えられたままです。

ぬいぐるみにでもなった気分の綱吉はおやつのプリンを口に入れながら複雑そうな顔でこちらを見ているコロネロに話しかけています。

「それじゃ、コロネロもリボーンもイタリア人なの?」

「そうだぜ!」

ふーんと頷きながらも同じイタリア人でもこうも違うものなのかと、リボーンとコロネロを見比べます。同じなのは手足の長さと態度の尊大さです。
対照的な雰囲気の2人に挟まれて身の置き所がないような心許なさに視線がコロネロとリボーンの間を行き来しています。

そんな落ち着かない雰囲気の綱吉をぎゅっと抱き込んだリボーンは自分だけ見ていろと綱吉の顔を固定しました。
それを見てコロネロがまた口を挟みます。

「嫌がってるじゃねーか!」

「フン、てめぇに言われる筋合いはねぇな。こいつはオレの『番い』だぞ。」

「だとしても無理矢理するのはよくねーぜ。」

頭の上でまたも火花が散っている事態に、綱吉は小さくため息を吐くと一番聞いてみたかったことをコロネロに訊ねました。

「あのさ、コロネロは猫から人間に戻ったのはオレで何人目?」

リボーンは綱吉のキスでしか戻れないと言っていましたが、コロネロまで綱吉しかダメだとは思えないのです。ひょっとして京子ちゃんと…なんて想像してしまい、だとしたら間接的に京子ちゃんとしたことになるんじゃないのかと思ったのです。
それを読んだリボーンが掴んでいた綱吉の顔を引っ張り上げると問答無用で口を塞いできました。

「ふっ…う、っつ!」

いつものように触れるだけのそれと違い、ぴったりと合わせた唇は息を吸うことさえ許してくれません。鼻で息をすることすら知らない綱吉は手からプリンが零れ落ちたことすら気付かずリボーンのキスに翻弄されるだけです。
酸欠でこれ以上はムリだと思ったところで隣から助けが入りました。

「やり過ぎだコラ。」

綱吉の肩を掴み寄せてリボーンから外してくれたのはコロネコでした。
やっと空気を吸えた綱吉は肩で息をしながらも酸欠のせいで意識が朦朧としています。
ぐったりコロネロに凭れ掛かる綱吉を奪い返したリボーンは、力の入らない手に幾度もキスを落としながら言いました。

「お前バカだろ。オレが読心術できるってこと知ってて京子とかいう女に浮気心出すなんて、あれか。お仕置き希望か?」

「そんな訳あるかっ!」

うまく回らない呂律でそう叫ぶと指を一噛みされて悲鳴を上げます。
それを見ていたコロネロはなんとも言えない表情でこちらを見ていました。

「それにしてもツナは本当にバカだな。」

「何でだよ。」

「京子がこいつの姿を知っていればお前の従弟扱いする訳ねぇだろ。」

「あ、そっか…」

それもそうだと納得していると、コロネロが綱吉ににじり寄ってきました。
碧い瞳が一層深い青に変わり、爛々と輝いているようです。
何だろう?と顔を寄せるとあっという間に距離を詰められてコロネロにまでキスを奪われてしまいました。

「なっ?!」

「コロネロ、てめぇ!」

綱吉を後ろに隠したリボーンがコロネロに掴みかかると、コロネロは自分でした行為に呆然とした表情でいます。
リボーンの後ろから綱吉はひょっこり顔を出して覗きました。コロネロの顔は自分のしたことに驚いているようです。

「悪い。お前の顔を見てたらムラムラしちまってつい…」

「む、むらむら?」

そんなことを言われたのは初めてです。悪い病気なんじゃないのかと心配していると、今度はリボーンが舌打ちの後忌々しげに頷きました。

「それは分かるぞ。」

「分かるのかよ!」

即座に突っ込みを入れた綱吉は、慌てて2人から距離を取ります。
兎と猫にキスするのはいいけれど、人間の2人にされるのはご免です。
クッションを抱えてバリケード代わりに2人から間を置くと、2人に鼻で笑われてしまいました。

「ま、お子様のツナに無理強いはよくねぇか。」

「あれくらいで逃げられたのははじめてだぜ。」

「お、お前ら外国産と一緒にするなよ!日本人はキスで挨拶なんかしないの!」

年下のくせに余裕で笑われてしまい、綱吉の立つ瀬はありません。
顔を赤くして睨んでいるとまたも2人がにじり寄ってきました。咄嗟に逃げを打つ綱吉とそれを追う2人の追いかけっこは壁が背中に当たったことで終わりを告げます。
ひぃぃい!と声を上げた綱吉に2人は左右から詰め寄りました。

「ツナはオレの『番い』だよな?」

とリボーンが詰め寄ると、

「オレもお前がいいぜ。」

何故かコロネロにまで迫られる有様に綱吉は大きな瞳に涙を浮かべて首を振ります。

「どっちも嫌だっ!兎と猫ならどっちも好きだけど!!」

「「却下。」」

綱吉の悲鳴が沢田家に響きます。
それからというもの、毎日金色の猫が綱吉を待って沢田家の門の上で日向ぼっこをする姿が見られるようになりました。


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