リボツナ | ナノ



5.結局許してしまう




「さあ来い。」

と布団を捲ってリボーンが綱吉を待ち構えています。
それを見た綱吉はジリジリと後退りをしてチラリと時計を確認しました。

時刻は夜の9時。いい子はとっくに寝る時間です。
けれどそれを確認したかった訳ではありません。
綱吉はリボーンがあと何分人間でいられるのかを確かめたのです。

残り2分で兎に戻るリボーンは早くベッドに上がれと手招きしています。
それを首を振って嫌がる綱吉に痺れを切らせたリボーンがむくりと起き上がりました。

「いい加減にこっちに来い。」

「嫌だ!兎に戻ったら一緒に寝てもいいよ。」

頑なに拒む綱吉にリボーンはムッと顔を歪ませるといきなり立ち上がって詰め寄ります。慌てたのは綱吉です。

綱吉とリボーンとではどうやら基本的な運動能力や反射神経が違うようです。
逃げ出そうとドアノブに手をかけたところでその手を引かれてぎゅっと抱きつかれてしまいました。

「お前、なんで逃げるんだ?」

「……だって、」

横から抱きついたリボーンが綱吉の顔を覗き込むと、それすら嫌なのか必死に顔を背けます。
先ほどまでは普通に10分置きにキスもハグもしていたというのにどうしてなのでしょう。

納得のいかないリボーンは綱吉の顎に手をかけて力ずくで自分の方に向けました。
すると泣き出しそうな顔をした綱吉が視線も上げずに逃げ出そうともがきはじめます。

「ちょ、こら。逃げんな。何が嫌なのか話せ。」

「だって……寝てるときにすると変な感じになるんだってば!」

リボーンの手から逃れようと横に身体がすり抜けたところで背中を押され、バランスを崩した綱吉が床に転がりました。その上をリボーンが体重を掛けて押さえ込みます。

「重っ!」

亀のようにジタバタと手足をバタつかせる綱吉の上に乗り上げたリボーンは、切れ上がった眦をキッと上げて睨みつけています。
それでも逃げ出したい綱吉は顔を床に伏せてリボーンからのキスを防いでいました。

そろそろ時間です。
ぼふん!という音と煙に包まれて黒兎へと変化したリボーンは恨めしげな瞳で綱吉を見詰めています。
それに気付いた綱吉はごめんねと言いつつも心底ホッとした表情で兎のリボーンの背を撫でました。

『どういうことだ?』

説明しろと綱吉に言っても黙ったままリボーンを抱きかかえてベッドの上にそっと乗せ、自身もベッドに横たわります。
最初のキスから数えてもまだ500回にも満たないのに、これでは1万回なんて夢のまた夢です。

不満をありありと瞳に乗せ、鼻を動かすとヒゲをぴくぴくと前に突き出しました。
それを見た綱吉が苦笑いしながらいい訳をはじめます。

「だってさ、兎のリボーンならドキドキしなくて済むだろ?寝るときくらいゆっくり寝かせてよ。」

ふざけんなと言おうとしたリボーンは綱吉の顔を見てやめました。
綱吉は兎のリボーンに可愛い可愛いといつも言います。けれどリボーンにとっては綱吉の今のような表情の方が可愛いと思っているのです。

ほんのり染まった頬に恥ずかしげに伏せられた瞼。ちょっと不満げに突き出た唇は少し甘ったれた口調と相まってリボーンの心を鷲掴みにします。

こんな時こそ人間でいたいという欲求が湧き、けれど綱吉はそういう時には絶対キスしてくれないのです。

こんなに焦れる思いは初めてでリボーンだってどうしていいのか分かりません。
兎姿のままちょこんと綱吉の枕の横に座っていると白く小さい手がリボーンの背中を撫でていきます。

ほわほわの冬毛に生え替わった兎のリボーンは、その優しい手の感触にいつしか眠りの底に誘われていきました。

大好きだよと雄弁に語る手の暖かさに兎じゃなく人間のリボーンとして一番になりたいんだと強く思いました。

その心の声を聞いた綱吉が撫でる手を止めてリボーンの耳にそっと呟きます。小さい、小さい声で。

「人間のリボーンも同じだけ好きだよ。」

それを聞いたリボーンは短い耳をピクピクさせて抗議します。

『嘘吐け。だったらなんで一緒に寝てくれねぇんだ。』

鼻をもぞもぞ動かして黒い瞳が綱吉のミルクチョコレートみたいな瞳を見詰めます。
すると美味しそうな色の瞳がまばらなまつげに隠されてしまいました。それを残念に思っているとその視線の先で綱吉の目許が赤く染まっていきます。

「だって寝ながらキスするとゾクゾクするんだよ。変でしょう?」

だから嫌だと言う綱吉にリボーンこそゾクゾクさせられました。こんなに強く人間に戻りたいと思ったことはありません。
いてもたってもいられなくて綱吉の頬に擦り寄ると、まだあどけなさの残る丸い頬を枕に押し付けて隠してしまいました。

『ツナ、ちっともおかしくなんかないぞ。オレも同じだから顔を見せてくれ。』

ちょんちょんと鼻先で綱吉のこめかみを突っつくと恐る恐るといった様子で綱吉の瞳があらわれました。
枕の上で一人と一羽の視線がかち合って、またゆっくり閉じたまぶたを見ながら黒い兎が柔らかいピンクの唇にちょんと鼻をくっ付けました。

ぼふん!と音を立てて現れたリボーンを見上げた綱吉は満面の笑顔で迎えてくれた。

「照れててごめんね。嫌いじゃないから。」

そう言ってリボーンの背中を抱き締めてくれた綱吉に力の限り抱き付きます。
痛いよと言いながらも逃げない綱吉はリボーンの背を撫でています。

その優しい手は兎の時とちっとも変わりありません。
兎のリボーンも人間のリボーンも同じだと言うような手に嬉しさ半分、悔しさ半分です。

「オレは人間に戻れるからじゃなくツナが好きだぞ。」

と言うと綱吉は顔を赤くして額に一つキスをくれました。
兎のとき以外では初めて強制ではなく綱吉から貰った口付けです。

本当は唇がよかったけれど、これも存外悪くないなと思ったことは内緒です。
照れ笑いを浮かべる綱吉にぎゅうと抱き付くと素早く唇を奪います。

それに驚いた綱吉にもう一度キスをして手を?パジャマの裾から忍び込ませました。
わき腹を撫でると啄んだ唇からううんと声が上がり顔を横に振って嫌がります。

仕方なく唇を離すと潤んだ大きな瞳が睨み付けてきました。

「そんな顔で睨んでも怖くもなんともねぇぞ。」

そう言って再び口付けようと顔を寄せると今度は手で拒まれました。
さすがにムッとして綱吉を睨みます。けれど綱吉は負けじと睨み返してきました。

「リボーンのバカ!変なとこ触るからゾクゾクするんじゃないか。」

どうやら綱吉は身体を触られるのは嫌なようです。
キスはいいけどそれは嫌だなんてリボーンには理解できません。

「普通はハグしながらするもんだ。だからオレは止めねぇぞ。」

「リボーンのはハグじゃないだろ!なんかやらしい…」

困ったように眉を寄せる綱吉は嫌だと口で言いながらも心底嫌がっているわけではなさそうです。
そんな綱吉の手を取ると鼻の頭を擦り付けて言いました。

「男なんてそんなもんだ。」

「って、オレも男だけど?」

「なら分かるだろ、我慢しろ。」

「誰がするか!バカ!スケベ!」

それでもやっぱり最後に折れるのは綱吉でした。
自分だけに許される特権を手に入れたリボーンが、人間に戻る度にエスカレートさせていくなんてその時の綱吉には想像も付かなかったようです。


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