リボツナ | ナノ



3.おねだり




兎のリボーンが沢田家に住み付いて2日が経ちました。
兎といっても本来は人間のリボーンです。はじめて魔法から開放されて以来、毎日毎日、キスしろと綱吉に詰め寄っています。

『オイ、いい加減キスしやがれ!』

「いやだ!どうして一々オレからしなきゃならないんだよ!最初みたいにリボーンからすればいいじゃないか!」

手の平に乗る黒い兎相手に顔を赤くして喋る姿はある種、シュールでもあり、ファンタジーでもあるでしょう。
しかし事情を知らない人が見れば綱吉がちょっと可哀想な子だと思われかねません。

だからといって黒兎を床に置くこともできません。
中身がオレ様だとしても、手の平に乗る兎は本当に可愛くて綱吉はリボーンを放すことができないのです。

ヒクヒクと鼻を動かすリボーンは、短い耳をぴんぴんと立てて必死に抗議しています。
またその姿すら可愛いのです。

「ううう…可愛い!」

『てめぇ、聞け!最初の時はツナがオレを心配していた。オレも何故か一目見たときからツナがいいと思っていた。この魔法は互いに思いあってなければ解けない仕組みなんだと。だから兎じゃねぇ「オレ」を思ってくれ。』

「……ムリ。」

『んだと…!』

キラキラ光るつぶらな瞳が草食動物らしからぬ色にかわります。
それでも飼い主バカのツナはデレーと頬を緩めるだけです。
地団駄を踏んだ兎のリボーンは、手の平の上でぴょん!と大きく跳ねると綱吉の洋服をよじ登り、肩までのぼっていきました。

頬に当たるふわふわの黒い毛並みにふふふっと笑うツナにリボーンは擦り寄って叫びました。

『いいか、お前がキスしないってんならもうメシは食わねぇからな!餓死してやる!』

「え…ええぇぇ!嫌だよ、リボーン!お願い食べて!」

慌てて肩からリボーンを下ろすと、黒い兎はふん!を綱吉から顔を背けて後ろを向いてしまいました。
兎のリボーンが大好きな綱吉は泣きそうになりながらリボーンを上から覗き込みます。

「ごめんね!オレ、言うこと聞くから!」

『…オレだって人間なんだぞ。もう兎の食事はこりごりなんだ。』

ぎゅっと顔を手で覆うリボーンの声が綱吉の頭の中に小さく小さく漏れてきます。
短い耳をしゅんと寝かせて丸まるリボーンに綱吉は自分の言葉でリボーンを傷付けてしまったのだろうかと心配になりました。

兎のリボーンだけが好きな訳ではないのです。勿論、ピカピカの瞳と艶々の毛並みに愛らしい姿の兎のリボーンは大好きです。
でも人間の姿のリボーンも決して嫌いな訳ではありません。





綱吉より2つ下だというのに少し大きい身体は日本人ではありえない手足の長さを持っていて、その上に乗っかっている顔は兎の時と同じく黒い髪に黒い瞳が印象的な少年です。

最初のキスからすぐ後に、久しぶりに人間の食事を摂りたいと言い出したリボーンに請われるままもう一度キスをした時のことです。

やはりぼふん!と音を立てて白い煙が立ち上り、その中から人間のリボーンが現れてのです。
しかも目の前に。

10センチと離れていない顔に視線が釘付けになっていると、その先で人間のリボーンが綱吉に笑い掛けたのです。
ぎゅうと変な具合に心臓が痛くなって、今まで感じたことのない痛みにどうかなってしまったのだろうかと思ったほどでした。

リボーン曰く、一回のキスで人間に戻れるのは10分足らず。きちんと口と口にしなければならないこと。誰でもいいというわけではないことをその時聞きました。

「それは分かったけど、どうしてオレが食べさせてあげなきゃならないの!」

「途中で兎に変わっちまったら困るだろ。次はそのパスタな。」

見掛けによらず大食漢なリボーンは、次から次へと綱吉に食べさせてくれるよう指示を出します。
その度に大急ぎで口許まで持っていってたべさせてあげているのです。

綱吉のお昼ご飯として用意されていた食事を食べ終えると、綱吉の手からフォークを取り上げて身体を抱き締めてきました。

「な、なに?」

「人間の姿でいる間にもう一度キスすればもっと時間が延びるんじゃねぇかと思ってな。」

そう言うとぐいっと強い力で綱吉の顎を掴んで引き寄せます。
驚いたのは綱吉です。
ただでさえこの顔に近付くとドキドキするのにくっ付くなんて冗談ではありません。

迫ってくる顔を手で押し退けて、その手をリボーンが掴んでまた顔が迫ってと繰り返していると、ぼふん!という音と共に拘束が解かれて、白い煙の中から黒い兎が現れたのでした。

『ツナ、どうしてだ?』

兎姿のリボーンが椅子の上で悲しげに綱吉を見上げていました。






拗ねてしまった兎のリボーンを覗き込むと、鼻をヒクつかせて目を閉じていました。
リボーンにとってみればただ人間に戻りたいだけだというのに、自分の訳の分からない気持ちのせいで嫌だと突っぱねるのは可哀想だったなと綱吉は反省しています。

黒くて艶やかな毛を優しく撫でて、それから垂れてしまっている耳にキスをしてから小さな鼻とその口にそっと口付けます。

すぐに白い煙の中から黒いスーツ姿のリボーンが姿を現しました。
まだ拗ねているのか綱吉に背を向けたまま振り返ってくれません。
どうしようかとその背中を眺めていると、リボーンがこちらを向かずに言いました。

「…ツナは人間のオレより兎のオレがいいんだろう。」

「えっと、違うよ?」

「嘘吐け。だったらなんでキスしてくれねぇんだ。兎のままがいいからじゃねぇのか?」

後ろから見るリボーンの頬が少し膨らんでいます。
綱吉の意固地のせいで本当に怒らせてしまったのでしょうか。

オロオロとリボーンの背中に向かい、綱吉は必死に言葉を繋ぎます。

「違うよ!リボーンも好きだよ!だけど人間のリボーンはなんか、その…」

段々小さくなっていく声に聞き耳を立てているリボーンが少し顔を後ろに向けました。
恥ずかしさで顔が下を向いていく綱吉にはそれは見えません。

「見られるだけでドキドキするし…近付かれたら心臓止まっちゃうかも。」

顔を赤くしながら必死に言い募る綱吉にリボーンは兎でもないのにぴょんと飛びつきました。
綱吉より少し大きいリボーンです。ただでさえ非力な綱吉は重さに耐え切れず床にひっくり返ってしまいました。

「それなら問題ねぇだろ。つーことでキスさせろ。」

「何で?どうしてそうなるの?意味分かんないって!」

またも迫ってくる顔を、心臓が破裂しそうなほどドキドキと脈打っている綱吉は悲鳴をあげながら押し退けようとしています。
それが気に食わないリボーンは綱吉の手を掴むと床の上に押し付けて逃げ出せないようにはり付けました。

「それはオレのことが好きだからだよな?」

「好き…」

そう言われて綱吉は何だかちょっと違うなと感じました。
兎のリボーンと人間のリボーンと、同じ好きの筈なのにどこかが違うようなのです。
その違いは今の綱吉には分かりません。もっと大きくなってから分かることでしょう。

ぼんやりとリボーンを見上げていると、格好いい筈のリボーンはぎゅっと眉を寄せてこちらを見ています。
不安そうなその顔を見て、リボーンだって困っているのだと気付きました。

だから出来るだけ優しく不安を煽らないようにと精一杯の笑顔を浮かべて言いました。

「うん、兎のリボーンも人間のリボーンも大好きだよ!」

言った途端に綱吉に抱きつくと顔を隠して見せてくれません。
どうやら照れているらしいリボーンに可愛いところもあるんだなと背中を撫でてあげると、がばっと起き上がってまた顔を寄せてきまた。

「ちょ、待てよ!どうしてまたいきなりそうなるの?」

落ちてくる顔を必死で押し留めていると、リボーンの口がムッと尖ってきました。

「ツナもオレが好き。オレも同じだ。だったらキスぐらいどうってことはねぇだろ。」

「あるよ!オレはリボーンのその顔を見ると照れるの!だから兎の時だけってことで…」

「ふざけんな。毎日100回はしてもらうぞ。」

「何で100回?!」

妙にはっきりとした数字に綱吉がぎょっとしていると、厳めしい顔をしてリボーンが言い出しました。

「ツナのママンに聞いた話だと魔法は心を通わせた番いと1万回しないと解けないらしい。」

「いちまん…?」

頭の中でいち、じゅう、ひゃく…と数えていた綱吉はやっと1万まで辿り着くと、大きな瞳をもっと見開いて目の前のリボーンを見詰め返しました。

「そう、1万だぞ。」

「いちまんー!!ムリだろ、ムリ!それじゃあ母さんと父さんは1万回したっていうの?」

「らしいぞ。つー訳で、ツナ。」

一旦切った言葉の後でニヤリと笑うリボーンの目はマジだったとか。

「今日も100回目指して頑張るぞ。」

「いやーー!」

その日のノルマは達成できたのかは内緒だそうです。









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