20.視界を黒に塗り潰されて、身を強張らせたオレの唇に軽く何かが触れていく。 すぐに離れていった顔と気配にそれがリボーンの唇だったと分かった瞬間頭の中がカッと沸騰した。 からかうにしても度が過ぎる。 触れ合った感触を消そうと手の甲で自分の唇を擦れば、それを至近距離から見ていたリボーンが笑みを深くしているのを見た。 「おま、お前何するんだよ!オレはゲイじゃないし、お前も違うって言っただろ!」 逃げるように距離を置こうと出入り口のドアに手を掛けるも、後ろからその手ごと掴まれて汗が噴き出た。 今朝のやり取りを思い返してもそうオレに言っていた筈だ。 だから大丈夫だと顔を後ろへ向ければ、リボーンはオレの手を上から握ったままドアを押し開けた。 肩を押されて中へと押し込められる。 返事のないリボーンに鈍い汗を掻きながら、もう一度聞く勇気が持てずにいると手にしていた鞄を取り上げられて代わりに着替えを手渡された。 「もう一度オレの見えるところで着替えてみろ」 「はぁ!?何度見ても同じだって!男なの!男!」 まだ女に間違われているらしいと気付いてジャケットをラグの上に放り投げる。 勢いのまま人差し指でネクタイを緩め、シャツのボタンを外していくと肩から落としてリボーンが見詰める先をえいっとたくし上げた。 「分かった?!ないだろ!」 下着代わりのTシャツを捲ると自分の貧相な上半身が見える。骨太だの筋肉ムキムキだのという言葉とは無縁のそれを見せ付けていると、リボーンは黒い瞳を逸らすことなくそこへと集中させた。 あまりに無遠慮な視線にさらされて、どこかおかしい箇所でもあったのかと慌てて自分の胸元を覗き込んだ。 「洗い残しとかあったかな……」 汚なかったかもと焦りながら、お世辞にも逞しいとは言えない自分の胸板を確認する。 と、そこに自分以外の手が伸びてペタリと肌に触れた。 「ひぁ……!」 自分の体温より少し冷たい指先になぞられて声が上がる。 震えるように身体を逸らしたオレを追って、また一本手が増えた。 リボーンの両手があばらの浮いた脇腹を伝い、膨らみのないオレの胸を覆う。 捏ねるように直接胸を揉まれ、ぞわりと毛が立つような感覚が湧き上がった。 逃げなきゃと気付いたオレが足を後ろに引けば、それを見越していたリボーンが手に力を入れるからバランスが崩れる。 ヤバいと思った時には身体が傾いで床に倒れ込んでいく。 それをリボーンの手が背中から掬いあげるも、床に近付いていくのに変わりはない。 頭と背中は守られたが、結局は床の上に転がり、あまつさえリボーンに乗り上げられる形になっていた。 「リボーン!リボーンさんっ!!?」 「なんだ、往生際が悪ぃな」 それを手放したら最後じゃないかと己へ突っ込みをいれつつ、近付いてくる身体を押し戻すべく手を目の胸板に押し付けた。 「安心しろ、オレはツナほど細くねぇ」 「イヤイヤイヤ!どこに安心できる要素があるの?っていうか、お前朝言ったこと思い出せよ!」 「何の話だ?」 わずかにだがリボーンの目が泳いだ。 やはり覚えていたんだという確信を得て突っ撥ねる手に力を入れる。 「嫌がることはしないって言っただろ」 白を切り通させないようにと強い口調で言えば、リボーンは納得したように頷いて視線を合わせた。 「ああ、嫌がらなければいいんだろ?気持ちよければ」 「はぁ……!?」 2013.02.06 |