リボツナ | ナノ



19.




夜の8時を過ぎたスーパーにはいつもの人影はない。自分と同じく仕事にくたびれた様子の男女が目視出来る程度に確認出来るだけだ。
特売のマークだけが残るワゴンの横を通り、ガランと空いた棚の前に立つ。
予想通り高級肉のみが半額で鎮座しているそれをじっと見詰めてから恐る恐る手を伸ばした。
お買い得品や特売品は午前中の戦場に参加しなければ手に入れることは出来ない。
しかし値段が高めの肉はいくつか残っていることがある。
いくら半額とはいえ高いと腹の中で愚痴りながら、しらたきと白ねぎ、白菜と水菜などの材料を買い物カゴに放り込んでいく。
昼に電話をした際に、夕飯をすき焼きにすると言うと喜んでいたからこれでいいのだろう。
獄寺くんの言う通りだったなぁと思いつつ、ふと目に付いたそれに足を止める。
小さい頃に母さんが作ってくれたそれは勿論手作りで、こんなインスタントは食べたこともないのだがどんな味なのだろうか。
小さな箱には可愛らしいプリンの写真があり、それはいかにも美味しそうに見えた。
今日は歩き回ったせいで疲れているのか甘い物が食べたくて堪らない。
だけどケーキ屋なんて行く気力もないし、先ほど覗いたデザート売り場にはプリンなど残っていなかった。
手に取った箱の裏を覗くと、ごく簡素な作り方が載っている。オレにも作れそうに見えた。
買い物カゴにその小さな箱を入れると、いそいそとレジへ足を向けた。




見上げればあと少しで満月になるという黄色い丸が顔を覗かせている。今日は寒いせいか、はたまた街灯が少ないせいか空が綺麗だ。
学生時代の不勉強がたたり、悲しいかなどれが有名な星なのかさえ分からない。一番強く光っている星を見付ける前に見慣れたアパートの前に着いた。
手元を照らすライトの下でスラックスに手を差し込む。鍵を指先で見付けだすとポケットから取り出して鍵穴に差そうとするも、その前にドアノブが下りてドアがこちらに向かってきた。
既視感のある光景だ。
最初にこいつを家に上げたことがそもそもの始まりだったよなと感慨深くドアの先を眺めていれば、リボーンがこちらを覗き込むようにドアを開けた。

「おかえり、遅かったな」

「……ん、悪い」

お帰りと声を掛けられたことに気持ちが浮つく。
別にオレを待っていたという訳ではないだろうが、そう言われたことに落ち着かない気分になる。
手にしていた袋を興味津々の顔で覗くリボーンの下をくぐり抜けると、ようやく靴から解放された足を玄関の上に乗せた。

「持っててってやるぞ」

「あ、うん」

階段をのぼろうとしたオレの横から、リボーンが買い物袋を奪っていく。
そんなに腹をすかせていたのかと声を掛けると、長い脚を存分に生かしてオレの前をのぼっていたリボーンが呆れたように肩を竦めた。

「確かにツナのメシは美味い。が、お前が居なきゃ意味ねぇだろ」

言われて足が止まる。
あまりの気障ったらしい台詞に口を開けたまま赤面していると、後ろからついて来ないオレに気付いたリボーンが振り返った。

「何だ、人をメシで落としといて随分とウブな反応するんだな」

「ひ、人聞きの悪いこと言うなよ!……落とすってッ、何だよそれ!」

からかわれたことに気付いて睨みつければ、それを見ていたリボーンが喉の奥でクツクツと笑い声を洩らす。
付き合いきれるかと勢いのままリボーンを押し退けて階段をのぼりきると、後ろからジャケットの裾を掴まれた。

「離せって」

手で払おうとするもそれを遮られた。後ろから強く引かれ転がりそうになったオレを抱きとめると、斜め上から顔が迫ってきた。


2013.02.05







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