リボツナ | ナノ



17.




よく分からない不満をぶつけられても、

「はぁ……」

という返事しかオレには出来ない。
そもそもリボーンと違って生まれてこのかた一人寝しかしたことがないオレに、その辛さが分かるものか。
呆れるしかない言い草に気の抜けた返事をしたオレを見て、リボーンは少し神経質そうな眉目をピクリと跳ねさせた。

「お前、そんなオレを可哀想だと思わねぇのか?」

どこを見てそう思えというのか。
見た目よし、頭脳も教授ということで明晰なのだろうことが知れる。
しかも人を雇うぐらいの余裕があるということは、お金に困ってはいないということだ。
オレも貧窮している訳ではないが、多分桁が違うだろう。5人の福沢諭吉が教えてくれた。
唯一残念だといえるところは性格だが、これは好みによるということで明言は避けようと思う。
オレの周りにはこういったタイプが何人かいるから、慣れてるだろうなんて言われたくはない。
そんなことはともかく、一般的な日本人サラリーマンのオレに何が出来るというのだろうか。
このチャラ男の言うことを飲むとすれば、自宅に女を連れ込まれることになる。それは勘弁して欲しい。
おにぎりとぬか漬けを挟んだやり取りに、リボーンは寄せていた眉を解かないまま湯のみに手を伸ばした。

「料理も美味い、顔はまずまずといったところだが悪くねぇ。性格は流されやす過ぎるところが心配になるが、それはまあいい」

立て石に水の如く並べ立てられたそれが自分のことだとは気付かずに黙って首を傾げる。
と、リボーンは少しぬるくなったお茶を一口含んでから、手をこちらに伸ばした。

「つまりだな、オレもこの家に女を入れる気にはならねぇ。だからツナが代わりになれ」

「……え?」

言われた意味も分からず目を丸くしていれば、リボーンの手がオレの顎を掴んだ。
ぐっと向こうに引き寄せられて、黒い瞳がオレの目を覗き込んでくる。

「どうする?」

そう訊かれても返事のしようがない。何をどうするというのか言われた言葉を思い返しながら反芻していると、焦れたリボーンは恫喝するように低い声を出す。

「おい、聞いてんのか?」

「えーと、うん?誰の話をしてたんだっけ?」

言えば目の前の黒い瞳が半眼になる。ヤブヘビだったかもしれない。
そういえばオレの名前が出ていたなと気付いて、それからようやくリボーンの言わんとしていた意味を悟った。

「って!バカ言うなよ!オレは男なんだからなっ!女の代わりになんてなれるか!」

こいつは女の敵どころか、人類の脅威なのかもしれない。チャラ男だからと油断していたがひょっとしたら男もいけるのか。
じわりと汗が浮かんで、腰が引ける。逃げ道を探すべく視線を横へと向ければ、オレの顎を掴んでいるリボーンの手が力を強めた。

「てめぇ、何か勘違いしてやがるだろ。言っておくがオレはゲイでもバイでもねぇからな」

自己申告を素直に受け取る馬鹿がどこの世界にいるのだろう。
そう考えれば、昨日胸を揉まれたことすら怪しく思える。
正直懐は痛いが背に腹は代えられないから福沢諭吉をそのまま返そうかと思案していれば、それを察したリボーンがオレを睨む視線を鋭くした。

「違うっつってんだろうが」

「信用出来ない!」

そうは言うものの、バイだとしてもオレに手を出す道理もないことは百も承知だ。外国の親戚が多いオレだが、そういった秋波は受けたことがない。
差別をするんじゃなく、節度を守って貰えれば構わないと思い至って口を開く。

「……女も男もここには呼ぶなよ」

「嫉妬か?」

分かっている癖にニヤニヤと性質の悪い笑みを浮かべて茶化すリボーンの手を払う。

「違うって!それから!オレが嫌だって言ったらやめること!」

昨日の胸を揉まれた一件を当て擦れば、何か思い付いたのかリボーンは鷹揚に頷いて冷めてしまった朝食に箸を付けた。

「分かったぞ」

本当かよ、と疑った自分の勘は正しかったと知るのはその後の話。


2013.01.31







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