16.結局、山本と獄寺くんはオレの吐いた嘘に騙されたようでメールの返事もいつものトーンに戻っていた。 獄寺くんなどは人手が欲しければ手伝いに来てくれるとまで言ってくれたが、それは謹んで辞退させてもらった。 リボーンが親戚ではないとバレたらことだからだ。 あいつがイタリアへ帰るまでバレる訳にはいかない。 そんなこんなで親友2人と居候との衝突は避けたのだが、今度はその居候の行動を管理しているスカルさんから懇願された。 曰く、『今後の予定を円滑に進めるために協力してくれないか』と。 多すぎる食費を貰ってしまった手前、協力することもやぶさかではないが、如何せん相手が相手だ。 昨晩リボーンがすっぽかした会食で余程困ったことになったのだろう。自分の身に置き換えれば、身につまされるものがある。 しかし協調性という単語より、独自性という言葉を体現しているリボーンをいかに機嫌を損ねずにノセられるかという点で問題が山積みだった。 昨日はあれから食事を終えて、一息ついたところにスカルさんが飛び込んできた。 怒るというより泣いていたスカルさんは、リボーンを素通りしてオレへと直訴してきた。 知り合って2日しか経っていない上にただの家主でしかないオレに頼ることもどうかと思うが、理解出来ない訳でもない。 何というかスカルさんと親しいせいか、リボーンは彼に容赦も気遣いもないのだ。 気心が知れているということとも違うそれは、オレには向かってこないから言いやすいのだろう。 かといって、リボーンがオレに気を使っているとか、贔屓をしているとかではない。 上手い表現が見つからないが、どうやらオレの話は聞いているということでスカルさんが泣きついてきたのだった。 今朝の朝食はおにぎりに卵焼き、昨日の残りの肉じゃがときゅうりと人参のぬか漬けだ。みそ汁は昨晩作ったからやめたが、欲しければインスタントのお吸い物でもいいだろう。 いつもより少し早めに起きて支度をしていると、扉の向こうからこちらに向かってくる人影が見えた。 2人分の朝食を並べていたところに、やはりリボーンが顔を出す。 「おはよう、メシ喰ってくだろ?」 今日は昨日すっぽかした日本の教授たちや企業のスポンサーたちとの昼食兼話し合いだという。よく分からないが、来日のメインイベントだったらしい。 つくづくスカルさんも苦労してるよなと同情しつつ、どうやって穏便に話を進めようかと思案する。 そんなオレに気付くことなくああという返事の後、黙って席に着いたリボーンは何を言う訳でもなくじっとオレを見詰め続けた。 「……なんだよ」 妙な視線に気付いて顔を上げれば、リボーンは片肘をテーブルの上に乗せてさらに顎を乗せる。邪魔になったのか足が横からはみ出していてかなり偉そうな態度だ。 何をした訳でもないが、何となくご機嫌が悪そうなリボーンに負けたくなくて口元を引き締める。 お茶を注いでから自分の席に座ると、リボーンはようやく口を開いた。 「お前、何で夜中にベッドから抜け出した?」 「は?」 言われている意味が分からなくて訊き返す。すると、リボーンは苛立たしげに肘をついていない方の指でテーブルを叩いた。 「だから、なんで布団で寝てたんだ」 「あぁ!」 何の話かと思えばそんなことか。それにしてもどうしてオレが詰られるような雰囲気なのか理解出来ない。 昨晩は泣きついてきたスカルさんをどうにか宥めて送り出し、その頃には夜も更けたので客用の布団を敷いて床に着いた。 けれどあまり物のよくない布団だったせいか、リボーンが夜中になって背中が痛いと訴えてきて、仕方ないからベッドに入れてやったのだ。 が、どうにもシングルのせいか狭くて堪らない。二晩続けて小さくなって寝るのも嫌でリボーンにベッドを明け渡すと、客用布団に潜り込んだ……という訳だ。 寝ていたと思っていたのに起きていたことに驚いて目を瞠る。 確かにリボーンの申告通り、薄い安物布団のせいか背中が痛くなったから悪かったという気持ちにはなっていた。 しかしあと二晩しか使わないと分かっている布団を替える必要性は感じなくて、どうしようかと首を傾げる。 「うーん、ごめんな。あと二晩だけだから我慢してベッド使ってくれないかな?」 ここでごねられても困る。今日は外回りがあって帰ってくる時間が8時を過ぎるからだ。 買い物に行くにも遅いし、足もないから持ってくることすら苦労する。 シーツは取り替えるからと言えば、リボーンは首を振った。 「違うぞ。オレが言ってんのはそっちじゃねぇ」 そっちとはどっちのことだ。 朝だから言葉遊びに興じる時間も惜しいと先を促せば、リボーンはテーブルに並べてある中からきゅうりを摘まむと口元まで運んだ。 「一人寝が堪えられん」 2013.01.30 |