15.スーパーで見切り品になっていた刺身を食卓に並べ、リクエストだった肉じゃがも器に盛り付けた。 綺麗とは言い難いが、そこそこ見栄えのする食事が並んだと自画自賛する。 大根とワカメのみそ汁を置いて、昨日買ったばかりのお新香も小皿に取り分ける。ご飯を盛った茶碗を手渡してから、自分も席に着いた。 「いただきますだぞ」 「はぁ……どうぞ」 律儀に両手を合わせるリボーンにそう返事をすると、リボーンは嬉々として箸を手に取る。昨日も思ったがイタリア人のくせに箸使いが上手い。 器用にマグロを口に運んでいるなと感心しつつ、母さんに教わりながら作った肉じゃがに箸をつけた。 「そういや、さっきの電話の相手は誰だ?」 「ん?母さ……母親だよ。肉じゃがなんて作ったことなかったからさ、味付けが心配で電話したんだ」 マザコンだと思われたくなくて、そう言い訳をしながら初めて作った肉じゃがを味わう。 見た目は不格好で全然違うのに、不思議なことに味は母さんのそれとまったく同じだった。 懐かしい味にほっこりするより、先ほどのお小言を思い出して眉が寄った。 「どうした?不味かったのか?」 「別に」 という顔でもないことなど鏡を見なくても分かる。 30を目前にして彼女の一人も居ないどころか、一人暮らしを満喫するかのように肉じゃがのレシピを聞く息子に母親として思うところがあったらしい。 くどくどとお説教をするような性格でもないが、論点をぼかすタイプでもないから直球がきた。 箸で白米を口元まで運び、噛み付くように咥える。鼻で息を吐き出しながら咀嚼をしていると、前の席に座っているリボーンがこちらを覗き込んできた。 「お前、彼女は?」 一番訊かれたくなかった質問にむせる。 ゴホゴホと咳をして喉につかえたものをみそ汁で流し込めば、こちらの様子を気にしてもいないリボーンがまた畳みかけてきた。 「そうか、居ねぇのか……」 「っっ!なんだよ、その憐れみの目は!」 先ほどは母さんから心配され、今はリボーンに同情されている。 きちんと自活しているというのにどうしてなんだ。 大きなお世話だと突っ撥ねてしまえるほど諦めている訳でもないし、切羽詰まって手当たり次第というほどでもない。 こいつとは違うのだ。なんてことは言える筈もない。 うまく返せず乱暴に箸でお椀を掻き回していると、リボーンはそんなオレを見ながら肉じゃがに箸を口に運んだ。 「美味いな。昨日のおでんも美味かったがこれも美味いぞ」 手放しで褒められれば悪い気はしない。面倒だったけど、作ってやってよかったと心の中だけで満足して箸使いを正す。 「それにしてももったいねぇな」 「何がだよ?」 単純と言われようがもう機嫌を直したオレが刺身に箸を伸ばしていると、リボーンは箸を止めてマジマジとオレの顔を眺めた。 「胸もなかったしな……見た目は地味だが料理の味付けは好みなんだが」 「や、やめろよ!マジでやめろって!」 またも伸ばしてきたリボーンの手を払うと、椅子の一番後ろまで下がる。 わきわきと妙な形で握る手を睨みながら、顎を引いて身構えた。 「普段のオレなら野郎と一緒の布団に入ることなんざ出来ねぇのにな。何でお前なら平気だったと思う?」 「知るかっ!っていうか、酒呑んだからだろ!」 そうに決まっていると言い切れば、リボーンはにじり寄ろうと前のめりになっていた体勢を止めて考え込むように顔を横に向けた。 「ふん……?そうかもな」 「そうそう!そうなんだよ!」 これ以上揉まれてたまるかという目先の小事に捕らわれていたオレは、妙なことを言いだしたリボーンの本心にまで気が付かずに受け流したのだった。 2013.01.29 |