リボツナ | ナノ



14.




掛け込んだ自宅の玄関先で息を震わせてしゃがみ込んだ。後ろを確認すると、無意識で鍵を閉めていたことが分かる。
玄関の向こうから近付いてくる気配もないし、突然扉が開くこともないだろう。靴を脱ぎ、階段をのぼりながらも息を整える。
こんな気分をなんと言い表わせばいいのかと考えて、ひとつだけ思い浮かんだ。
バツが悪いという言葉だ。
オレにも彼女がいなかった訳じゃないし、といってもリボーンほど手当たり次第ではなくて一人居たという程度だ。
それもキスをしただけで、それ以上に進む前に振られてしまったという体たらくを思い出して眉が寄った。
そんな情けない体験談などあいつに知れようものなら、きっと物笑いのネタにされる。
チャラ男は落とした女の数が自慢なのだと聞いたことがあるから、多分リボーンも同じだろう。
そう結論付けたオレは経験がないことを悟られまいと肝に銘じた。
とりあえず部屋にあがってスーツをベッドの上に投げる。
と、手にしたままだったそれに気が付いた。

「あ、切れてた……」

握り込んでいた携帯電話はいつの間にか電源が落ちていて、どうやら逃げ帰る際に切ってしまっていたらしい。
もう一度掛け直してもいいのか迷って携帯を見詰めるも、山本からかかってこないということは用事が出来たんだろうと理解してやめた。
メールで事情だけ説明しようとして指が止まる。
ありのままを話してしまえば、山本が心配するかもしれない。獄寺くんと山本とは同級生という間柄なのに何故かオレが一方的に庇護される側だ。
頼りないと思われるのは学生時代のあれやこれやが原因だろう。心当たりなんてあり過ぎる。
案の定、獄寺くんは今朝からオレに説明を求めて仕事どころではなかった。
それをどうにか振り切ってきたのだが、馬鹿正直に話してしまってもいいものなのか。過保護な2人に余計な心配をさせるだけのような気もする。
たかだか4日。しかも自分が引き受けた事柄を友だちに事細かに説明するというのは如何なものか。
迷いに迷って指を動かした。
開いたメールのアドレス欄に獄寺くんと山本のアドレスを入れ、イタリアからのお客さんだと嘘を書き込む。
社長でもあるオレの父親に訊ねられてしまえばアウトだが、先週末から2週間イタリアへ買付けに出掛けている。
何事もなければ後でバレても少ししぼられるだけだと腹をくくって送信ボタンを押した。
やっと一つの仕事を終えた気分で携帯を置くと、時間を確認するために時計を見上げる。19時を少し過ぎていることを確認した。そろそろ夕飯の支度をしなければならない。
着替えるためにスーツのジャケットに手を掛ければ、玄関のある1階から物音が聞こえてきた。
リボーン先生のお帰りらしい。
気にせずスーツを脱いでいると、キッチンと部屋とを仕切るパーティションの向こうから人影が入ってきた。

「帰ったぞ」

「あ、おかえり」

腕から抜いたシャツをジャケットの上に投げ、手前にある置きっぱなしの服の山からTシャツを引き抜くと振り返り顔を上げる。
すこし顔が引き攣るのは、先ほどの一件を覗き見してしまったからだ。
覗き見されていたことに気付いていないのかそれとも気にする必要もないのか、リボーンがパーティションの向こうからひょいと顔を覗かせてこちらを見ている目とかち合った。

「……なんだよ」

見るなとは言えないが、見られて嬉しいものでもない。ムッとした顔を作って睨むと、リボーンはつまらなそうに鼻を鳴らしてこちらに足を踏み入れた。

「それにしてもガリガリだな。細ぇってより折れそうに見えるぞ」

「う、うるさいな!ほっとけよ!」

値踏みするような視線に背中を向けてTシャツを被ると、緩めていたベルトを外してスラックスに手をかけて……動きが止まる。

「どうした?着替えればいいじゃねぇか」

「だったらあっち向いてろってば!」

ただでさえコンプレックスを刺激するような体格のリボーンの不躾な視線に敵愾心を抑えきれなくなる。
そんなオレを気にした様子もなく、リボーンはパーティションの横を抜けるともっと距離を縮め手を伸ばしてきた。

「……やっぱりねぇな」

「な、な、ななな……っ?!」

柔らかさも膨らみもない胸を後ろから揉まれて声が裏返る。
シャツ越しとはいえ確かめるように動く手に視線は釘付けになって、身動き一つとれない。
散々撫でていた手がようやく消えたことで混乱していた意識を取り戻す。
慌てて後ろに迫っていたリボーンの身体を押し退けるも、脱ぎかけのスラックスが纏わりついて足を掬われた。
ドテッと床に転がったオレを見たリボーンが呆れた顔で肩を竦める。

「お前転んでばっかりだな。さっきも、今も」

先ほどのオレの覗き見も知っていたリボーンに目を瞠る。そんなオレにリボーンは手を差し伸べると言った。

「早く着替えろ。刺身を買いに行くんだろ」

「……そうだね」

彼女との情事を見られたことより、夕飯が大事だというのか。
理解不能な思考回路を持つリボーンに言うべき台詞が見つからなかった。


2013.01.28







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