リボツナ | ナノ



13.




仕事を終えて帰宅の途につく寸前に一本の電話がオレの携帯にかかってきた。
見ればよく知るナンバーで、昨日のことなどすっかり忘れていたオレは何だろうと思いながらも通話ボタンを押した。

「もしもし、山本どうかしたの?」

今日からキャンプだと聞いていただけに何事があったのかと飛び付くように電話に出る。すると電波の先にいる山本は硬い声を漏らした。

『うん……いや、あのさ』

歯切れの悪い返事に益々不安は募って、もう薄暗くなった夜道を横に逸れて人気のない路地へと入り込んだ。
山本の切羽詰まった声に余程のことなのかと硬い息を飲む。自宅に帰るまで待つことも出来なくて、神経を耳に集中させながらも続きを促すと携帯からやっと声が聞こえてきた。

『昨日のヤツのことだけど』

そう言われてもピンとこないから首を捻りながらも続きを聞くために口を閉ざす。

『本当に同棲してるのか?脅されてるんじゃねえのか?』

「へ…………?いや、うん……脅されてはいないけど、金の力に屈したと言えなくもないかも」

どうやらリボーンのことらしいということは理解出来たものの、そこまで心配されていたとは思わなくてうっかり本音が零れてしまった。
誰だって福沢諭吉の魅力には叶わないと思う。
そんな素直すぎるオレに過剰反応した山本の声が耳元で大きくなる。

『何?!ってことは、金積めばツナが手に入ったってことかよ!うわぁ!だったら年棒つぎ込めばよかった!そうしたらツナと同棲出来たってことだよな』

キャンプはどうしたんだという突っ込みより、妙な単語が2度も出てきたことに慌てて口を挟む。

「え?ちょっ、何のことか知らないけどオレ金目当ての碌でなしじゃないって!っていうか、同棲って何?あいつはたまたまゴミ捨て場で拾っただけで、捨て犬拾ってきたのと一緒だよ。飼い主の都合で4日預かることになっただけ!分かった?!」

随分と失礼な言い草だと自覚するも、丁度いい言葉が思い付かないからこれでよしとする。
それにしても男同士で同棲ってどんな誤解をされていたのだろうか。というよりそういう目で見られていたということなのか。
山本にゲイだと誤解されていたらしいと気付いて、先ほどまでの勢いも消え恐る恐る声を出した。

「あのさ、どうして山本はオレが男と『同棲』してるなんて思ったの?獄寺くんのせい?でも、獄寺くんは昔からあんな感じだって知ってるだろ。ちょっとオレに対する幻想が過ぎるけど、あれが獄寺くんの普通なんだって」

だからオレはゲイじゃないんだと言い切ろうとした矢先に、入り込んだ路地裏の奥から女の声が聞こえてきた。
電話を受けるために人気がない場所を選んだつもりが、どうやら先客がいたらしいと気付く。
目を凝らして声の聞こえて方向に視線をやれば、どうやら女だけではなく男もいるようだ。
えらく体格のいい男だなと眺めていると見覚えのあるコートが目に入ってハッとした。あれはリボーンじゃないかと。
日本で全身黒尽くめのスーツ姿でいればいやでも人目を惹く。大体がグレイだったり、紺色だったりと暗めでも鈍い色を好む傾向にあるからだ。
右へ倣えの民族性もあるだろうが、制服の意味合いも強いスーツ姿に個性を求める者も少ないから、リボーンのような着こなし方をしていれば目立つなという方がおかしい。
つまりは間違いなくあいつだと気付いて、こんな時間に何をしているんだと眉を潜めた。
今日は9時過ぎまで会食だった筈だ。

『違うって!オレが言いたいのはそっちじゃなくて、』

「しーっ!ごめん、ちょっとだけ黙っててくれる?」

慌てたように説明を始めた山本を制して、気付かれないように声を潜めながらもリボーンへ近付く。
先ほどの金の件ではないが、一応はスカルさんに頼まれた手前見掛けたら一言ぐらいは声を掛けなければという義務感が芽生えていた。
いくらオヤジどもとの会食が嫌だったとはいえ、それも仕事の内なら仕方ないというのにこれなのかと思えば腹も立つ。
あちらの都合でアポイントメントを幾度もキャンセルされた自分の今までのことまで思い出してしまい、関係ないリボーンに苛立ちを覚えた。
額に青筋を立てたまま、携帯を手に足音を忍ばせて奥へと進む。
すると電柱で影になっていた2人が見えて足が止まった。

『……ツナ?』

耳元から聞こえる山本の潜めた声に背筋が震える。
何でこんな屋外でという呆れより、秘め事を覗き見てしまった後ろめたさに身動きが取れなくなった。
絡み合うように手が互いの身体をまさぐっている様を見て腰が引ける。
知らず足を引いていたオレは、小石を踏んで体勢を崩した。
見なかったことにしようと逃げ出す前に、情けなくも地面に尻もちをついて音を立てた。
奥からキャアという悲鳴が聞こえて慌てたオレは、後ろを振り返ることなく広い通りに飛び出すと山本のオレを心配する声も聞かずに自宅へと走る。

どうしてこんなに動揺しているのか、自分でも分からなかった。


2013.01.25







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