リボツナ | ナノ



12.




「そういや、お前は何時に帰って来るんだ?」

バキバキと音を立てて軋む身体を捻りながら、炊飯器にしゃもじを入れていると後ろからそう声を掛けられた。
そういえば、昨晩は互いの仕事の話などはしたがそれ以外はしていなかったかもしれない。
まるで見計らったかのように朝食の支度が出来たところで起きてきたリボーンにおはようと声を掛けて席に促したところでの問い掛けに炊飯器から顔を上げた。
炊き立てご飯の蒸気を鼻先で感じながら、客用の茶碗につやつやした白米を盛り付ける。

「えーと、多分夕方の6時ちょい過ぎ。残業はほとんどない会社だからさ」

返事をしてから頭の中で今日の仕事内容を反復して確かめた。大丈夫、今日は急ぎの仕事はないし人と会う約束もしていない。
普段通り定時で帰れる筈だと頷きながら、手にした茶碗をリボーンの前に置くと、油揚げとあおさのみそ汁を手渡した。
いつもは前の晩の残りを朝食にしているのだが、今朝はそれすらないから塩鮭と卵焼き、一晩漬けた白菜の浅漬けを食卓に並べる。
一人じゃない食事はままあれど、一人じゃない朝食は久しぶりだ。
山本や獄寺くんは家が近いし、そういえば親戚でもあるザンザスなどはせっかくイタリアから来日してもお高いホテルに泊まるからこうして朝から顔を合わせることもないなと気が付いた。
まあ体格のよろしいザンザスと護衛だというスクアーロさんがこの家で一晩過ごすというのもムリかもしれないが。
最近では実家に帰る回数もめっきり減って、一人で朝食を摂ってばかりいたことに今頃気付いた自分に驚く。
こうして人と一緒の食事というヤツも悪くないかと思っていれば、目の前に茶碗を突きだされて仰け反った。

「メシ、と鍵も寄越せ」

「え、あぁ、うん」

手にしていた自分の茶碗を置くと素直に眼前の茶碗を受け取ってから席を立って炊飯器の蓋を開く。昨日も思ったが意外とリボーンは大食漢だ。
あの身体を維持するのだから当然かなと思いつつ、茶碗に白米をよそってリボーンに手渡す。
忘れないうちに鍵も渡しておくかと足を踏み出しかけてハッと気付いた。

「イヤイヤイヤ?!お前なに当然の顔で人んちの鍵持ってこうとしてんの!スカルさんの話だと昼から大学で講義のあと、大学の教授や市のお偉いさんと会食だって言ってただろ」

帰りは9時を過ぎるだろうと言っていたことも思い出した。
このアパートは鍵をかけなくてもドアが閉じれば錠は締まる作りになっている。逆にいえば鍵を忘れてドアを閉めれば一々開けなくてはならないのだが、生来の面倒臭がりからかオレの性には合っていた。
だから鍵は必要ない筈だとリボーンを睨めば、早々にお代わりに箸をつけていた男は眉を跳ねさせて当然のように言い切った。

「オレが寄越せって言ってんだ。四の五の言わずに鍵を出せ」

だから何でだよ!と声を上げようとするも尻すぼみになる。確かに突然の残業などで帰って来れなくなっては困るし、スカルさんに食費として受け取ってしまって手前もあるから追い出すような真似は出来ない。
少しの逡巡のあと、口をへの字に曲げたまま鍵をしまっていた箪笥へと向かう。
奥に転がっていたそれを手に取ると、食事を続けていたリボーンの前に差し出した。

「……失くすなよ」

「失くす訳ねぇだろうが」

綺麗に平らげた食器の前で手を合わせていたリボーンは、オレから鍵を奪うとスラックスのポケットにねじ込んだ。

「ツナ」

「なん、だよ」

顔を上げ、ジッとこちらを見詰める黒い瞳に尻の座りの悪さを感じて声を尖らせた。
ひょっとしたらオレは男の癖に肝の小さい小心者なんじゃないのかと思えてきて、そんなことないんだ否定したかったのかもしれない。
何を言われるのかと怯えていれば、リボーンは真面目な顔で指を組むとそこに顎を乗せた。

「今晩は肉じゃがが喰いたい。それと刺身もだ」

「はぁ……」

肩透かしの言葉に気の抜けた声が漏れる。ぎこちなく頷いたオレに気付かないリボーンは、満足そうな顔で席を立つ。
そそくさとコタツに潜り込むリボーンの背中を見て、ふと思い付いた単語に顔を歪ませた。

「ううぅ、冗談じゃない!」

冷めてしまった朝食をかっこみながら、寒気さえ感じて身震いする。


まるで同棲中の恋人同士みたいだなんて、思ったことは記憶から抹消しよう。



2013.01.23







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