10.男2人の買い物ともなれば、それなりの量になる。 白米も底をついていたし、食事代として渡されてしまえば朝晩ぐらいは用意してやらなければという気にもなる。 だからといって手の込んだ料理なんて出来ないから、どうしても食材頼りになってしまってこんな有様だ。 両手に抱えた袋からはネギがぴょこんとはみ出しているし、リボーンの手には米袋が抱えられている。 それを見てさすがに申し訳ない気持ちになった。 「重くない?」 「何がだ?」 歩いて15分の場所にあるスーパーだが、10キロのコメとリボーンのリクエストで買った日本酒や牛乳などを両手に持ちながら歩くことは結構きつい。 だから声を掛けたというのに本当に意味が分からないのかリボーンは不思議そうな顔でオレを見下ろす。 リボーンと視線を合わせるためには、オレは見上げなければならないという事実に眉間の皺が寄った。 「何変な顔してやがる」 「別に!」 しかも足の長さが違うせいか、リボーンの横に並ぶためには競歩みたいに歩かなければならない。つまりは歩くというより走るに近い感じだ。 息があがりそうになるも、それを意地でも悟らせたくなくて重い荷物によたつきながらもどうにかついていく。 するとリボーンがクツクツとくぐもった笑い声を漏らした。 「それにしても、お前近所で有名じゃねぇか」 「……」 「違うか、お前個人じゃなくお前の『友だち』とやらか」 先ほど知ったばかりの真実を前にぐうの音も出ない。唇を尖らせつつ返事をしたくなくて顔を前に向ければ、リボーンの笑い声は益々響くから余計に腹が立った。 山本は現役プロ野球選手だから目立つのは仕方ない。華やかな世界にいる癖に、女子アナや芸能人との交際などという特ダネもないせいか一時期ゲイなのではと噂されたことがあるぐらいだ。 そんな山本がちょくちょくオレのアパートに寄るせいで、あらぬ誤解を受けているらしいとは知っていた。 それが本気にされているとは思わなかったから、今日の一件には呆れてものが言えない。 「スーパーのレジで『別れたんですか!?』は笑わせて貰ったぞ」 「うるさい!」 いらぬ恥を掻いた話は記憶から消去してしまいたいが、そうは問屋が卸さない。 先ほどのスーパーでのことだ。 いつも買い物に行くときには、何故か獄寺くんや山本が着いてきていたらしい。特に気にしたことはなかったが、そういえばそうかもしれない。 そこへいかにも派手で一目を惹くリボーンと連れだってきたことが悪かった。 精肉コーナーに寄れば見知らぬパート社員らしき女性に「尻軽」と罵られ、精米コーナーで一番安い米を探していればまたも別の女性社員に「最低」と切り捨てられたところにソレだ。 別れるも何もオレと山本(と勿論獄寺くんも)はただの友人だ。 最初は意味も分からずに何の話だろうかと曖昧に返事を避けていたところを、後ろから先ほどの女性店員2人に掴まってようやく理解した。 誤解していたままだったリボーンを含めて友だちなんだと訴えてみたが、彼女たちは疑心の目を最後まで覆すことはなかった。 「友だちと思ってんのはお前だけじゃねぇのか?」 「しつこいな!友だちだってば!中学時代からの親友だぞ?!今までそんな気配は一度だってなかったって!ったく、リボーンはオレをゲイにしたいのかよ!」 いくらネタ的に面白かったとはいえ、こうも繰り返されては頭にくる。 口を塞いでやる意味でそう切り返してやれば、リボーンは何かを思い付いたように笑いを引っ込めて足を止めた。 一歩追い抜いたオレは何事かと肩越しに振り返る。 「そうだな……その方が都合はいいしな」 「はぁ?何の都合だよ」 何気なく訊ねたオレに、リボーンは先ほどまでとは違う真剣な顔を向けた。 「お前がゲイならチャンスはあるってことだろ?」 「は……」 言われた台詞の意味が分からなくて、反応が一瞬遅れる。 だってリボーンはチャラ男の筈だ。次から次へと女を乗り換えるようなヤツが何でそんなことを……とそこまで思考を巡らせてようやく事態が飲み込めた。 狼狽えて、手にしていた荷物が地面に落ちそうになる。 逃げ出したくなったオレは視線を逸らし足を後ろに少しずらしていると、リボーンは口元だけニィと笑みの形にしながら声を出した。 「ばぁーか、嘘に決まってんだろ」 「んなぁ!!」 そりゃそうだという安堵の他に、ほんの少し感じたモヤモヤを見付けて慌てて頭を振る。 いくら外見がよくても、中身がこんな男は嫌だ。 じゃない、オレは男には興味がないったらない! からかわれたことと、妙なことを感じてしまった自分が恥ずかしくなって駆け出した。 その後ろを、やっぱり笑いながらついてくるリボーンに腹を立てながらもアパートへと辿り着いた。 2013.01.21 |