9.幸いなことに客用布団は一組あるから寝床の心配はない。 食う物も高級品しか口にしないという訳ではないだろう。何せオレの作ったカレーは平らげていたのだから。 お世話してやるというより、やはり預かるといった方がしっくりくるなと思いながら、階段をのぼり部屋へと繋がるドアを開けた。 スカルさんを引き連れて中へと入ると、サラダと生ハムをつまみに一人で勝手にはじめていたリボーンの背中が飛び込んできた。 我がもの顔でコタツを占領する姿に誰の家だと言い掛けて、それは大人げないかと思いとどまる。 ムッとした気持ちはしまい込んで、後ろのスカルさんを中に促してからキッチンへともう一度向かったのだった。 「それじゃ、サワダ頼んだぞ。明日の朝9時には迎えに来るから!絶対にその時間までここに縛り付け……げぶ!」 「いいから早く帰れ」 何の躊躇もなく先ほど空にしたばかりの瓶がスカルさんの顔面目掛けて投げられる。 先ほどまでリボーンとスカルさんとオレの3人で真っ昼間から呑みながら、少し話をしていた。オレはあまり強くないからと一口だけ貰って、丁度呑み干したところでお開きになったのだ。 あっと声を掛ける間もなく床に沈んだスカルさんに慌てて駆け寄るオレを余所に、投げた本人は涼しい顔でコタツの中に寝転んだ。 「大丈夫ですか?」 「ううぅ……平気、だ!これぐらいでどうにかなるオレじゃないぜ!」 床に手をついていたスカルさんが、勢いつけて顔を上げたところにまた今度は別の瓶が投げ付けられた。 とうとう床に沈んだスカルさんを見て、庇うように前に立ちながら後ろを振り返る。 「リボーン!!」 「何だ、キャンキャンうるせえぞ」 覗き込むように寝転がるリボーンに近付けば、先ほど瓶を投げるために伸ばしていた手がオレの腕を掴んでぐいっと下に引かれる。 体勢を崩して膝をついたオレは、そのままもう片方の腕も掴まれた。 寝転がるリボーンの上に跨る格好になったオレに、リボーンは突然腕を離すと背中を抱き寄せてきた。 「ひぃ!」 リボーンの胸に落ちる寸前で床に腕をついて事なきを得る。 危うく男同士で抱き合うことになりそうだったと冷や汗を掻いていれば、背中に回された腕が力を込めるからそれに負けて結局はリボーンの上に崩れた。 「ぐ、くるしい……っ」 逃げ出そうと手をバタつかせているオレを下から眺めていたリボーンは、オレが乗り上げているにも関わらず涼しい顔をしている。 人種の差以外に体力の差も突き付けられてくやしい。 早く逃げ出そうともがいていれば、ようやく身体に回されていた腕が離れていった。 「お前、本当に軽いな。上に乗られたら潰されちまうんじゃねぇか?」 「上に、乗る?」 解放されたことに慌てて距離を置くと、リボーンの言葉を復唱した。 誰がそんなことをするのだろうか。というか、どうしてオレの上に乗らなきゃならないんだ。 どんな状況のことを話しているのか分からなくて首を傾げる。 するとそんなオレとリボーンを遠目に見ていたスカルさんが引き攣った顔で間に割ってきた。 「……サワダ、貞操は大事にしろよ。それからそこで寝てる変態はサワダを怒らせるんじゃない。少なくとも4日間は大人しくしてろ」 じゃあなと言って手を上げたスカルさんに曖昧な返事をしつつ、見送りのために玄関まで一緒に降りていく。 よろしく頼むと手渡された福沢諭吉5人を受け取ると、紫色の髪は踊るように飛び跳ねて玄関の外へと飛び出していった。 ドアの向こうからィヤッホー!!という雄たけびが聞こえる。 よほどリボーンから解放されたことが嬉しかったのだろう。 受け取ったお札を手に階段を上がり、それから勢いよくドアを開くと着替えを手にしてリボーンへと声を掛けた。 「起きろって!買い出しに行くから付き合えよ」 2013.01.18 |