8.返事なんて決まっている。 「嫌、だ!」 きっぱりハッキリ言ってやったというのに、リボーンはピクリとも表情を変えない。それどころか胡散臭い笑顔を張り付けたまま肩を掴む手を強めた。 「安心しろ、オレは女しか相手にしねぇ。どういうことか、お前だけは一緒に寝起きしてもいいと思えたが、手は出さねぇから安心しろ。それにしても地味な顔して彼氏が2人も居るとか乱れてんな」 「んな………ッ!?」 勝手なことをほざくリボーンに目を剥くも、あまりな台詞に返す言葉も出てこない。誰が誰の彼氏だ。 友人2人の名誉のために毅然と抗議すべきか、リボーンのだらしなさを知っていると揶揄すべきか。 それとも全部引っくるめて拒否するのが正解なのかと一瞬逡巡していれば、上から転がる勢いでスカルさんが飛び込んできた。 「聞いたぞ!聞いてたからな!サワダッ!お願いだ、このろくでなしを置いてくれ!!頼むっ!頼むぅぅうう!」 勢いあまって足を踏み外したスカルさんがドスンという音を響かせながらオレたちの足元に転がり落ちる。 したたかに頭をぶつけた現場を見ていたから大丈夫だろうかと覗き込めば、少し眉を顰めただけでスカルさんはムクリと起き上がる。 「大丈夫ですか?」 「こいつは丈夫さだけが取り柄だぞ。気にすんな」 どうしてかリボーンがそう答え、それに抗議することなく打った頭をさするスカルさんが平気だというように頭を振ると顔を上げてオレの足に縋りついてきた。 「サワダ、頼む!!」 「……いや、だから」 なんというか、リボーンの態度も酷いし、本人もそれに慣れているというところが見ていて痛々しい。 可哀想なんて思ったら負けだと分かっているのに自分と似たものを感じるせいか無碍に出来ないから困る。 祈るように手を合わせるスカルさんを見ていられなくなって顔を伏せると、その横からリボーンの手が伸びて宥めるようにポンと背中を叩かれた。 長いため息を肺の底から吐き出した後、ちらりと視線を上げてスカルさんに向かって口を開く。 「で、こいつの食事代とかはくれるんですよね?」 「っっ!ああ!!勿論だ!預かって貰う迷惑料も支払う!」 ならいいかと力なく頷いていると、横からリボーンの手が伸びてきた。スパンと頭を叩かれる。 「ぃ、た……!何で叩くんだよ!」 預かってやるのに!と口を尖らせれば、今度は立ち上がろうとしていたスカルさんに蹴りが入った。むごい。 「人を犬猫みてぇに扱うからだ」 「いやならたくさんいるっていう彼女のところに行けばいいだろ!」 自分で言ってから気が付いた。そうだ、その手があるじゃないかと。 だけどリボーンは視線を逸らすと、床に蹲っているスカルさんを跨いで2階へと上がっていった。 ゲホゲホと咳き込んでいるスカルさんの前にしゃがみ込んで大丈夫だろうかと伺っていると、スカルさんはやっと咳を止めて荒い息の合間に声を漏らした。 「……つまり、だ。あまりに遊びすぎて相手が尽きたんだと。遊びのつもりで一晩共にすると、何故か相手が本気になってうぜぇとか言ってたな」 「うわ、最低」 想像通りの人でなしぶりに本気で引いた。 幸いにもオレは男だし、リボーンも女しか興味はないと言っていたのでそちらは気にすることもないだろうが、それにしても乱れているのはどちらだ。 そういえば誤解されたままだったことに気付いて慌てて立ち上がると、またもスカルさんの手がオレの足を掴んだ。 「ちょっ、」 家で寝ていたからウエストがゴムのスウェットだ。あまり強く下に引かれると脱げてしまいそうで焦って手で引き戻す。 そんなオレを尻目にスカルさんはスウェットの裾に手を掛けたまま頭を下げた。 「あと4日なんだ!その間に2回の講義とお偉いさんとの会食があるんだ!!絶対に逃がさないようにしてくれ!!」 「って、そんなこと頼まれても……」 「頼む!」 今にも床に手をついてしまいそうな雰囲気に、先ほどまでの一件も見てしまったせいもあり嫌とは言い難い。 「努力はしてみます。報われるかは分からないけど」 そう返したオレに、スカルさんはメイクが崩れることにも構わず涙を流して頭をさげた。 2013.01.17 |