リボツナ | ナノ



7.




いつの間に背後まで迫ってきていたのか、オレにはさっぱり気付かなかった。
玄関は1階で、リボーンが居たのは2階だから階段を下りてきた筈なのに、だ。
獄寺くんに肩を掴まれたまま首だけ振り返ると、リボーンはオレから視線を外して何故か山本へと顔を向け鼻を鳴らした。

「このジャージはてめぇのか?」

オレの足元に畳まれているジャージを指しながらの問いに、山本の表情はわずかに曇る。
そういえば、リボーンはもう勝手に借りていった山本のジャージ姿ではなかった。内面のチャラさを覆い隠すような黒のスーツ姿は、見た目の良さを増幅させているようにも見える。
日本人だったらサラリーマンにしか見えない筈のスーツが、何故にこうもしゃらくさく格好いいのかオレには分からない。お洒落な獄寺くんなら分かるだろうか。
と思わず脱線しかけていたオレを引き戻すように山本の声が響く。

「そーだけど、おたくは誰?」

珍しく警戒する山本とそれを気にした様子もないリボーンとの対峙に身体が強張る。
山本は野球選手で活躍している傍ら、父親から受け継いでいる剣がある。剣道というより剣術といったまさに『剣の道』ともいえる真剣を使ったものだ。
一般人相手にそれを奮うことはないのだが、ことがオレを挟むとそれが容易く覆るから怖い。
棒状のものであれば武器になってしまうことを知っているから、放置しっぱなしだった傘を視界に入れたオレは鈍い汗が流れた。
頭の中に浮かんだ『人気野球選手・山本が友人宅で暴行!!』という縁起でもない見出しに頭を振ると、そんなオレの後ろにきたリボーンが獄寺くんの腕からオレを引き寄せると抱き込むように腕で囲う。
胸元にあるリボーンの腕に視線を下げれば、山本と獄寺くんの2人から悲鳴のような声が上がった。

「何してやがんだ!10代目を離せえぇぇ!」

「そうだぜ。どんな関係かは知らねーが、ポッと出のヤツに持ってかせるほどお人好しでもないんだぜ?」

どうしてリボーンVS山本、獄寺くんの様相になっているのか分からないが、オレが止めなければならないことだけは確かだ。
獄寺くんと山本の誤解を解けばいいだろうと安直に考えていたオレが口を開くより先に、背後から伸し掛かる重みと一緒に低い声が聞こえてきた。

「見て分からねぇのか?風呂借りて、着替えも必要なほどだぞ?」

含みを持たせた言い方に首を傾げているオレとは正反対に、2人はみるみる顔を強張らせていく。

「ほっ、本当なんですか?!」

訊ねながらも信じないと首を横に振った獄寺くんが、目に涙を浮かべながらにじり寄ってくる。
それに首を傾げたままうんと頷いた。

「今朝ゴミを捨てに行ったら、空からこいつが降ってきてさ」

今までの理不尽なリボーンの言動を聞いて貰おうと顔を上げるも、それを後ろから伸びる手に押さえられて口を塞がれた。

「今朝……!?ツナがソノ気になったのは今朝なのか?」

「ふぐぅ!!」

ソノ気ってどの気のことだ。
訳の分からない山本の言葉に返事もさせて貰えず、フガフガと息だけ吐き出しているオレの代わりにリボーンが答える。

「てめぇらじゃなく、オレを選んだってことだ」

だから何のことなのか。
迷惑千万にも程があるこのリボーンとの出会いを聞いて貰いたかったというのに、オレを置いて話がどんどん何処かへ飛んでいる。
顔から血の気が引いている獄寺くんと、顎を引いてリボーンを睨みつけている山本を見ながら手を横に振った。

「分かりました……10代目がそうおっしゃるのならっ!」

「ふぐっ!!」

何も言ってはいないのに、どうして勝手に帰結してしまうのか。
肩上にチラリと見えた影を追うと、それはリボーンの手だった。しかも帰れというように振っている。
首を横に振ろうにも口ごと押さえ付けられているからそれも叶わない。
んーっ!んー!とくぐもった声を上げるオレに気付くことなく、山本と獄寺くんは玄関扉の向こうに消えていってしまった。
それを確認したリボーンの手によって鍵が掛けられると、ようやく口元から手が外される。

「お前!何の権利があってオレの親友を追い出すんだよ!」

手でリボーンを薙ぎ払うも、それを難なくかわしてオレの腕を掴む。

「なに、」

大事な親友2人を袖にされて腹を立てていたのに、真剣な顔で覗き込まれると腰が引ける。
振り上げていた手を降ろしてため息を吐くと、リボーンが口を開いた。

「日本に居る間、ここに置いてくれ」


2013.01.16







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