5.リボーンがのこのこ現れたら投げつけてやろうと、手にしていた携帯電話を玄関の上がりはなに放った。財布の横に落ちたから丁度いい。 ムダな体力を使わされたとため息を吐き、それから腕を伸ばして欠伸をした。 「疲れた……」 朝食を摂ったらこたつの中で横になろうと心に決めて、改めて冷蔵庫の前に立つ。 先ほどはリボーンの口車に乗せられてしまったが、今は考えないようにしようと冷蔵庫の中を覗き込んだ。 おかしい、昨日のカレーの残りが見当たらない。 どこにしまいこんだんだろうと上から下まで探すも、やはり見つからなくて扉を閉じた。 首を捻り、どこかに置きっぱなしにしていたのだろうかと机の上に視線を落とせば、あり得ない形でカレーの残りと対面を果たした。 否、残りカスとも言う。 ゴミ捨てに行く前に冷蔵庫から出しておいた白米は綺麗になくなり、どうしてか蓋が開いて半分以上減っているタッパーの中身はどう見ても昨日のカレーだ。 「リボーンッ!!」 ここには居ない顔を思い浮かべながら声を上げると、ぐうぅと腹から情けない音が鳴り響いた。 空腹を意識してしまえば、もう忘れることも出来ない。しかし白米はもうなかった。 買い置きすらなかったことを思い出して余計に腹の虫が切ない声を上げる。 とりあえず腹に入れなければとテーブルの上に置いてあったトーストに手を伸ばして引き寄せ口に放り込んだ。 「もう、ヤダ」 何アイツ。厄病神なのか。そうだ、そうに違いないと重いつつ、味気ないトーストをどうにかしようと冷蔵庫へと再び足を向けた。 一気に3枚のトーストを腹に収め、それから不貞寝の勢いでこたつに潜り込んだ。 うつらうつらとまどろみながら、このひと時に幸せを感じる。 年明けから馬車馬のように働いていたから、今日一日ぐらいだらけていてもいい筈だと座布団を抱えて惰眠を貪っている。 そういえば午後から獄寺くんと山本が遊びに来るとか言っていたような気もするが、きっとオレの出不精を知っているから寝惚けていても辛抱強く起こしてくれることだろう。 携帯だけは手元に置いておくかと頭を上げれば、自分以外の足が4本見えて動きが止まった。 「来てやったぞ」 そう偉そうに踏ん反り返っているリボーンの横には、見知らぬ男が居た。 紫の髪にジャラジャラとピアスや鎖がぶら下がり、顔はどう見てもメイクを施しているだろう血色の悪そうなそれ。 片やチャラ男、此方V系バンドマンといった風体の2人に見下ろされていることに気付いて、慌てて身体を起こした。 「……あのなあ、20万も入ってる財布を玄関先に捨てとくなよ」 「え?そんなに入ってなかったけど?」 上がりばなに放置したことについては棚上げのまま、そう返事をすれば、血色の悪いメイクをした男の顔色が変わりリボーンの胸倉を掴む。 「お前人の財布の中身を使ったのか!?」 「ああ使ったぞ。てめぇの給料はオレが払ってるんだ、文句言うんじゃねぇ。そういえばツナはいくら抜いたんだ?」 「抜いてないよ!ってか、カレー勝手に食べてくなよ!」 お陰でパンしか食べてないんだと言えば、リボーンはオレの前にビニールの袋を差し出した。 恐る恐る覗き込めば、見たことはあっても利用ことはない高級ホテルのデリらしいものが幾つも入っている。 顔を上げてリボーンを見上げれば、ぐっと胸元に押し付けられた。 「……くれるの?」 「ああ、温めてきてくれ」 つまりはリボーンも食う気だと理解してドッと脱力した。もういい。諦めた。 奪うようにリボーンの手から袋を取り上げ、愛しのコタツからしぶしぶ這い出ると代わりにリボーンがそこを占領する。 紫の髪の男はといえば、見た目はアレだが中身はまっとうなのか困惑気味にオレとリボーンの間を視線が彷徨っていた。 「えーと、紫の髪の……」 「スカルだ」 「スカル、さん?じゃあ、スカルさんもリボーンの横に座ってていいですよ。お茶ぐらい出します」 「悪いな」 至極まともな返事に苦笑いを浮かべながら一間続きとなっているキッチンへと向かう。 広くもない1DKだから少し声を張り上げただけで会話できるのが利点といえば利点だろうか。 「あのさ、リボーンとスカルさんは何の仕事してる人なの?っていうか日本人じゃないよな?」 湯を沸かそうとやかんに水を入れながらそう訊ねると、リボーンが寝転がって声を出しているだろうくぐもった声が聞こえてきた。 「この『コタツ』ってヤツは最高だな。そうか、まだ言ってなかったな。オレとこいつはイタリアから来たんだ。日本の大学で呼ばれてな」 「大学に呼ばれて……ってことは、教授か何か?」 人は見かけに寄らないものだと失礼なことを内心で思いつつ、フランスパンを切り分けていく。 「まあそうだな。詳しく説明するのも面倒だからそう思っておけ」 適当に相槌を打ってから、温める必要のないサラダを皿に移していると玄関の呼び鈴が聞こえてきた。 2013.01.11 |