10.「メリークリスマス」 手にした携帯電話と真横から聞こえる声に瞼を瞬かせると、最後の一粒が頬を伝い落ちる。笑おうとして、失敗して。 引き攣った顔でリボーンを見上げると、驚いていた顔が笑顔になった。いつもの企んでいるような笑顔とは違う、それ。 言葉として言われなくとも分かる程、オレを好きだと告げる表情に心臓が痛いほど跳ねた。 手を伸ばし、コートを掴むとぶつかる勢いで抱きつく。そんなオレの肩を抱き込むと耳元に唇を近付けた。 「どうした?熱烈な歓迎っぷりじゃねぇか」 何も言えなくて、ただリボーンの肩に頭を乗せて声を漏らさないようにと唇を噛んだ。そんな挙動不審なオレをリボーンが見逃してくれる筈もない。 どうしたと問う声に首を振ると、リボーンは鼻を鳴らしてオレの身体を扉に押し付けた。 「何があったのか素直に言うか?それともここで素直になれるまでシテみるのも悪くねぇか?」 何をする気だと目を瞠るオレに、リボーンの手は肩から離れるとスルリとズボンの前に落ちてきた。ジャケットとシャツを煩そうに上に捲るとベルトに手を掛ける。 片手で器用に前を寛げた手は、止まることなく下着の中へと入り込んできた。 「ひぃ……っ!」 思わず大きな声が上がりそうになって、慌てて口を両手で塞ぐ。時間も遅いし、隣が顔を覗かせたらお終いだからだ。そんなオレに構うことなくリボーンは下着を下げて顔を寄せてきた。 「この前の続きといくか。今度はオレで気持ちよくなるんだぞ」 続きという言葉に驚いて顔を上げると噛み付くように唇を塞がれる。手は肌を伝い前から後ろへと伸びてきた。息苦しさに呻き声をあげれば、尻の間を割るように入り口を撫でられる。 そこでようやく意味を飲み込めて、コートを掴んでいた手をリボーンの胸に打ち付けると、リボーンはさもしょうがないといいたげに唇を離した。 「い、言う!言います!言わせて下さい!」 ひそめた声で懇願すれば、リボーンはしぶしぶ手を止める。勿論止めただけだ。 隣の人は出掛けているのか電気も点いてはいないし、気配もない。だけどあまり長くこんなことをこんなところでしているとかち合わないとも限らないから冷や冷やする。 それに、どうせオレには隠し事なんて出来やしない。恐る恐る視線を合わせて口を開いた。 「昨日、仕事の帰りにリボーンを見たんだ」 言えばリボーンは目を瞠るとああと頷く。 「誤解したのか?金髪美人と浮気したって?」 「別に、浮気とか思ってないよ……オレ男だし」 最後は小さく付け加えると、鼻をぎゅうとつままれた。 「男だからなんだ?ってことは、ツナにとってオレは男だから本気じゃねぇってことか」 「ッッ!本気に決まってるだろ!」 頭にきたオレはリボーンの手を払うとそう声を上げた。思わず大声を上げてしまった自分に気付いて慌てて口を塞ぐ。それから言われた台詞に心外だと抗議をするべく睨み上げていると、リボーンは呆れたように肩を竦めた。 「お前も大概失礼だぞ」 いくら馬鹿だからって言いくるめられるもんかと眉を寄せるオレに、リボーンはオレの胸倉を掴み上げると切れ長の目を眇めた。 「昨日の女は仕事先で知り合った会社の社長だ。最近は仕事柄よく来日するようになって、うちの会社の同僚と付き合ってたらしいんだがお互い仕事ですれ違ってな。昨晩は憂さ晴らしに付き合う羽目になってただけだ」 そうなのかと納得しかけて、引っ掛かりを覚える。睨み合いながらも何が気になるのかと考えて思い付いた。 「だったら何でメールをくれなかったんだよ」 帰ってきていると一言あれば、少なくとも気に掛けて貰えていると思えた筈だ。それを隠すように返信さえなかったのだから誰だって疑うと思う。 どんな言い訳をするつもりなのかと見詰めていれば、リボーンはオレの胸倉を掴んだまま引き寄せて額を合わせてきた。 「いつ帰れるのかも分からねぇのに、こんな時期に期待させるようなこと言えると思うか?大体お前は一度だって自分から会いたいとは言ってなかったじゃねぇか。26日が休みだとメールが届いたがその前のことは何も言わなかっただろう?」 自覚はあるからぐうの音も出ない。 近付いたせいで視界がぼやけている中で、リボーンの顔がまた遠のいていく。はっきりと顔が見える位置で止まったリボーンは、黙ったままオレを見詰めていた。 「……好きだ」 「そいつはもう聞いた」 必死で伝えた言葉を即座につれない台詞で返される。退路を断たれたオレはリボーンがどんな台詞を望んでいるのか分からなくて声が詰まる。 一生懸命考えるも妥当な言葉なんて思い付かない。だから今思っていることを口に出してみた。 「おかえり」 ふっと表情を緩めたリボーンがオレの胸倉から手を離すと、そのままぎゅうと抱きしめてきた。背骨が折れそうなほどの強い力に驚きよりも嬉しさが込み上げる。 背中に手を回して抱き締め返すと、さらに腕の拘束が狭まってくる。痛いからではなく切ないほどの愛おしさに息を吐き出した。 「ただいま」 こうやって帰ってきてくれることを望んでいたんだと、今頃気付いたオレはやっぱり賢くないのだろう。 クリスマスの夜に貰ったプレゼントを抱きしめながら、目を閉じてリボーンに身を委ねた。 明日はバイトの子や店長に冷やかされそうだなと思いつつ、そんな一日も悪くないかと口元が緩んだ。それに気付いたリボーンがこっちを向けと拗ねはじめる。 部屋を暖めて、2人きりでクリスマスを過ごそう。 どんな夜になるのか、期待を膨らませながら玄関のドアを閉める。 頭の上にジングルベルの鐘の音が聞こえた気がした。 浮かれている自分に気付いたけれど、今日ぐらいは羽目を外そう。 Merry Christmas |