リボツナ | ナノ



3.




ゆっくりと浸かるつもりが何故かカビ落としで必死になったバスタイムを終え、これがリボーンの言いたかったことなのかと釈然としないまま湯船から上がる。
それでも家中が綺麗になったからいいかと思うことにして髪を乾かしてから隣のリビングに足を向けた。

「ちょうどいいタイミングじゃねぇか」

「あ、」

いつの間に帰ってきていたのか、リボーンが2人掛けのソファの前にあるテーブルの横に立っている。
言われて覗き込むと、思っていたより豪華な夜食が並ぶテーブルにオレの視線は釘付けになった。

「飲むよな?」

「え……う、ん」

差し出されたワイングラスは食器棚の奥に置かれていたもので、イタリアに渡った父さんと母さんからの一人暮らしの祝いとして贈られのだが使った事は一度もない。
ようは下戸だからその機会がなかったのだ。
よく見付けだしたなと思いつつ、しぶしぶとリボーンから受け取るとワインを注がれる。

「ちょ、あんまり飲めないから」

「いいから飲んでみろ」

本当は飲めないというより、飲んだ後が困るから飲まないように気を付けているだけだ。
今日は家だし、リボーンから勧めてきたのだからいいかと恐る恐る口をつけて慌てて顔を上げた。

「うまっ!」

「だろう?」

ニィと弧を描くリボーンの口元を見て頷いた。

「この近所のデリにうちの商社が輸入したワインが置いてあったんだ。こいつは数が出回らないが安くてうまいから仕入させたヤツでな、このピザと相性がいい」

言われて差し出されたピザに齧り付くと、声を上げずに身悶えた。

「やっぱり飲めねぇ訳じゃねぇんだな」

その言葉に驚いてピザから口を離すと、リボーンはソファに腰掛けてからグラスを煽る。あっという間に飲み干された赤い液体にザルなのかと気付きつつも先を促した。

「オレ、ワイン飲めるって言ったことあった?」

綺麗に盛り付けてあるアンティパストやら煮込み料理らしきそれらを眺めながら訊けば、リボーンは気にした様子もなく答えた。

「どんどん喰えよ。つうか、前に自分が話してたじゃねぇか。引っ越しの前に母親がケータリングした料理についてきたワインが不味かったんだろう?美味い不味いが言えるってことは、それなりに数を飲んで基準があるってこった」

ラベルのマークも覚えてたしな、と言われて黙り込む。ついでにサラダを引き寄せると放り込まれた。
生野菜を咀嚼していれば、手元にチキンを投げ入れられて頬張る。するとまた入れられそうになるから手でリボーンの動きを遮れば、今度は口元に突き付けられて思わず口を開いた。

「喰え。そんなガリガリだと面白味がねぇ」

食べてないから痩せている訳じゃなく、食べても太らない体質なだけだ。というか、面白味ってなんだ。
反論は次々放り込まれる食べ物で塞がれ、飲みたいと思ったタイミングで差し出されるワインを飲まされてどうでもよくなってきた。
火照る頬をテーブルに埋めるとガラスの冷たさが気持ちいい。
飲み過ぎたなと気付いた頃には起き上がる気力すらなくなって、倒れるように身体の力を抜くとラグの上に寝転がった。

「ごめん……もう寝る」

リボーンが居るのだから起きていなきゃと思いはしたが、アルコールが連れてきた眠気に抗える訳もなく天井を見上げる格好で大の字に手足を伸ばす。
するとそこにリボーンの顔が現れた。

「随分と早ぇじゃねぇか」

「んー……からぁ、あんま飲めらいって……」

辛うじて開けていた視界の先に何故かリボーンのドアップが落ちてくるから、働かないながらもおかしいと頭の隅で何かを察した。眠いとだだを捏ねる目をどうにか開いて、リボーンに問いかけるべく口を開く。
そこにムチュという擬音つきで視界も唇も塞がれた。
見えていた筈の視界は暗く塞がれて、でも少し視線を動かすと部屋の明りが見えるから停電という訳でもなさそうだ。
リボーンと声を掛けようと動かした唇に熱く湿った感触が割り入ってきて、これはなんだろうかと考える間もなくもっと奥へとそれが入り込んできた。

「っ、ん」

漏れた自分の声がくぐもっている。
これってキスされてるんじゃないかと気付いたところで手遅れだった。
自分よりも体格のいい相手が上から伸し掛かっている状態では身動きも取れない。手で押し返そうにも両腕を床に縫い付けられていてはそれも出来なくて焦った。
これは何だと慌てるオレを無視して、リボーンの口付けが荒く奪うものへと変わっていく。
ただでさえアルコールで意識が朦朧としているところに、口を塞がれて空気を奪われてしまえば思考なんてあっという間に滲んで霞んだ。
本能だけに突き動かされて、知らず中で蠢く舌に追い縋る。
重なり合う唾液の濡れた音と、漏れる息遣いに興奮が増していく。
気持ちよさにトロリと蕩けた身体からは力が抜けて、唇を離したリボーンの顔が身体へ落ちていくことを黙って見詰めていた。
身体も大きいが手も同じく大きいリボーンのそれが、オレの服の裾をたくし上げる。肌着代わりのTシャツごと鎖骨の上まで捲り上げられて顔が赤らんだ。
舐めるような視線に酔いの底から羞恥が湧く。
手で隠そうとするも、それより先にリボーンの顔が落ちてきて脇腹を舐められた。ザラリとした舌の感触に驚いて身震いすれば、忍び笑いが聞こえる。
まるでお子様だと馬鹿にされたようで意地になる。確かにキスも初めてだったが逃げ出すほどガキじゃない。
平気だと示すように力を抜いてラグに頭を押しつければ、止まっていたリボーンの動きが始まった。
濡れた唇で肌の上をなぞり、気まぐれに止まっては啄ばんでいく。
チリッとした痛みの上を労わるように舌で舐め取られて息が漏れる。気持ちいいとか、嫌だとかより、行為に慣れていないから一つひとつに反応してしまう自分が恥ずかしい。
それを確認するようにゆっくりと何度も肌に触れるリボーンが、ふいに唇を離して顔を上げた。

「……なんだよ」

自分でもいやらしい顔になっていると自覚があるから言葉に棘が含まれる。こんなことを普通のカップルはしているのかと思えば、尊敬すら覚える。こういう行為がこれほど自分を曝け出すのだとは思わなかった。
見るなと顔を覆い隠すと、リボーンは無言のまま顔を寄せ腕を外して唇を重ねた。
なにをするのかを知っているオレは安堵の息を吐いて身を任せる。するとリボーンの手は先ほどとは違う動きをはじめる。
キスで視界を塞がれたまま、胸元の異変に気付いて手を伸ばす。
けれど伸し掛かられたままの体勢ではうまく動くことが出来なくて、リボーンだけが自由を謳歌していた。
肌の上を撫でていた指が乳首の先をぎゅっと捏ねる。痛みとその中にある感覚に喉の奥が鳴った。
口付けから逃れようとしても、舌を絡められていては刺激にしかならなくて余計に意識が霞んでいく。
指先で摘ままれ、捏ねられて形を変えた乳首がどうしてこうなったのかを突き付けられた。
だらしなく開いたままの口端から唾液が溢れ、気が付けばキスが解かれていたことを知る。
ツンと尖った先をぐにぐにと押し潰されて漏らした自分の声は、ひどく掠れて濡れていた。それでも恥ずかしいより気持ちよさが勝って、声を止めることが出来ない。
甘えるように仰け反った背中にリボーンの手が伸びて、胸肌に熱い吐息が掛ったと思えばすぐに柔らかい感触に包まれた。
触れられてもいなかった筈のもう片方の乳首に歯を立てられてビクッと竦み上がる。
どうして弄られてもいない先が膨らんでいたかなんて知らない。自分の身体なのに自分でコントロール出来ないことに驚いていれば、リボーンは構わず噛んでいた乳首を舌先で嬲りはじめた。
痛いぐらい尖っている先を濡れた暖かい舌でクリクリと転がされる。ジンジンと痺れるほどの快楽に怖くなって、リボーンの頭に手を伸ばすも力が入らないから縋っているようにも見えた。
正直な身体はリボーンの愛撫に反応して、ズボンの中で硬く起ちあがってくる。
抗いきれないのに素直に身を任せることも出来なくて震えていると、リボーンが胸元から顔を上げて視線を合わせてきた。

「怖いのか?」

頷いたら負けるような気がして黙り込む。だけど大丈夫だと虚勢を張ることも出来そうにない。縋るように視線を合わせたまま、リボーンのジャケットに手を伸ばす。
それを見たリボーンが何かを諦めたようにため息を吐いて軽い触れるだけのキスをくれた。

「しょうがねぇ、今日は手加減してやるぞ」

ありがとうと言うべきなのか、ごめんと謝るところなのかと悩んでいれば、リボーンの手がオレのズボンを脱がしにかかってきた。

「ちょ、あれ?あれ?」

手加減をこれ以上しないという意味に捉えていたオレは、どうして下着ごとズボンをむしり取られたのか分からない。
両手で起ちあがっている性器を隠していると、今度はリボーンが自らの下肢を曝け出した。

「え、それ何?」

同じ筈なのに違うソコを思わず凝視していたオレの手を取ると、リボーンは自分の性器ごと握らせて擦り上げた。
自分以外の勃起状態のソレを見たのも初めてだが、その状態のソレを触るのも擦り合わせることも初めてだった。
拙い自慰では得られない快感に、すぐに腰が砕けて力が入らなくなる。向かい合った格好での行為に没頭して身体を擦り寄せていくと、顎を取られて口付けられる。
吸い寄せられるようにリボーンの腰に乗り上げてしまえば、手の動きを激しくされて堪える間もなく達してしまった。
ビクビクと射精で震える性器を掴まれたまま身体の上にリボーンが伸し掛かってくる。
弛緩して白濁を零している自身ごと強く擦り上げられれば、また昂ぶってきた。
息つく暇も与えられないまま駆け昇っていく感覚に仰け反ると、耳元に荒々しい息遣いがかかり、上から性器ごと押し付けられる。
密着する肌と興奮しているリボーンの様子に堪らなくなって首にしがみ付くと、2度目の射精と同時に腹の上を生温かい精液で濡らされた。
2つ分の荒い息が部屋に響き、やっと理性が戻ってくる。
押し潰すようにオレの上に乗り上げているリボーンから手を離すと、ぬばついた精液と先走りで汚れていることが分かる。
自分のものなのか、リボーンのものかもしれないそれをシーツに擦りつけていれば、リボーンが上から起き上がった。

「お前も上を脱げよ」

「は?」

言うなり着ていたスーツを脱ぎだしたリボーンに首を傾げる。
汚れたからシャワーを使いたいということなら一人でどうぞだ。立て続けに2回もイかされたのだから動ける筈もない。
面倒だと言う代わりに上着を下げて布団を被ろうとして、手を取られた。

「何?うちの風呂狭いから先に使っていいよ」

そう言ってリボーンから布団を取り戻そうとしたオレは、そのまま布団を取り上げられて床の下に放られたことに驚く。
ムッとしてリボーンを睨むも、視線の先にはオレより憮然とした表情があった。
そこでやっと自分の過ちに気付く。

「……終わりだよな?」

とりあえず確認を取ってみると、リボーンは呆れた表情で首を横に振った。

「んな訳あるか。これからだろうが」

逃げ出したいけど、勿論逃がしてはくれなかったのだった。


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