3.オレの予想をあっさり裏切り、3時間でエンドロールが流れている。 元々シュミレーションゲームは得意なオレと、射撃と推理は世界一というヒットマンとのコンビは電脳世界でも無敵だと証明された。 それにしてもバケモノじみた射撃の腕に戦慄さえ覚える。 最初の1時間はゲームとコントローラーのラグや製作者の意図を読んでいたのか、少し上手いゲーマー程度だった。それが1時間を少し越えたところでムダ弾を撃つこともなくなり、どこを撃てば一撃で仕留められるのかを覚えたり、途中で出てくる謎解きも答えを知っているのかと思うほど悩むことなく進んでいき、ついにはこうしてエンドを見ている。 自分だけではバッドエンドしか見られなかったから嬉しいと思う反面、納得がいかないところもあった。 涼しい顔で銃タイプのコントローラーを置いたリボーンは、カーペットから立ち上がろうと片手を横についていた。そこに腕を伸ばすとしがみ付く。 「ちょっと待てって!」 「どうかなさいましたか?今からお茶の用意をさせて頂こうと思っていたのですが」 逃がさないようにとしがみついたオレを片腕で支え切っている顔からは、3時間もゲームに没頭していた疲れさえ見ない。 暗殺も請け負っているリボーンは、十何時間も同じ体勢でターゲットを狙っていると聞いたことがある。それを思えば楽勝だろうが釈然としない。 それでも余裕すら感じるリボーンの表情を見ると何に対してなのか分からない不満が膨らんでくる。 甘えにも似た感情に突き動かされて、逃がすものかと手を引くと自分の後ろに座らせて肩を向けた。 「疲れたんだ、肩揉んで」 普段ならばここで蹴りが入るか弾丸が飛んでくるところだ。だけど、今日はどこまでリボーンがオレの言いなりになるのか確かめてみたい気持ちが湧いて抑えきれない。 チラリと肩越しにリボーンの顔を覗き込めば、リボーンは声を出すことなく手をオレの肩に伸ばしてくる。 その手が肩にかかるとゆっくりと手の平で温めるように動き始めた。 殺傷能力だけに特化していると思われていた手は、意外や癒しの力も備わっているらしい。あまりの気持ちよさに目を閉じて身を委ねていれば、リボーンの手が突然止まる。 もう終わりなのかと文句を言おうと目を開けると、突然バスローブの紐を解かれて剥ぎ取られた。 「ちょ、なに!?」 何をする気なんだと思っていれば、リボーンはオレから取り上げたバスローブをカーペットに広げその横に膝をついてオレを促してきた。 「こちらにうつ伏せになって下さい」 そう言われても即座に反応出来ない。 手で貧弱な上半身を囲い、クッションを引き寄せて下肢を覆うことで辛うじてリボーンの視線から逃れている状態だからだ。 バスローブを取られたオレは何も身に着けていないから、ヘタに動けば大事な部分が見えてしまう。 身体を拭かれた時点で恥ずかしいもクソもないのだが、状況が違えば心持ちだって変わってくる。 だけど、リボーンの他意のないオレの意に沿おうとする瞳には敵わなくて眉が情けなく寄った。 「そっち向いてろって!」 覚悟を決めると、リボーンが横を向いた隙に這うようにバスローブの敷かれた場所までにじり寄った。 うつ伏せなのはいい。だけどマッサージとは裸でされるものなのだろうか。 リボーンが言うのだから本格的な施術はそうなんだろうと思うことにしてバスローブの上に転がると、横を向いたままのリボーンに声を掛けた。 「もうこっち向いてもいいよ」 空調はあくまで服を着た状態でちょうどいいように設定されている。いくらフカフカのバスローブを敷いているとはいえ、背中とお尻はさらけ出しているのだから正直寒い。 するとリボーンは脱衣所からバスタオルを持ってくると、それを肌の上に掛けてくれた。 「今からマッサージをはじめさせて頂きます。痛いところや、気持ちのいいところはおっしゃって下さい」 「う、うん…」 痛いと言ってもやめてくれない癖にという内心の呟きはどうにか飲み込んで、興味半分、恐怖半分で目を閉じてリボーンに身を委ねた。 肌の上を滑る手の平の行方に息が漏れる。 ため息でも痛みに堪える呻きでもなく、愉悦の吐息だ。 最初はひんやりしていたオイルも、今は自分の肌とリボーンの肌との摩擦によって温められている。引っ掛かりなく肌を撫でていくリボーンの手に夢うつつの表情のまま、だらしなくバスローブに顔を埋めていると声が掛った。 「痛みを感じる場所はありませんか?」 「んー…ない、よ」 返事さえ億劫になるほど気持ちいい。 このまま寝てしまえたら極楽だろうなと、ぼんやりする頭のまま適当に答えた。 時折強めに這わされる指は、痛いと気持ちいいの間を行き来する。オイルが肌に染み渡るように指の腹で押されて、わずかな痛みを覚えて息を飲み込む。 それに気付いた指がすぐにそこから離れていくと、別の場所を探るように脇腹から腰骨をなぞった。 「っ!」 今までと違う感覚に声が漏れそうになる。ぞわりと肌が泡立って、そんな自分に驚く。 覚えのある疼きに顔を埋めて堪えていれば、リボーンの手は腰骨から尻へとなだらかに滑っていった。 一度呼び覚まされた熱はなかなか静まってはくれない。息を止めることで必死に堪えようとすれば、リボーンはそれを痛みによるものだと誤解したのかイイところを探すように手は益々肌の上を探っていく。 やめろと言えばどこが痛いのだと聞き返されるだろう。 気持ちいいからやめて欲しいなんて言えないし、気持ちいいならもっとしてくれそうな勢いだ。 いつになったらこの執事ごっこをやめてくれるのだろう。ありがたいというより、もう迷惑だと言えればどれほど楽か。 だけどリボーンからの接触を拒絶する気にはなれなくて、そんな自分はとことんバカだと思う。 あの夜の一時がいまだ忘れられない。 記憶ごと消えてしまえと念仏のように心の中で唱えながら、リボーンの指先を意識しないように顔を上げると、膝裏までかかっていたタオルをぺロリと捲り上げられた。 「ひぇ…!」 下着もつけていない尻を晒されて悲鳴を上げるも、リボーンは気にした様子もなくももへと指を滑らせた。 少し反応してしまった中心はバスローブの毛足に埋もれているせいでリボーンには見えないと思う。だけどこれ以上触られ続けていれば、分かってしまうぐらいには勃ち上がっていた。 どうにか逃げ出せないかともぞもぞしていると、リボーンは手を止めて顔を覗き込んでくる。 「どうかなさいましたか?」 「っ!…もういいよ!」 身体からリボーンの手が離れた隙にバスローブを掴んで起き上がれば、そんなオレを遮るように肩を引き寄せられる。 リボーンの背中に押し付けられる格好で抱き寄せられたオレは、掴んでいたバスローブがももで捲れていたことに気付いた。 隠しきれなかった中心を慌てて手で覆うと、リボーンは身体を屈めるように横から顔を近付けてくる。 「ご主人様?そんなに私のマッサージがお嫌でしたか?」 「違うよ!そんなんじゃない!」 見られていなかったらしい。ホッとしたことで後ろめたさを隠すために大声をあげれば、リボーンはよかったと頷きながらオレの前に回り込んできた。 股間をバスローブで覆っているオレの真正面に座ったリボーンは手を伸ばすとオレの足首を掴む。 「なにするんだよ!」 ぎょっとして即座に手で払うも、リボーンは気にした様子もなくまたオレの足を持ち上げた。 「何、っとは…?足のマッサージですが」 もう終ったと思っていただけに驚きと焦りで声が出ない。これ以上触られたら隠している部分がヤバいことになるのは必至だ。 リボーンの表情からは何も読みとれないから、きっとオレのことなんて何とも思っていないのだろう。1ヶ月前のあの夜を繰り返し思い出しては一人の夜を慰めていたなんてこいつは知らない。 バカ野郎と小さく呟いても誰にも聞いて貰えない自分が惨めだ。 言いたいことも、聞けないことも飲み込んで、唇を噛み締める。 急に大人しくなったオレの足を掴んでいたリボーンは、それを不審にも思わない様子で足の裏を揉みはじめた。 「ん…っっ」 肩や背中はあれほど気持ちよかったのに、何故か足の裏は鈍い痛みを感じる。逃げを打つ足をリボーンは押さえつけながら強引に揉みほぐしていく。 痛いと言ったらやめてくれるという約束など覚えていそうにない。 見るとはなしに見えてしまうリボーンの指の動きに目を奪われていると、長い指は突然動きを止めて顔を上げた。 「随分と疲労が溜まっているようで…もう少し続けさせて頂きます」 「え、あ?…うん」 よく分からないが揉まれた肩や背中は楽になってきている。 リボーンに任せればいいんだという日頃の習性で頷いたオレは、その手が腿からその奥へと伸びてくることに驚いた。 「うわ、」 手で押さえていたバスローブを捲られ、足の付け根の関節に指先が入り込む。ギリギリで大事な部分を押さえはしたが、皮膚の薄いそこを少し強い力で擦られて声が漏れた。 「う…っ、ん!」 オイルの滑りを借りた指が足と関節の際を行き来する。 まるでソコを弄られているみたいに顔が近くて息も吐き出せない。 唇を噛んで噛み締める息は熱を帯びて、指の腹で執拗に揉まれると押さえている中心は次第に硬く膨らんできた。 バレてしまうかもしれない恐怖に竦みながらも、リボーンの手を拒めないのは期待する気持ちがあるからだ。 もう一度、と望む心の声に唆されて顔を上げるも、リボーンの手はあくまでマッサージのためだけに動いているせいか無情にも腿へと降りていく。 あっけなく交わされた快楽の余韻に浸る間もなく、皮膚の薄い腿の内側を手の平で撫でられて足が震えた。 我慢しようと押さえれば押さえるほど欲望の証は膨らんでいく。 「も、ヤダ!」 振り解けない腕と、逃げられないほど蕩けた自分に嫌気がさした。 どうせどうにも思われてないなら、ここでとどめを刺されて愛想を尽かされてしまいたい。 二度とオレがそんな気を起こさないようにきっぱり断ってくれと、やけっぱちでバスローブをそこから取り去る。 現れた自身は興奮に色づいて、すでに半ば以上勃ち上がっていた。 オレの行動に手を止めたリボーンの視線が突き刺さる。 痛いぐらいの沈黙が降りて居た堪れない。 罵倒でも侮蔑でもいいから何か言えと内心で八つ当たりをしていれば、やっとリボーンが口を開いた。 「成る程、分かりました。それでは先にこちらをどうにか致しましょう」 「ど、どうにか…?」 ここまで晒したというのに、リボーンはやっぱり動揺の影さえ見せなくて逆にオレが狼狽えた。 嫌な気配に膝を立てて逃げ出そうとするも、リボーンの手は素早く追ってきて膝を割られる。 「なんなりとご命令下さい。何でも致します」 さあ、と迫られて気が付いた。リボーンからは何のリアクションもないということに。 それは今日がオレの誕生日だからか、それとも何とも思っていないからなのかは分からない。 リボーンの手によって広げられたソコは萎える気配もないから、いずれにせよ射精しなくてはおさまらないと思う。 本人がいいと言っているのだからとリボーンの顔を覗き込むと、警鐘を鳴らしている自分自身を振り切って言った。 「ココ、さわって」 2012.10.09 |