リボツナ | ナノ



2.




呪われてるのかな、とつい恨みごとが口から漏れそうになる。
それぐらい毎年オレの誕生日には、何かしらあった。
学生時代には祝って貰えなかったことを考えると、マシなのかもしれない。だけど、ボスになってからは『沢田綱吉』としての誕生日ではなく、『ボンゴレのボス』としての行事でしかなくなった気がする。
公人としてそれは当然なのに、欲張りなオレは何かを期待していたのかもしれない。
その場限りの関係に目くじらを立てることも出来ないし、忘れてしまったことをわざわざほじくり返す気にもならない。
アレは気の迷いとか、衝動とかいうヤツとして自分の中で折り合いをつけた筈だと、シャワーに打たれながら頭を振った。
頭上から降り注ぐ粒は周囲を跳ねるせいでそれ以外の音を遮断してくれる。
この時間だけは誰にも邪魔されないから好きだ。
はぁぁと力の抜けたため息を吐きながら床にしゃがみ込むと、いやでも自分の手足が視界に入る。
今はもう消えた鬱血の痕跡を探している自分に気付いて、そんな自分から逃げるように顔を上げた。
そこへ浴室の向こうから声が掛る。

「遅くなって申し訳ございません。寝室の片付けは済ませました。お背中を流しましょうか?」

まだやっていたのかと呆れたが、もう自分の中に苛立ちの波は立たなかった。
何を思ってかは知らないが、リボーンにとってこの『執事ごっこ』は今日一日何がなんでも続ける気なのだろう。
だとしたら、それを逆手に取って楽しむのもアリかもしれない。
普段とは立場が逆転しているという状況にやっと気付いて口元が緩む。
つまりはこのお遊びの中で「もう出来ない」と言った方が負けなのだ。
いつも負けてばかりのオレだけど、今回はオレに分がある。
よし!と頷いてシャワーの蛇口を閉めると、思わず隠してしまいそうになった下肢から手を外してドアに向かった。

「…じゃあ、拭いてくれる?」

俯きそうになる顔を必死で上げてドアを開くと、リボーンは動揺の欠片すら見えない顔でバスタオルを広げて立っていた。

「かしこまりました、ご主人様」

勝負だ。

バスローブを肩からかけられ、まずは頭を拭かれる。
いつもの乱雑さはなりを潜めて、どこまでも丁寧で優しい手付きだ。その指先に自分以外の存在を匂わされて余計に後に引けなくなる。
リボーンにとっては大したことではないのなら、オレも気にする必要はない。
そんな風に気負うオレを見透かしたように頭皮をマッサージするように拭いていく。それがまた意識が散漫になるほど気持ちいい。
リボーンの手にされるがままでいれば、その手は頭から離れバスローブが乗っている肩へと伸びていった。
スルリとバスローブを肩から落とされて竦みそうになる。
肌の上を撫でるように触れるタオル地が水滴を追って喉元を拭いていき、顎先から喉元を通って鎖骨のくぼみを撫で、その下のあばらの浮いた胸元に落ちてきた。
滑っていくタオルの柔らかさを感じながら片腕ずつ上げて脇の下まで拭かれていくと、自分以外の手を思い出してぞわりと鳥肌が立つ。
肌と肌を合わせたことなんてあの時の一度しかないから、どうしても忘れられない。
だけどリボーンは忘れているのか、なかったことにしたいのだからオレがいつまでも拘っていては先に進めないのだ。
堪えるように小さく息を吐き出しながらリボーンのしたいようにさせていると、とうとう下腹部までタオルが下がってきた。

「どうなさいますか?」

恥ずかしいのならば自分で拭くかといいたげに手を止めたリボーンに、引くに引けなくなった自分を感じる。

「拭け…ってば!」

全然平気だと強がってリボーンの手を握ると自らの下肢へと導いた。
タオルで擦られた中心がビクリと跳ねたがどうにか堪える。
唇を噛んで我慢している顔を見られまいと俯くと、嫌でもリボーンの手がどこを拭いているのかが見えた。
身長差があるせいで膝を折って屈んでいるリボーンは、あくまで水分を拭い取るとこに専念しているのかこちらを気にする気配もない。
柔らかい感触がももから膝裏、足の甲を撫で、指の間と土踏まずまで水気を拭き取る。
最後まで何のリアクションもなかったことに落胆している自分に気付いて頬を染めていると、リボーンは落ちていたバスローブを拾い上げると軽く払ってから立ち上がった。

「このバスローブは洗わせて頂きます。代わりのバスローブまたは部屋着のどちらになさいますか?」

「い、いいよ!そのまま着るから!」

掲げていたバスローブをリボーンの腕から奪い取ると、そのまま背中を向けて歩き出す。
こんなバスローブなんてあっただろうかと首を傾げながらも袖を通して前を合わせていれば、音もなく近付いてきたリボーンが背後から声を掛けてきた。

「これからのご予定はいかが致しましょう?」

「ひぃ!」

低い声を耳元に吹きかけられて悲鳴を上げると耳を押さえて慌てて後ろを振り返る。
大体オレに今後の選択権なんてあるのだろうか。
あの時も今も、すべてがこいつの思い通りにことが運んでいる気がしてならない。バカにされることは慣れているけど、見下されるのは面白くない。
例えそれが自分の元家庭教師だとしても、だ。
だから今日は、今日だけは負けるもんかともう一度眉間に力を入れてリボーンを睨み付けると、自室の中で唯一自分の居場所だと思えるソファに手を掛けた。

「今日は一日、ここから出ない!リボーンもだからな!」

誕生日ぐらいオレが主役だっていい筈だ。他のメンツが顔を見せないことが不安要素でもあるが、しばらくは大丈夫なんだろう。
絶対遊ばれてやるもんかと意気込みながらソファに腰掛けたオレの背中を、リボーンはニヤリと笑って見詰めていた。


中学卒業後そのまま渡伊したオレは20を過ぎるまで自由というものがなかった。
『ボンゴレのボス』になったと同時に『沢田綱吉』がなくなり、気が付けば仕事が恋人となっていた。
京子ちゃんやハルと交流がない訳ではないが、一般人の彼女らと深くかかわりあいになることを自ら避けた結果ともいえる。
傘下のファミリーや同盟ファミリーからあの手この手でオレに取り入ろうとする幹部も多いが、公私混同は避けるべしというリボーンの言葉に納得して娘さんや女性に会うことも控えていたことも一因かもしれない。
色々要因はあれど、それとこれとは別だということは理解していた。
バスローブをはおっただけの姿のオレは、まるで本当の執事のように横に立ったままのリボーンをチラリと視界に入れた。
テーブル越しに流れるTVからは日本から送って貰ったゲームのイントロが流れている。
出来ることなら一日中誰にも邪魔されず、このRPGに没頭していたいと思っていた。だけど今は別の思惑が頭をもたげた。
ゲーム機からディスクを取り出すと、別のパッケージのディスクを手にして差し込む。
画面に流れる注意書きを横目にゲーム機からコントローラーを外すと、TVの裏から箱を取り出してそれを端子に繋げた。
拳銃のような形をしたそれが動くことを確認してから後ろにいるリボーンにひとつ差し出す。

「…一緒にやって」

いつもならばそんなおもちゃやってられるかと一蹴されるところだが、今日は別だよなとそれを突き付けるとリボーンは躊躇なく受け取った。
手にしたコントローラーに指を入れて作動を確認すると、オレが座り込んでいたカーペットの上に同じようにしゃがんできた。

「かしこまりました。エンドロールまでお付き合い致します」

「いや、えぇ?」

確かに2人プレイのシュミレーションゲームだが、まさか最後まで付き合ってくれると言い出すとは思ってもみなかった。
それに最速エンドでも6時間だと言われているこれを、ゲームなんてガキの遊びだと笑っていたリボーンが出来るとは思えない。
いくら実戦は無敵でもゲームは別だ。
ムリだよと断ろうとしたオレに自称執事は余裕の笑顔だけ見せて、ゲームは始まっていった。


2012.10.06







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