リボツナ | ナノ



2.




初めて踏み入れるボンゴレの敷地を首を回して眺めていると、門の外を守るボンゴレ構成員がジロリとこちらを睨んできた。
それに肩を竦めて歩き出せば、今度は入り口に立っている構成員も視線を投げてくる。
当たり前といえば当たり前で、つい3年ほど前にボンゴレと全面戦争を仕掛けていたミルフィオーレのボスであるボクを恐れる気持ちがあるのだろう。
ボクの暴走により、一時期は壊滅状態にあったマフィア界を立て直した立役者は他ならぬこのボンゴレの10代目である彼だ。
忘れたくても忘れられないあの顔を思い出していれば、当の本人が窓の外を死ぬ気の炎で飛んでいく姿が目に入った。

「なんだろ、楽しいことでもあるのかな♪」

飛んでいった当人に呼び出されたことも忘れ、白龍を窓に飛ばすとガラスをぶち破り羽を広げてそこから彼の後をつける。
彼が死ぬ気の炎を纏っているなんて珍しい。普段は温厚というより気弱、優しいというより優柔不断でどこにでもいる青年。それが死ぬ気の炎を纏うと一変する。
しかし白蘭や他のマフィアたちとは違い、自らのことで易々と死ぬ気になれない彼は、死ぬ気になるためにタブレットを飲まなければあの状態になることはない。
そしてそれは彼こと綱吉くんにとって、一番最終手段だということもボクは知っていた。

「綱吉くん♪」

「び、白蘭?!」

オレンジの死ぬ気の炎を額に灯した顔がボクの声で振り返り、やっとボクの存在をみとめて据わっていた瞳が見開いた。

「どこ行くのさ。それともボクと2人きりで青空デートでもしたかったのかい?」

それもオツだねと言ってやれば、瞠っていた目をパチパチと瞬いて空中で急停止した。

「……忘れてた」

「ええーっ?ひどいなぁ…でも、まあいいか♪」

どうせ自分と綱吉くんしか空を飛べないのだから、逆に邪魔をされる心配もない。
右腕という名の番犬とか、親友という括りの信望者だとかに見つからないで2人きりになれるなら大歓迎だ。
気分よく鼻歌まじりで綱吉くんに近付いていけば、辺りを見渡した綱吉くんがほどよい場所を見付けたのか少し先の建物の上に視線をくれてからボクを振り返る。

「あそこまで行く」

「オーケイ♪そこから徒歩でデートだね」

「違う!」

照れ屋な綱吉くんの突っ込みに笑うと、彼の手を引いたまま指定された屋根の上へと2人で飛び下りた。

「うーん。ここからデートするには、ちょっと街から離れてないかな?」

ちょっとどころかかなり離れている。どこのファミリーでも同じだが、ボンゴレも多分に漏れず郊外の人が通らない場所に本部を構えていた。
そこからまた更に離れた葡萄畑の広がる小屋の上にいるのだ。
そう、いわゆる人気のない場所へとボクらは誘導されていた。
額の炎を灯したまま、ボクより小さい綱吉くんは顔を上げて視線を合わせる。いつものようにボクの顔を見ただけで怯える彼はどこにもいない。
残忍だ、人間じゃないなどと好き勝手に言ってくれている彼らしくない無言の威圧に首を傾げる。
今日は先日のエイプリルフールのお詫びとして彼から呼び出された筈だ。

「どうしたんだい?デートじゃなくて殺し合い?それでもいいんだけどね♪」

そう言ってやれば、綱吉くんは燃える炎ごしにボクの目を睨むと首を振って口を開いた。

「何も言わず、オレにボコられろ」

「え?」

幻聴が聞こえたらしいと判断してそう訊ね返すも、それよりも先に綱吉くんの拳がボクの真横を通り抜ける。
ブンッという宙を殴りつける音は本気のそれに違いない。
殺し合いなどと言ってはみたものの、綱吉くんは無益な争い事を極端に嫌う。それはユニちゃんと綱吉くんが同じ気持ちで似合いもしないマフィアのボスになったということだ。

だというのに。

本気でかかって来いと綱吉くんは顎をしゃくって意思表示をする。
それに身震いをしてから白龍を戦闘形態へと変化させると、にんまりと笑みを零した。

「これって愛の告白だろ♪ボクが君を倒せば君はボクのもの。君がボクを倒せばボクは君のものだね♪」

綱吉くんの言葉をそう解釈をしたボクに、彼は首を振ると拳の炎の純度を一層高めて言い切った。

「白蘭…お前、キモい」

「…え?」

今日はよく聞き取れないと思いながらも綱吉くんに白龍を飛ばすと、それを片手で跳ね飛ばして死ぬ気の炎で綱吉くんは飛び上がった。

「以前からおかしいと思っていたが、お前の言動はうちの霧の守護者と電波具合が変わらない。先ほどまでは悪いと思っていたが、今からは全力でいく」

彼の霧の守護者といえば、パイナップル頭の骸くんのことだろうか。あんな派手でナンセンスな幻術使いと一緒にされるのは甚だ不愉快だ。
ムッと顔を顰めると、綱吉くんは冷めた視線でボクに向かってクロスしていた腕を振りかざす。

]]バーナーの炎が全身を焼きつくしてから、今朝出掛けに言われたユニちゃんの台詞を思い出していた。

『今日は何があっても沢田さんと戦ってはいけません。おじさまに命を狙われることになるのです…』

おじさまが誰のことなのかは分からなかったが、ユニちゃんの予言は恐ろしい精度で的中をするから分かったよ♪とだけ答えていたことにも。
しかし、どうにか]]バーナーを堪え切ったボクはその勢いを逃すために綱吉くんから離れた地点へと着地をし、逃げるなんてさらさら考えずに体勢を立て直そうと立ち上がる。
と、
ビリビリと皮膚を突き破るような殺気に晒されて思わず白龍をその方向へと走らせた。

「甘ぇぞ」

意外な近さで聞き覚えのない低い声を聞いて飛び上がる。意識が完全にその声の主に向いていたから横から放たれた2度目の]バーナーをまともに食らった。


突然の綱吉くんの暴走は痴話喧嘩の果ての行動だったということを知ったのは、ボクの行動を知り尽くしているユニちゃんが綱吉くんの手からボクを救い出してくれた帰りの車の中でのこと。
それを知ってボンゴレに『遊び』に行く頻度が上がったなんてことはまた別の話。



2012.04.08



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