リボツナ | ナノ



1.




ツナによるエイプリルフールが成功を収めた翌週、ヴァリアーどころか同盟ファミリー、果ては関連ファミリーにまで波及したせいでそれを収束させることに一週間経った今日もボンゴレは大わらわといった様子だった。
すっかり顔色をよくした右腕がきびきびと指示を与えている様を確認して、ディーノはツナの待つ執務室へと足を向ける。
かく言う自分もまんまとツナに騙された口だったので騙されたと知って悔しくない訳ではなかったが、それよりもツナがボスでいてくれる事実の方が嬉しかったのだからよしとした。
そんな自分を知ってか知らずか、お詫びと称した招待を受けてこうしてボンゴレまで足を運んでいる。

「それにしても、また今日もツナの後ろにリボーンがいるんだろうなあ」

羨ましいと素直に思う。当然ツナにではない、リボーンの位置が妬ましい。
次期ボスとして故知の仲となった今ではなく、出会ったばかりのツナを思い出してつい笑みが零れた。
ビクビクとこの世界に怯え、逃げようと必死に足掻いていた中学生のツナはもういないんだなと寂しく思いながら、それでもスレることなくここまで育ったことが感慨深い。
ツナと同い年の守護者たちの、献身的ともいえる過保護と過干渉。自分も含めた周囲の大人たちのサポートと…同じく過保護がなかったとは言えないだろう。
しかし歴代のボスの中でもツナは群を抜いて様々な経験積み、戦うことで周囲にボンゴレのボスたる資質を示し続けた。
だからこそ東洋の小さな島国からの新しいボスを、誰もが認めて支えている。
今ではそれだけの価値がある男だと一目置かれるぐらいには、ツナはボンゴレのボスだと言える。
それが、だ。ツナの守護者である笹川了平の妹に気があるとばかり思っていたら、意外なところから伏兵が現れてあっという間にツナを攫われてしまった。
面白くないのは、ツナを昔から知っている自分のような者たちだ。
だからこそ、獄寺の案にみんなが賛同し件のエイプリルフールへと繋がった。
ツナが悪い訳ではないが、ツナの鈍さが罪作りだったということは明白で、少しやりすぎたとは思えど、やはり今でもリボーンを認められない部分がある。

「オレに気があるって思ってたときもあったなぁ…」

顔を見せるたびにツナは初心な小娘のように顔を赤らめるから勘違いしたのだ。
それを指摘すれば違いますと首を振って否定され、女の子がいいに決まってますととどめを刺されて落ち込んだこともあった。
それが今では気障っぷりからいえば、オレよりも数段上のリボーンと懇(ねんご)ろになっているだなんて信じられない。
兄のようにも思っていただけに、納得できない部分もあった。
ふう…とため息を吐いて、階段を登り切った先にあるテラスへと足を向ける。後ろからついてくるロマーリオに手をあげて少し一人になりたいと合図を送ると、頷いてテラスの手前で立ち止まる。
それを確認してから木漏れ日の差すテラスへと踏み入れれば、茶色い髪の先客がいた。

「ツナ…?」

そう声を掛ければ驚いたように振り返る。

「あ、呼びだしたのにこんなところにいてすみません!すぐ戻ります!」

手摺の隅にちょこんと座りこんでいたツナが飛び降りようと慌てて身体を捻る。
そんな不安定な場所での急速な動きに身体のバランスを崩したツナはグラリと傾ぐ。それに手を伸ばそうと駆け付けて…いこうとしてつんのめった。
バタン、バタン!と2つの音を立てて倒れ込むオレとツナ。それでも急いで顔を上げれば、同じくツナもオレの様子を伺うように顔を上げていて。
大の大人どころか、いっぱしのボスになってもこの体たらくということに顔を見合わせたオレとツナは笑いの発作に襲われる。
ひとしきり笑い合ったところで、ボサボサになっていたツナの髪を手櫛で梳かしてやれば、やっぱり今日も顔を赤くして飛び退いた。

「だっ、大丈夫です!オレ、丈夫なだけが取り柄だから!ディーノさんこそ大丈夫ですか?」

そのどう見ても気があるようにしか見えない照れ笑いに、またも重いため息が漏れる。

「なぁ、ツナ。どうしてリボーンがよかったんだ?オレだって悪くないよな?」

どうしても納得がいかずに思わずそう訊ねてみれば、ツナは目を瞠って首を傾げた。

「えーと、どうしてリボーンとディーノさんを比べるんですか?あ!オレ恋人が男ですけど、ディーノさんとどうこうっていうのはあり得ませんからっ!一度もそういう目でディーノさんのこと見たことないです!安心して下さい!」

人の気も知らないできっぱりと言い切ったツナに肩を落とすと、ツナは慌てた様子で顔を覗き込んできた。その顔をよく見れば目元が泣いていたように赤く腫れている。

「…ツナ、目が赤いけどどうかしたのか?」

「なん、何でもないです!!」

バッと顔を手で覆い隠すとツナは勢いよく立ち上がる。見られたくないということは、やはり泣いていたということだろう。
見られまいと木々に目を向けるフリをするツナの背中に、不安が頭をもたげてきた。

「どうした?ツナ。オレでよければ聞いてやるぜ」

どうにもツナには弱い。というかツナの前では兄貴面をしたくなる。
転んでいた膝をどうにか立てると、ツナの隣に並んで顔を覗き込んだ。
出会った頃に比べれば大きくなったとはいえ、どうにも頼りない見た目についついそう口に出してしまう。
それを聞いていたツナは、一瞬迷うように俯くと、伺うようにチラっとオレに視線を合わせて顔を上げた。

「ディーノさん、オレ…」

大きな茶色い瞳に覗き込まれてグラリと身体がツナに向かって傾いでいく。
ツナの肩を掴み顔を近付けていくと、目の前の顔がぎゅっと歪んで口を開いた。

「オレってそんなに頼りく見えますか?」

「は?」

いい雰囲気をぶち壊す問いかけに開いた口が閉じられない。言葉の意味を探るようにツナの顔を眺めていれば、まばらな睫毛が揺れて眉が寄っていく。

「リボーンが、オレを信用出来ないって言うんです。こうしてディーノさんや白蘭やエンマと2人きりで逢おうとすると、お前は危なっかしいからダメだって!」

酷いですよね?と同意を求める声に顔が引き攣る。リボーンの言葉の意味を多分履き違えているだろうことは容易に想像がついたが、それを訂正できない理由にも思い当って口を閉ざすしかない。

「オレ今までだってひとりで切り抜けてきました。…それにディーノさんや白蘭は同盟ファミリーなんだ。危ない訳がないでしょう?」

言い募るツナに曖昧な笑みを浮かべると、肩から手を離した。
ツナの期待は裏切れない。
これだから何も言えなかったんだよなと苦い思いでため息を吐くと、後ろから怖い気配で佇んでいたリボーンに顔を向けた。

「手を上げるから撃つなよ?」

両手を胸より高く上げて振り返れば、分かりやすい殺気を放ちながらリボーンが入り口の手前で待っていた。
それを見たツナが唇を尖らせるとオレに抱きついてくる。

「べ、別にここで待ち合わせしてた訳じゃないんだからな!たまたまだって!」

リボーンの視線から隠れるように背中に顔を押し付けるツナに脂下がっていれば、肩先5センチ横を弾丸が駆け抜けていく。

「オレに隠れて逢引きなんてしやがったら、こいつは今頃生きちゃいねぇぞ」

その殺人予告が本気だということを、オレは知っている。だがそんなリボーンの台詞の真意を知らないツナは、オレのウエストあたりに手を回して顔を覗き込んできた。
死亡フラグだ。

「すみません!リボーンが先走ったことを…」

何を心配されているのか分からないツナは、逆にオレを心配して顔を見上げてくるから始末に負えない。

「…死ね」

きちんとオレにだけ向けられた銃口を避け、命からがら逃げ出したのは30分ほど追いかけ回されたあとだった。



2012.04.03







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