リボツナ | ナノ



エイプリルフール1.




「オレ、ボンゴレ10代目やめるよ」

にっこりと笑顔を浮かべて言い切れば、オレに書類を差し出していた手がピタリと止まる。

「冗談、ですよね…?」

探るようにオレの目を見詰める獄寺くんに小首を傾げると、手を伸ばして書類を受け取った。

「冗談だと思うの?」

日付も変わったというのに、いまだ終わらない書類の字面を目で追ってため息を吐くと訂正のためのペンを入れる。

「あ、ここ…この数字はムリだから。今月…じゃないや、先月までに一体どれぐらいの修繕費をこっちで持ったと思ってるんだろ。骸につっ返して」

「分かりました。っというか、10代目…?」

捨てられた子犬みたいに、今にも目に見えそうな耳としっぽを垂らしながらおずおずとオレの顔色を伺う。

机の上にある時計の針は夜中の12時を指し、3月から4月へと日付を跨いだことを知らせている。それをチラリと確認してから獄寺くんの言いたいことに気付かないフリをして顔を上げた。

「差し出がましいことをお訊ねしますが…リボーンさんとご結婚されるのです、か?」

「イヤイヤイヤ!オレ男だからっ!男同士じゃ結婚できないことぐらい知ってるって!!」

いくらオレがダメツナだとはいえ、それぐらいは分かっていた。けれど、そんな風にオレが思い詰めてしまっても仕方ないほどのことを自分たちがしたという自覚があるのかもしれない。
獄寺くんに見えないように首を振りながら笑みを漏らすと、座っていた椅子から立ちあがってあと少しとなった書類の山に手をついた。

「でもさ、リボーンと一緒に居たいってのはあるかな」

そうポツリと漏らせば、心当たりのある獄寺くんは肩を揺らして目が泳ぐ。
オレの一言でこれからどういう行動に出るのかと高見の見物気分で眺めていれば、獄寺くんは泣きそうだった顔を床から上げて手にしていた書類をオレの机に放ると一礼をしてから飛び出していった。
その背中を見送ってしばし悩む。

「とりあえずリボーンに電話入れとこうかなぁ…繋がるといいんだけど」

呟いた小声は聞く者もいなくて、つまりはリボーンがここに居ないことを示している。オレの、護衛なのに。
その不条理に息を吐きながら同じ夜空を見上げているであろうリボーンを思った。




守護者とヴァリアー、それにチェディフまで総動員してオレとリボーンを引き離そうと画策していた。
いや、ひょっとしたら同盟ファミリーまでかもしれない。
一年前の会合でオレの護衛についていたリボーンを見たディーノさんが顔色を変えてどこかに電話していたことを覚えている。
どうやらリボーンと知り合いだったらしいディーノさんが、その後プライベートで掛けてきた電話の内容からしてそんな感じだった。
リボーンはやめとけ、お前が不幸になるぞ。女ったらしだから遊びなんじゃないのか、等など。
確かにオレには過ぎた相手だという自覚はあるから迷ったけれど、リボーンはそんなオレの不安を知っているからそれを全部解消するために奔走してくれて。
両手両足の指を使ってもまだ超える愛人たちと別れ、オレから一時も離れないリボーンに業を煮やしたのは彼らだった。
普段なら一丸になることもない一癖も二癖もある面々が、どうしてオレの幸せを壊そうとするときだけ一つになるのか腑に落ちない。
とにかくオレとリボーンを引き離したいらしい彼らは、事あるごとにオレに用事を作ったり、リボーンに仕事を入れたりして物理的に距離を置かざるを得ない状況を作られた。
ボンゴレのボスがどれほど大事なのか、それは知っている。だから仕事に穴は空けられないと精を出せば、リボーンと離れ離れになるしかない。
みんなに分かって貰うには時間が必要だろうと思っていたけれど、1年経っても変わらないこの状況にオレの我慢の限界が超えてしまったのだった。




通じないだろうと思いつつ、それでも掛けたリボーンの携帯電話はやはり繋がることなく電源が入っていないか電波の届かない場所にいることをオレに告げた。
基本的に仕事中には電話を持ち歩けないのだから、それは仕方ないと分かっている。
頭の中のカレンダーをめくってリボーンの仕事を思い出せば、今日はここへ帰って来る日の筈なのだ。
山本とバジル君を引き連れてのヨーロッパ横断暗殺の旅は終わりを告げているだろうに、一向に電話を返してくれないのは山本とバジル君に邪魔をされてるだろうことを容易に悟らせる。
この一年でリボーンと恋人同士らしくイチャつけたことなんて最初の一ヶ月だけだ。
それ以降はひと月に一度、顔を見れただけとか、キスをしていい雰囲気が流れたところで必ず邪魔が入ってきた。

「ま、今日ぐらい嘘吐いてもいいよな!」

ここはイタリア。そして今日は4月1日だ。
こんな日こそ楽しまなくては。
そしてあわよくばリボーンとイチャつけたらいいのに。

「獄寺くんも出てっちゃったし、少し寝ておこうかな」

ボスになって、少しはオレも修羅場慣れしてきたようだ。
大きな欠伸をすると、仕切りの奥にある革張りのソファの上に靴を履いたままゴロリと寝転がった。


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