リボツナ | ナノ



9.あの可愛さと言ったら




面倒を見てやったことがあるといえなくもない沢田の元に、昔馴染みが転がり込んできたと聞いて、様子を覗きがてら家光から頼まれた書類を渡しにボンゴレへとやってきた。
オレの所属する門外顧問チームはまたの名をチェディフという。表向きはあくまでも取引先のひとつということになっているが本当はボンゴレのひとつであり、ボンゴレが有事の際には独自に活動できる権限を持つ機関でもある。
沢田がボンゴレ10代目を継いだことでチェディフはその役割を失ったかに思えたが、沢田の意向で継続を許されていた。
曰く、自分は信用できないから外からの冷静な判断が欲しいと。
半年先にはボスになるというのに、相変わらず欲のないというか自信のない発言に笑いが漏れる。
そういえば、沢田と知り合うきっかけになった白蘭との事件でも「ボスになんかならない!」と叫んでいた。
その当時は沢田が子供だったこともあり、また守護者たちも子供だった故にボスには向かないと思っていたこともあった。

「それも、昔の話だな…」

そう口の中で呟いていれば、執務室へ続く階段の先に見覚えのある顔を見付けて足を止める。
掛けていたゴーグルを外し、首を振って顔にかかっていた髪を掻き分けて確かめれば、その視界の先でトレードマークでもある揉み上げを揺らしながら男は口を開いた。

「どうした?コロネロの顔でも見に来たのか?」

どうしてこの男はいつもこうなのか。
別にコロネロの顔を見に来たということも間違いではない。だが、それは用事のついでであり、もっと言えば沢田の様子を覗いた後で時間があればのつもりだった。
どうにもオレとコロネロをからかいたいらしいリボーンを睨み付けてやれば、おどけたように肩を竦めてオレが隣に並ぶまで動かずに覗いていた。

「言っておくがな、オレとコロネロはそういう仲じゃない」

大股で階段をのぼりきったオレを、待つことなくリボーンは先を歩いていく。
その背中を苦い顔で眺めながらついていけば、リボーンはため息を吐きながらチラリと肩越しに視線を寄越した。

「そんなことは分かってんぞ。だが、今回という今回はてめぇらにはくっ付いて貰わねーと困る」

知ったことかと口に出しかけて、しかしこの男が素直に困ると訴えかけた事実に驚いた。

「…どういうことだ?」

何かボンゴレにとってコロネロとオレが一緒にいなければならない事情でもあるというのか。
心配になったオレは足を速めてリボーンの隣に並ぶ。

「どうもこうもねぇ…実はな、」

あと少しで沢田の居るだろう執務室の前へと辿り着く。広い廊下にはボスを守るように扉の前を屈強な体躯の男たちが並んでいた。
その男たちがリボーンを見て後ずさるように腰が引けていることを確認して眉を顰めた。コロネロも居る筈なのにたるんでいる証拠だ。
帰りに気合を入れてやるかと算段をつけながらリボーンへ顔を向ける。

「ツナが可愛くなっちまったんだぞ」

「…なんだって?」

どうやら聞き間違いをしたらしい。この男に限って、同性を可愛いなどと言うことはないのだからと首を振ってまた訊き返す。
確かに沢田は男にしては可愛らしい顔立ちをしているが、それよりも中身が可愛らしいのだ。それをこの男が理解出来るとも思えん。

「見れば分かるか…入れ」

ギィと音を響かせて開いた扉の先に足を踏み入れる。緻密な彫り細工が施された仕切りの向こうから立ち上がる気配がして、それに顔を向けて…思わず身体の動きが止まる。

「あれ?ラルじゃないか。久しぶり…!元気にしてた?」

ひょこりと顔を見せる沢田は10年前と変わないままで、ようは母親似の童顔なのだろう。柔らかい色の髪と瞳はオレを見つけて笑みを浮かべているのだが。

「お前、どうした!何があったんだ!」

「えぇ?どっかおかしい?やっぱりこのスーツ、オレには似合わないかな?」

いつものお仕着せのブラックスーツではなく、珍しく沢田に似合った色のジャケットの胸元を摘み上げて首を傾げている。
その姿すら小動物を思わせて、抱き締めたい衝動に駆られた。

「似合ってるって言ってんだろ。オレの言うことが信じられねぇのか?」

「ちがっ、そうじゃなくて…オレ、平凡だしさ」

オフホワイトって派手すぎない?と顔を赤らめているツナはもっといい。
オレの後ろに立って腕を組むリボーンに顔を向ける。思わずグッと親指を立ててから、これのことかと気が付いて視線を合わせると、リボーンはわずかに顎を引いて頷いた。

「な、なんだよっ!何2人で頷き合ってんの?ラルも似合わないなら似合わないって言っていいよ!」

やけくそ気味に叫ぶ沢田の前に立つと、目線がさほど変わらない顔を覗き込んで肩を叩いた。

「沢田……お前、なんでこんなになったんだ?」

「いや、だから何の話?」

意味が分からないといった表情でオレを見返す瞳が近い。それに気付いて狼狽えていれば、後ろからリボーンがオレの肩を掴んで引き剥がした。

「オレのせいだぞ」

そう自慢げに口を開いたリボーンを下から覗き込めば、目の前にいた沢田がリボーンの腕からオレを引っ手繰るように引き寄せる。

「リボーンはラルに触っちゃダメなんだよ!妊娠したらどうするの!」

確かにとんでもない女ったらしだが、オレはそれほど安くないと答えるより先に、後ろからクツクツという笑い声と共にとんでもない台詞が飛び出した。

「何言ってやがる。妊娠するならツナだろう?毎晩たっぷり注いでやってるじゃねぇか」

ナニをだ、なんて聞くまでもない。言われたツナの顔が見る間に真っ赤に染まり、照れと羞恥に揺れる瞳を隠すために顔を伏せた。

「沢田?」

本当なのかと問い掛けようとすれば、沢田はオレの視線から逃げ出すように手を離すと仕切りの影に隠れてしまう。
それでも信じられずに首を後ろに向けると、リボーンは楽しげに瞳を細めて沢田の影に視線を向けていた。

「そういうところが、可愛いぞ」

「知らない!知らないんだからな!」

今更否定しても、それは肯定にしかならないだろう。
多分、今なら沢田の周囲と同調出来そうだ。つまりは。

「元凶の貴様を屠ればいいんだな」

腕のガンをリボーンに向けるも、ニッと笑う顔は焦りの色さえ見て取れない。当然だ。こいつはオレより一対一の殺し合いに慣れているのだから。
どうりで獄寺も山本も顔を見せないと思っていれば、こいつのせいだったという訳か。納得しつつトリガーをぶっ放し、それから煙を立てた床を蹴って間合いを詰める。
沢田には悪いが、悪い虫は早めに駆除するに限る。
そう判断を下したオレは、コロネロとバイパーが止めに入るまでの1時間をリボーンと殺り合ったのだった。



2012.03.19







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