リボツナ | ナノ



7.惚気マシンガントーク




弟子のイーピンがボンゴレ10代目の元で暮らしていると風の便りで聞いて、様子を探るためにイタリアの地を踏んだ。

「風の匂いが変わりましたか…不思議な、温かい風だ」

殺人拳を継がせてはみたものの、彼女には別の道を歩んで欲しくなり修行の旅に出していた。
それがひょんなことから日本に辿り着き、果ては巨大イタリアンマフィアの次期ボスに養育されることとなったと手紙にあった時には心配もした。
だが、どうやらそれは杞憂だったらしい。
新しい主を迎える街は賑やかさと同時に懐かしさすら感じさせる温かい空気を醸し出している。それは彼女の手紙通りの人物だという証拠で、事実この街の治安は以前訪れた時よりいい。
隠しようのないほど異国の風体をしている私にも、おしみなく笑顔を零す人々を見てこのまま帰ろうかとそう心に決めた時だった。

「何だ、風じゃねぇか」

日課の太極拳をするために借りているホテルの近くの公園を訪れれば、野良猫に餌をやる老婆を見付けて眺めていた私に声が掛った。
久しぶりに聞いた元同僚の声に、一瞬考えてからすぐに思い出すと笑顔を向けた。

「…誰かと思えばリボーンじゃないですか。お久しぶりですね」

「あぁ、なるほど。イーピンはお前の弟子か」

私の顔を見て納得したようにリボーンは頷く。どうして彼女の名を…と口に出しかけて、すぐに思い出した。

「そういえばあなたもボンゴレ10代目に雇われたとか。フリーであることを貫いてきたあなたから見て彼の方はどんな人物ですか?」

まだ年若いと噂だが、どうやら相当やり手なのかもしれない。昔馴染みのヒットマンは自らの主義と主張だけは曲げないひねくれ者だが、人を見る目だけは確かだった。
そんな彼を従えたということが何よりマフィア界では大きな意味を持つ。
可愛い愛弟子の行く末を案じている私の顔を見て軽く顎を引くと、帽子に隠れていた瞳を楽しそうに細めた。

「バカだな。あらゆる意味でバカな奴だ。要領が悪いからボスに成らざるを得なくなって、だが少しも驕ったところがない。裏表の区別も出来ねぇから部下は友だちゴッコのままでいる。甘ちゃんの極みだが…あいつは死ぬまで変わらねぇだろ。だからみんなツナの元に集まる」

そう呟いた口元は柔らかく弧を描き、初めて見せる瞳の色は血の通った人間のものだ。
以前の、どこか暗殺人形を思わせる冷たい視線が思い出せないほどのそれに目を瞠るとクツクツと笑う。

「可愛いぞ。誰にも見せたくないほどにはな」

何かを思い出したように声を上げるリボーンと件の彼に興味が湧いた。

「とても…そう、とても愛おしいのですか?」

からかう口調で訊ねてやれば、リボーンは何のてらいもなく頷いた。

「あぁ、愛してる。バカで間抜けなところもひっくるめて全てが愛おしい」

まるで愛の告白のような台詞に驚いていれば、人の悪い顔をしたリボーンが背中を向けて目配せをくれる。
どうやら朝のさわやかな公園らしからぬ気配を纏う数人が、私とリボーンの様子を眺めていた。

「あいつの周りに人がたかるせいで、それを隙として捉える輩がこうしてたびたび訪れるんだ。分かっているのにそれでも両手を広げちまうあいつが」

猫の餌やりの老婆の気配が消えたところで、リボーンの懐から拳銃が現れる。
振り向きざまに発砲した弾丸の軌道は、オレの肩上7センチを通ると木々の隙間を縫って物騒な気配を纏う人物を貫いた。
ドサッと倒れ込む音と、こちらに向かって地面を蹴る音に私とリボーンは自らの体技と技巧を持って立ち向かう。

「好きなんだ。誰にも渡したくねぇほどに、な」

もう一発の弾が2人目を吹き飛ばした瞬間に、私の拳が3人目を捉える。急所を狙い下から抉るように脇腹に吸い込まれていくと、その隙を狙った暴漢が背後を取る。
唸るナイフの切っ先は、しかしリボーンの弾に弾かれて、次に私の足が宙を引き裂いた。

「情熱的、というヤツですか。ふふふ…君の愛情を受け止めきれますかね?」

最後の4人目が視界から消えると、言葉遊びのつもりでそう答える。
乱れた息を整えていれば、リボーンは銃を懐のホルダーに収めつつ近付いてきた。

「さすがに3日連続だとキツイみてぇだがな。今日もお前を迎えに来るつもりだったらしいが、腰に力が入らなくて立てねぇと言ってたか」

修行のことだろうか。足腰が立たないほどしごかれたのかと少し不憫に思っていると、リボーンは首を振ってニヤリ笑う。

「自分から『もっと』だの『挿れて』だのせがんだ癖にな」

修行らしからぬ台詞に首を傾げていれば、リボーンは視界の先で顎を上げるとついてくるように目配せをして公園から抜け出した。
倒れたままの暴漢たちが気になったが、私たちと入れ替えに現れたスーツ姿の男たちが頭を下げて向かっていったことを確認して安堵する。
賑やかな街中に入ると、リボーンの懐から今度は携帯電話が音を立てて鳴り響いた。

『リボーン!!今、どこにいるんだよ!?』

こちらまで聞こえてきた声に驚いて耳を澄ませば、電話を手にしたままリボーンは先ほどの淡い笑顔を覗かせる。

「どこもなにも、朝寝坊のお前の代わりに風を迎えに行ってるだけだぞ」

私への非礼に悲鳴を上げる声は、まだ年若い青年のそれで。けれど、そのどこまでも普通の青年らしい振る舞いにほわりと胸が温かくなった。

「はじめまして、ボンゴレ10代目。私はイーピンの武術の師を務めています、風という者です」

リボーンの持っていた携帯に顔を寄せてそう告げれば、電話の向こうでガタン!ドスン!と音が聞こえてきた。

『すすす…すみませんっっ!はじめまして!イーピンを預かっている沢田綱吉です!せっかくお越し頂いたのに、迎えにも行けず申し訳ありません!!』

電波を通してでも分かる、彼の実直そうな様子に微笑んでいれば、電話を持つリボーンが私から彼を遠ざけるように速足で先に進み始めた。

「大丈夫だ。あぁ、心配しねぇで早くベッドから起き上がるんだぞ?」

とまたも妙な台詞を吐くリボーンの背中を見詰めながら、どうにか横に並んだ。

「随分と仲がいいようですね…ひょっとして、昨晩は一緒だったとか?」

引っ掛かりを覚えた私は、リボーンの答えから探ろうと言葉を掛ける。
それにリボーンは帽子の奥で片眉を上げるとケロリと答えた。

「昨晩じゃなく、今朝までだがな。ジャッポーネの四十八手って知ってるか?」

「は?」

「四十八手だぞ、性技だな。あれの茶臼までシタところでツナの意識が飛んでな…さっきまで寝てたんだろう。可愛いヤツだろう?」

「っ、て…」

可愛いの意味を理解した私に、リボーンはどんな体位で顔がイイのかなどを事細かに喋り始めたのだった。



2012.03.16







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