リボツナ | ナノ



6.惚れんなよ




そろそろボンゴレが代替わりをする。オレはボヴィーノファミリーの一員だが紆余曲折を経て、何故かボンゴレ10代目の守護者に選ばれていた。
だからその日ボヴィーノのボスに呼びだされたのは、名目上だけだったオレの立場が確固たるものに変わる日の話だと思っていた。
しかし、である。
ボヴィーノのボスからその話を聞いて、取るものも取らずにここまで駆けつけてきた。
毎回、この城砦のようなボンゴレの屋敷とそれを守る門番のような構成員たちを前にすると尻込みしてしまう。けれど、今日はそれに時間を取られる訳にはいかない。
こちらを睨むように見詰める構成員たちの目を掻い潜って中に入ると、真っ直ぐにボンゴレの待つ執務室へと向かった。
一刻も早くボンゴレに会い、そして事の真偽を問い質さねば。

「それにしても、どうしてあんなヤツがボンゴレに…獄寺氏も山本氏も何故止めなかったのか」

普段はボンゴレの右腕だの親友だのを気取っている癖に、肝心なときに使えない人たちだと口の中で文句を言いつつ広く長い廊下を踏み締めていく。
そう言えば、ここへ来るときにヴァリアーのアジトらしき城が半壊していたことを思い出して首を傾げた。
彼らが負けるとは思えないが、それにしても酷い有様だった。
ボンゴレが襲われたとは聞いていないし、ヴァリアーは苦手だからまあいいかとすぐに気持ちを切り替えると、廊下の角から覚えのある茶色い頭を見つけて声を上げた。

「ボンゴレ…!」

「あれ?ランボ?」

オレの呼び声にボンゴレは首だけをこちらに向けて驚いた表情で瞼を瞬かせる。
日本人にしては随分と珍しい明るい茶色の髪と同じ色の瞳にオレだけを映している。
それに頬を緩ませて駆け寄れば、ボンゴレはオレを待つように足を止めてくれた。

「どうしたんだよ。ボヴィーノで何かあったのか?」

心配性のボンゴレはオレの顔を覗き込んで様子を窺ってくる。自分の方がよっぽどオレより小柄なのに、いつまでもオレを子供扱いするボンゴレに苦笑いが漏れた。
そんなボンゴレに首を横に振ると、今度はオレがボンゴレに詰め寄る。

「違います。オレじゃなくてあなたのことです。今朝、ボヴィーノのボスからあなたがリボーンを雇ったと聞いて駆けつけてきたんです!」

「へ?うん、そうだけど…何、お前知り合いなの?」

ぎゅっと寄せられた眉間の皺におやと目を瞠る。あいつとオレが知り合いだとボンゴレは不愉快なのだろうか。
焼きもちだったら嬉しいなとニヤついていれば、ボンゴレの視線は益々厳しくなって睨むようにオレを見詰める。
至近距離の視線に段々と顔が赤くなっていくオレを、ボンゴレは頬を膨らませて睨んだ。

「お前さ、リボーンのことどこまで知ってるんだよ?」

「どこまでって…」

結構知っていたりする。
ボヴィーノでヒットマンになるべく育ったオレは、同じヒットマンであったリボーンのことを敵視していた。
噂に名高いあいつを追い越すべく、あの手この手で突っかかっていっては…相手にすらして貰えなかったなんて誰が言えるだろうか。
しかし、今はボンゴレの守護者となって周囲の認知度もうなぎのぼりだから互角だと思っていた。

「あいつが陰険で冷徹なヒットマンだということは知っていますよ。子供の頃から嫌というほどね」

最後の台詞に視線が揺れたボンゴレに手を伸ばして肩を抱くと、それを嫌がるように叩き落とされて驚いた。

「子供の頃からって…そんなに昔から?オレと知り合うより昔ってこと?」

大きな瞳を泣きそうに揺らすボンゴレに、慌てて身振り手振りで説明をする。

「確かにあなたより少しだけ前に知り合いましたが、オレにとってはあなたが一番」

大事ですと言い切る前に、ボンゴレはオレの手をぐっと握り締めた。息遣いさえ感じられる距離にオレの心臓は早鐘を打って、身体は前のめりになった。

「なら、リボーンの好物って知ってる?」

「はい……?」

咄嗟に返事が出来なかった。
予想していなかった台詞に間抜け面を晒していれば、ボンゴレは言い募るように口を開いた。

「リボーンてね、エスプレッソが好きなんだって。甘い物は苦手だって知らなかったけど、寝る前に作ったホットミルクは美味しいって…また、今晩も作って欲しいって言われたんだ」

「はぁ…」

「だから、惚れんなよ?もうオレのだから!」

何の話だとボンゴレの台詞を一生懸命整理して、それからやっと惚れるなよに掛かる人物に行き着いて……動きが止まる。
ついでに心臓まで止まりそうになった。
間近に迫るボンゴレの顔はどこまでも真剣だ。

「って、ちょっ…マジ?!いや、それは!!」

脳内に行き渡った台詞に慌ててボンゴレを止めようとしても、オレから手を離して背を向けたボンゴレは恥ずかしそうに俯くとボソッと呟いた。

「メッ!分かった?」

全然分からないが、あいつがとんでもないものをオレから奪っていったことだけは理解できた。
久々に我慢しきれずボンゴレから逃げると、どうやら昨日から倒れていたという獄寺氏とともに泣き崩れたのだった。



2012.03.15







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