リボツナ | ナノ



3.あいつを中心に世界は廻る




久しぶりにマフィアランドから外の世界に出たオレは、どこか浮足立っているようにも見えるシチリアのとある街中を歩いて眉を顰めた。
平和だからといえばそうなのかもしれない。しかし、大きなマフィアが支配しているとは思えないこの雰囲気は頂けない。
そういえばボンゴレの世襲があるとかないとか囁かれていたことを思い出し、お世辞にもにこやかとは言えない顔を益々険しくしていった。
オレの周りを歩いていた女子供が悲鳴を上げて建物へ飛び込んでいく。
この落ち着かない雰囲気は何だ。ボスの世襲は確かに一大事ではあるが、腐っても大ボンゴレともいうべきマフィアがこれでは示しがつかない。
一度、その次期ボンゴレとやらをしごいてやらなければならならしいなと首を振って、目的の寂れたバールに足を踏み入れた。

「いらっしゃい」

愛想のない親父がボソリと声を掛けてくる。どこにでもある街の小さなバールだ。しかし昼時だというのに人の気配が感じられない。
呼びだした相手が相手だ。何があっても不思議ではないと身を引き締めながら、両脇に下げた2丁の拳銃の在り処を確かめる。
それにしても客らしい客が居ない店だと辺りを見回していると、クツクツという覚えのある笑い声が聞こえてきた。

「何、間抜け面してやがる」

「なっ!リボーン、か?」

小汚い店主だと思っていた人物の声に慌てて顔を戻すと、カウンターの奥ではやり見覚えのないくたびれた中年男がエスプレッソカップをこちらに差し向けている。

「てめぇの目は節穴らしいな。そんなんでマフィアランドで教官なんて務まんのか?」

しかし口の悪さと態度のでかさはヤツに間違いない。変装というにはあまりに馴染み過ぎている店主に近付いていくと、見覚えのある笑いを浮かべた男がそこに居た。

「いつものいやみったらしい顔よりそっちの顔の方が似合いだぜ、コラ!」

悔し紛れにそう言えば、リボーンは笑い声も漏らさずに口だけ歪めるとカップをオレに押し付ける。
趣味だというだけあるエスプレッソは、どこのバールのものより美味い。
癪に障るも逆らえずに飲み干せば、リボーンはカウンターに頬杖をついたままオレが口を開くまで待っていた。
その常にない行動に寒気を覚える。

「何だ、コラ…」

頼み事だと言われてここまでやってきた。それを伝えにきた相手がスカルという名のパシリだったから、話半分で乗りこんできたものの、本当だったと気付いて顔が強張る。
こいつとは腐れ縁ともいえる仲ではあるが、これほど真剣な顔をしたリボーンをオレは今まで見たことがない。
何事があったというのか。
つい先日仕事が失敗したらしいということは聞いていたのだが…。

「マフィアランドはどれぐらい空けられるんだ?」

やはり仕事らしいと腹をくくった。こいつの頼み事はいつも面倒で、そしてやり甲斐はある。
わざと長いため息を吐いてやれば、バールのオヤジにしか見えないリボーンはニヤリと口端を上げた。

「そうだな…2ヶ月ってところか」

「それだけありゃどうにかなる。あの守護者どもがいくらボンクラだとしても、てめぇなら十分だ」

守護者と聞いて手にしていたカップをカウンターに置くと、目の前の顔を覗きこんだ。

「守護者って、ボンゴレの守護者はオレがしごいてやる必要はねーだろ、コラ!」

厳つい面々を思い出しそう答えれば、バールのオヤジは首を横に振った。

「そっちじゃねぇ。新しい守護者どもだ」

「新しい…?ああ、今度襲名するっていうジャッポーネから来たガキたちのことか?」

ここへ来る道すがら鍛え直してやると息巻いていたことを思い出しながら訊ねてやれば、そうだとカウンターの向こうで頷いた。

「そいつは構わねーが、いつの間にボンゴレとそこまで懇意になったんだ?」

こいつはフリーのヒットマンだった筈だ。誰にも付かず、だが誰の仕事も引き受けることが主義だった男を動かしたものは何なのか。
真意を確かめるべく、リボーンの目を睨み付ける。

「…天使に逢ったんだ」

天使?天使といえば聖書に出てくる神の御使いだ。少なくとも人殺しを生業にするこいつの元には現れる筈もない。
幻覚でも見たのだろうと一蹴してやるつもりで口を開く前に、リボーンはバールのオヤジ姿のまま身を乗り出してきた。

「あいつはこの世に現れた天使なんだ!あのままだと弱っちい守護者のせいで命を落としかねない。今夜からはオレが守ってやるにしても、それでも実戦経験がないヤツらは見ているだけで不安になる…。いいか、てめぇにはそいつらを一人前にするんだ!」

「オイ!話が見えねーぞ!」

まったくもって分からないことだらけの台詞を一度整理する必要がある。
どうやらオレへの頼み事というのは、次のボンゴレの守護者たちの教育係らしいことは分かった。
しかしその守護者が仕える者というのは…どう考えても男じゃないのか。
いつの間にか宗旨替えをしたらしい腐れ縁を生ぬるい目で眺めてやれば、それに気付いたらしいリボーンが鼻で笑う。

「フン、てめぇみてーな唐変木には分からねーだろうな」

「分かりたくもねーな、コラ!」

しかし、そこまでこの男に執着される次期ボンゴレに興味は湧いた。

「どんな男なんだ?守護者もジャッポーネなのか?」

乗りかかった船だと続きを促せば、リボーンはあり得ないことを吐き捨てた。

「何でオレの天使をてめぇなんぞに教えなきゃならないんだ。ああ、守護者?知らねーな。会ったこともない」

「なにぃ!?なら、どうしてオレがそんなヤツらをしごかなきゃならねーんだ!」

色々とおかしいことに気付いたオレは、カウンターに拳を打ち付ける。

「まだ今夜で2度目だからな。1度目は現ボンゴレを仕留め損ねた夜のことで、天使以外は霞んで見えなかったんだぞ」

「って、オイ!!」

「カルカッサのボスを手土産には出来なかったが、てめぇでチャラか。まぁ、あんなショボイボスより今後を考えると」

「待て待て待て!」

どんどん妄想の世界へと入り込んでいく腐れ縁をどうにか引き止めた。

「つーか、ボンゴレとは今夜で2度目?しかも話し合いどころか、殺りにいって失敗したのか?なのに今夜会うって…どういうことだ、コラ!」

訳が分からない。
分かるのはこいつの頭がお花畑になっていることだけだ。
呼びだされたにしても、ノコノコ出ていくなんて死にに行くようなものだと何故分からない。
これは重装備で来るべきだったと頭を抱えていれば、腐れ縁はフムと顎を撫でて考える素振りを見せた。

「…なぁ、コロネロ」

「何だ」

「今夜は白のスーツで行くべきだと思うか?それともいつもの黒スーツの方がしっくりいくだろうか。赤いバラには白のスーツが映えると思うんだが…」

死に装束ぐらい選びたいということなんだろうと思うことにして、オレはバールから飛び出ると掻き集められるだけの武器を調達しに街中を駆け回ることになった。




2012.03.12







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