リボツナ | ナノ



9.




翌朝はリボーンに揺り起こされて目を覚ました。
獄寺先生のバイクが園の駐車場から聞こえて、その音で慌てて飛び起きると隣でオレを揺すっていたリボーンがフッと笑った。
子供らしくない色気の滲むそれに昨晩の狂態を思い出して顔が火照った。

「う、あ…」

女性ともまだ未経験だったのに、初めてが男というかヴァンパイアでしかも今はどう見ても6歳くらいの子供相手だったのだと思い知らされる。
上手く言葉に出来なくてこちらを見詰めるリボーンに視線を返すことも出来ずに俯いた。

「可愛かったぞ、」

「バッ、変なこと言うなよ!」

ニヤニヤとからかいの色を含んだ声でそう言われ、居た堪れなくて握っていた布団を被ろうとして驚いた。

「ちょ…なんで?!」

捲った布団の奥にはパンツしか身に着けていなかった。
しかも胸やら腿やらには血のような赤い跡がくっきりと残されていて、その数が尋常じゃない。

「獄寺がそろそろ来る頃だぞ。」

今までの行為では跡を残したように見せても肌にそれが残っていることはなかった。だというのに、今日のこれはどういう意味なのだろうか。

「まあアレだ。開通記念てヤツか、」

「ぬあぁあ!!」

とんでもないことを言い出したリボーンの口をあわてて塞ぐと、その手を取られてペロリと舐められた。
ゾクリと這い上がるなんとも言えない疼きに悲鳴を上げそうになる。
そんなオレの顔を見たリボーンは牙のない歯で指に噛み付いた。

「ヴァンパイアのお手付きだ。いくら人狼といえど、そう易々とお前を攫ってはいけなくなったんだぞ。」

「そうなの?」

指から手の甲を伝い、手首の脈まで辿り着いたリボーンは舌を這わせて執拗にそこばかりを舐め取る。
いい匂いだと以前言われたことがあるが、それは血のことなのだろうか。

「…なんで血を吸わなかったんだよ。」

「そりゃ……いや、契約だからに決まってんだろ。」

「契約って、」

話を続けようとしたところで扉の向こうから足音が聞こえ、リボーンが素早く手を離したところで扉が勢いよく開いた。

「沢田せんせ、えぇぇえ!」

「は?あ、うわぁ!」

ぎりぎり背中を向けていたからよかったようなものの、獄寺先生に上半身を見られてしまった。
手にしていた布団を身体に巻きつけると横に座っていたリボーンが懐から何やら取り出して立ち上がる。

「って、待て待て待て!それは…」

ダメだろうと言おうとした時には逃げて行った獄寺先生を追いかけて部屋を飛び出していってしまった。

「……ま、実弾じゃないだろ。実弾じゃ。」

伸ばしかけた手を引っ込めて布団から出ると横にきちんと畳まれていた洋服に袖を通していく。


遠くからズガンという音と獄寺先生の悲鳴が聞こえてきた。












「そう言えば、何で日中はこの姿なんだよ。省エネとか?」

「そんなところだな。あっちの姿だと治癒力も、身体能力も高いが変わりに日光には弱いんでな。」

獄寺先生を半死にまで追いやっていたリボーンをどうにか引き離すと、子供たちを起こして日勤の先生に挨拶をしてから入れ替わってきた。
深夜の運動のお陰で足腰が悲鳴を上げていても、どうにか踏ん張ってアパートに辿り着く。

鍵を差し込み身体を滑り込ませたところでへたり込むと、それを見ていたリボーンがケーキでも持つように軽々とオレを抱えて寝室へと運んでくれた。
見た目はチビっ子だが中身はあくまでヴァンパイアなのだ。
これでも元々の姿より劣るというのだからヴァンパイアという種族はバケモノと呼ぶに相応しいのだろう。

いくら力があろうとも小さい身体ではベッドにオレを転がす際に一緒に転がり込む羽目となる。
短い腕を忌々しそうに眺めているリボーンをぎゅうと抱え込むと一緒に布団の中に押し込めた。

「…お前、まだシタいのか?」

「んな訳あるか!寝るんだよ。寝るの!」

リボーンはオレの匂いがイイと言うが、抱き込んだ小さいリボーンの身体からは花の匂いがしてそれを嗅いだだけで浮遊感の後、すぐに意識が遠退いていった。











変わり者のヴァンパイアは領主の娘を喰らうことなく、あれから毎晩オレが火の番をしている時間に現れてはオレと話しをするだけで去っていく日々が続いていた。

「おい、間抜けな門番。今日はいい物持ってきてやったぞ。」

あんまりな言い草にキッと睨みながら振り返ると、やはりそこには小さな子供が不敵に笑みを浮かべて立っていた。
けれど、手には見覚えのある物が乗っていた。

「誰が間抜けだっ…ああ!それフロランタンとかいうヤツだろ!」

「よく知ってるじゃねぇか。」

本当に驚いたといった表情で目を丸くするヴァンパイアにムッとしながらも松明を持ったまま近付いていく。
懐かしい焼き菓子の匂いに誘われて覗き込むと、松明の光が嫌いなのかそれをちらりと横目で睨んでからオレの目の前にそれを差し出した。

「やるぞ。菓子作りが趣味な同族が持ってきたんだが、生憎と甘いモンは口に合わないんでな。その点、てめぇはいかにも好きそうな面してるから持ってきてやったんだぞ。ありがたく食いやがれ。」

「ありがとう…」

手に押し付けられたバスケットの中身を見て思わず涙が零れ落ちた。

「悪い、嬉しいんだ。本当に。母さんが生きていた頃、たまに作ってくれたお菓子だから。」

泣いてごめんな。と情けない顔で笑うとバスケットから一枚摘まれてそのまま口に無理矢理放り込まれた。
喉につかえそうになりながらも、どうにか飲み込むと小さいヴァンパイアは泣いている顔を見ないようにどこかを向いていてくれていた。

「…母親はいねぇのか?」

「うん、父さんもね。流行り病で2人とも仲良く天国に行ったんだ。兄弟も居ないし、居るとすれば父方に居るかもくらいだけど遠くに居て全然知らないんだよな。だから今は天涯孤独ってヤツ。」

そう笑うとフンと鼻で笑われた。

「てめぇはまだマシだ。オレなんざ死ぬことも出来ず、ただそこに在るだけだからな…」

本当は寂しいのだろうかと、だからオレをからかいに来るのかとやっと気が付いた。


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