5.「オイ…」 いつもより低い先生の声に肩が震える。約束を守らなかったことに怒っているのか眉間に皺が3割ぐらい増えた表情でじっとオレを見詰めていた。 上手いいい訳も思い浮かばないままバツの悪さに視線を逸らすと、頭の上からため息が落ちてきて益々顔が上げられない。 やっぱり白蘭さんと関わると碌なことがないと腹の中で八つ当たりをしていれば、オレのケータイをソファの上に放り投げて顔を近づけてきた。 「こっち向け。」 せっかく先生が休みで、誰にも邪魔されずに過ごせると思っていたのに自分の不注意でこんなことになるなんて思ってもみなかった。 言われるままにどうにか顔を上げて、ごめんなさいと素直に謝るつもりで口を開くと、何故かその口を先生の手が塞いだ。 「誕生日おめでとう。今年も来年も再来年も、ずっとオレが一番先に言い続けるぞ。」 ずっと、という言葉に涙腺が緩んでヘニョリと歪んだ眉のまま先生を見上げると先ほどまでの渋い顔は嘘だったのかというほどの笑顔を浮かべていた。 「電話は切ればいいだぞ。ツナが間抜けなのは知ってるからな。」 「うう…っ!」 ごめんと謝ろうとしてまだ口を塞がれていたことに気付く。先生の手に自分の手を重ねて剥がそうとしても強い力で抑えつけられていて喋ることが出来ない。 そうこうしている内に先生の顔が間近に迫り、額に額をくっ付けられてあまりの近さにドキマギした。 「っ、」 バカみたいに顔が赤くなって、だけど視線は外せないままジッと黒い瞳だけを見詰めた。 「食事の支度が出来たんだが…オレがいいのか?」 必死に頷くと口を塞いでいない方の腕が背中に周ってくる。 ふと流されている自分に気付いたが、たまにはいいかと内心でそんな自分に目をつぶると両手を先生の首根に伸ばした。 「何をしたいんだ?」 どうやらオレに選択権があるようだ。塞がれていた唇がやっと自由になったのに、改めて問われると素直に言い出せない。 そもそもオレがして欲しいことなんて言わなくても分かっているだろうと先生の顔を見上げるも、それ以上近付いてくる気配もなくて焦れたオレは先生の頭を引き寄せた。 「…したい。」 「だから何を、だ?」 あくまでオレが言葉にすることを待つつもりらしい先生の意地悪な唇に噛み付く。軽く噛んだだけなのにじわりと血が滲みはじめて慌てて舌でそれを舐め取るも、後から後から鉄錆びた味が溢れて必死で舌を這わせた。 先生の唇を舐めるために爪先立ちのまま背伸びをしてどうにか顔を合わせている。そんなオレの背に回されていた腕にグッと力が入って、先生との隙間が埋められていく。 あとは本能に従って先生の唇を舐めていると、その唇が突然離れていった。 「なんで、」 突然消えたぬくもりを未練がましく追うように眉を寄せて先生の唇を見詰めていると、オレを囲んだ腕は緩めないままで少し離れた位置から先生のため息が漏れた。 「何でじゃねえだろ。何がしたいって聞いてんだぞ」 「じゃあ、キ…キスして」 これじゃ足りないと熱に浮かされたように先生に顔を近づけていく。照れや羞恥をどうにか押さえながら顎を上げて瞼を閉じると、その上に湿った温もりが落ちてすぐに離れていった。 「いじわるだろ!」 「どっちがだ。本当はそれだけじゃ足りねえ癖に。」 言われて自分の下肢が昂っていることに気付かされた。それから先生の前も同じように硬くなっていることを感じてドキッと心臓が跳ねた。 昨日散々したのにまだしたいなんてやっぱり淫乱なのかと少し不安になったが、先生のせいだからと責任転嫁すると自分のそれを押し付けた。 「…昨日の続きをしてよ、」 腰に回されていた先生の手を掴むと着替えたばかりのパジャマの裾から捻じ込んで、既に膨らんでいた胸の先へと導いた。 触れられてもいなかったのに期待と少し前までの行為を思い出して硬くなっていた乳首に先生の手の平を押し付ける。身体の底から淫靡な熱がまた湧き上がって思わず声が漏れた。 先生の手だと思うと昂る自分を抑えきれなくて何度も擦りつけると余計に硬くしこって止められない。 「ん…ぁ、あっ!」 自分で動かしている先生の手に興奮していれば、背中に回されていた手がスルリとパジャマのズボンの中へと入り込んできた。 先生自ら綺麗にしたばかりの尻の間に指が割り込む。 息を飲んで指の動きを堪えるも先生自身を覚えているそこはまわりを弄られるだけの触れ方に物足りなくてヒクヒクと疼いた。 「も、いれて」 どこをどうすればイイのか知っている身体は次を欲しがって切なく震える。 胸元に押し付けていた先生の手首から手を離すと、後ろに伸びていた先生の手に自分の手を添えた。 「おねがい…」 早くと強請れば先生は指を動かすことなく口付けだけをくれる。焦れて噛みつく勢いで先生の口を塞げば上顎を舐め上げられ驚いて咄嗟に唇を離した。 「せっかくツナのために作ったケーキぐらい食べるよな?」 正直それどころじゃなかったが、確かに無視する訳にもいかない。渋々頷けば窄まりに触れていただけの先生の指が突然中に押入ってきた。 「ひぃ!」 「ココも、欲しいだろ?」 言いながら浅く抜き差しを繰り返す指に声を上げて悶えるも、すぐに指はそこから抜かれて身体を引き剥がされる。 立っていられないほど夢中になっていたオレが床に座り込んでしまうと、先生はそんなオレの頭をぐしゃぐしゃにしてから扉へ足を向けた。 「ツナの誕生日だからな、言われた通りにしてやるぞ。ああ、それから…もう一度ケータイに出たらこんなもんじゃすまさねえからな。」 「って、ええぇえ!」 白蘭さんの電話に出たことを密かに怒っていたと知らされて、やっと今までのことがお仕置きだったのだと気付く。 言葉もなく先生の顔を見上げていれば、ニヤリといつもの先生らしい笑顔が見えて思わずため息が漏れた。 でもまあ、それでこそ先生という気もする。 寛容な先生より、嫉妬深い先生の方が安心するなんてオレも大概かなと思いつつ、これで終わるのも癪に障って先生の笑い顔を見ながらパジャマのズボンと下着に手を掛けた。 「じゃあ先生が食べさせてくれるの待ってるから。」 精々挑発的に見えるように尻を突き出すと手に掛けたそれを膝まで引き下げた。 それを見た先生の目が見開かれて、それから楽しげに眦を緩めた。 「食べさせて欲しいのか?甘ったれだな…」 どうやらご機嫌も直ったらしい先生が扉に手を掛けたところで、すっかり忘れていたケータイがソファの向こうから鳴り出した。 その音に先生がチラリとこちらを振り向く。 「出ないよっ!」 ブンブンと首を横に振りながらも先生が出ていったら確認だけはしようと思っていれば、それを読んだように先生がニィと口端を歪めた。 「2度目はねえぞ。」 懲りないオレと、焼きもち妬きの先生とのこれからはやっぱり変わらず続いていくらしい。 おわり |